14:ウィルの新たなる心配
やたら豪華なだだっぴろい広間のこれまた見たこともない上等なソファに、所在なく座らされていた。
「自分には一緒に行く権利がある」と騎士団相手にも譲らなかったウィルが隣に座っている。すごく不貞腐れている。
しばらくして、今日も頭巾姿のクリスと、セリーヌ様が入ってきた。
「セリーヌ様、これはどういう事なんでしょうか?」
私は半分涙目で訴えた。
「また驚かせてごめんなさいね。子どもの頃からこうなのよ、思いつきで行動する癖がね。もうすぐ立王するんだから自制してほしいんだけど」
「?」
「ああ、私、アレクサンダー殿下の従妹だから、ずっと振り回されっぱなしで。さすがにうんざり」
セリーヌ様は、貴方からいうことあるでしょ、とクリスに目配せをする。
クリスは、さっさと広間中央の一番豪華な椅子に座る。
「マリー嬢、我が城へ、ようこそ」
そう言って頭巾を脱ぐと、よく手入れのされた金髪の髪がこぼれた。
「私が次期王のアレクサンダーだ」
えええ!?アレクサンダー殿下!!??
なんでここにいるの?隣国にいるんじゃないの?
「こんなの聞いてないんですけど」
不機嫌の塊のようなウィルが殿下をにらむ。
「そりゃそうだ。昨日のお前の言葉で思いついた案だからな。手配が間に合って良かった。『護衛は護衛しかできない』なら、つまり護衛をやめて王太子の立場でなら、マリー嬢を口説くことができるからなあ。なるほど、いい案だった」
苦虫を嚙み潰したような顔をするウィル。
パニックの私は、会話の内容が何一つわからない。
「ウィルはクリスが殿下だって、知ってたの?」
「まあね・・・騙しててごめん。以前から、時々殿下は別人に変装して、密かに国に戻っていらしてるんだ。ちょっと王宮内で厄介ごとがあって、調査が必要で。そのお手伝いをするのが僕の仕事だったんだ」
「今回は私の護衛という形をとらせてもらいましたの。殿下とウイリアム様お二人で行動すると疑われるので、私も一緒に行動しておりました。その結果、マリー様にも誤解をさせる事になってしまい、申し訳ありませんでした」
「ではシシィが狙っていたのはセリーヌ様ではなく・・・?」
「私だ。」
(やっぱりそうか。だからシシィは私が殿下の女なのかどうか、こだわっていたのか)
「護衛の変装がばれたという事だな。まあ王宮内の調査もすでに目途がついているから構わない。
今はシシィ対策が優先だ。ならもうクリスでいても意味がない。アレックスとして対処することにした」
「しかし、余計マリーの身が危なくないですか?シシィの攻撃対象である殿下の傍に置くなんて。反対です」
「シシィの雇い主、依頼の経路も見当が付いている。数日前までシシィは、雑技で日銭を稼ぐジプシー集団と行動を共にしていた。彼等に紛れて旅をすれば目立たずに国から国に移動できると思ったのだろう。シシィもその踊り子の一人だ。」
(なるほど、だからあの異国風な化粧と服装だったんだ)
「しかしシシィは、今、私よりマリーに強い関心を持っている。襲い方をみると、執着心すら感じる。コッツフェルド家にいても諦めず来るだろう。なら国で一番警備の厳重な王宮にいた方がいい。この城内部には、例え私を狙う反王政勢力の一味が紛れ込んでいたとしても、その者がマリーを狙うことはない」
「そうですね、確かに。あーでも結局丸め込まれている気がするんだよなあ・・・まさかマリーをそばに置きたいのが本音なのでは…」
「おお気づいたか」
「許せない!冗談のふりして、何考えてるかわからない所が本気で嫌だ!」
頭を抱えるウィル。
「いいか、マリー、絶対殿下と二人きりになるなよ。必ず護衛を呼べよ」
「護衛ならクリスとして私が」「もう護衛はくびになりましたよね」
「ウイリアム様、私しばらく王宮に滞在してマリー様と一緒にいますわね。殿下が、おいたしそうなら、この頭巾かぶせますわ。レース付きです」
「あのう、日光アレルギーというのは?」
「ただの顔隠しの頭巾だけど、知らない人に対しては言い訳必要でしょ?」はあ、なるほどね。
とにかく、殿下とウィルがこんなにくだけた会話をするほどの関係なのが驚いた。それほどウィルが殿下の信頼を得ているという事だ。それは、優秀さだけじゃなく、誰よりも誠実に仕事をこなしてきた証だろう。
そして、なんだかんだ言っても私の安全を一生懸命考えてくれる殿下やウィルの気持ちがとても有難い。セリーヌ様も、私を王宮で一人ぼっちにしないようにと気遣ってくれている。私はなんて恵まれているのだろうか。




