12:過去の思い出を初めて打ち明ける
「マリー、気が付いたか!?」
私は自室の寝台で目を覚ました。
ウィルが私の手を握りながら、泣きそうな顔をしている。
お父様、お母様、リアム、侍女たち、クリス、みんながひどく心配そうな顔で私の顔をのぞき込んでいる。
また、みんなに心配かけちゃった。
私が気を失った後すぐに、護衛達がかけつけてくれたようだ。
「また危ない目に合わせてしまった」
と、ウィルやクリスが謝ってくれた。しかし、もう我が家での警備では不十分だという事がわかったので、明日から、より警備体制の強いコッツフェルド家に身を寄せることになった。
私は、二人に、シシィの事について、過去から事件当日までの事すべてを話した。
初めてあの過去の事を人に話すには、時間を要した。記憶をたどり、言葉にするのは、閉じた傷跡をもう一度ひらくような感覚だった。
「マリーが別荘地からもどった頃、急によそよそしくなった理由が、よくわかったよ。辛かったね、とか、そんな簡単な言葉を、僕がいっていいのかもわからない」
背中を優しくなでてくれるウィルの手が温かい。
「もしかして、その事がきっかけで、鍛錬を始められたのか?」
考え込んでいたクリスが問う。
「はい。何かに打ち込んでいたかったのが一番の理由ですけど。シシィを助けられなかった自分が、どうしても許せなかったんです。もう、いやなんです。助けてって叫ぶ手をとれなかった、あんなのはもう・・・」
ウィルがぎゅっと肩を抱いてくれる。
「辛い事を思い出させてすまなかった。でも、あなたは、充分強い。あなたが思うよりも。傷ついてその場に座り込み続けるのでなく、必死に前に進んだのだろう。学園でシシィに立ち向かっていたあなたは、美しかった。あんなに目を奪われた女性は、初めてだ」
私を挟んでウィルと反対側にいたクリスは、私の側で跪いた。私の首の包帯をそっとなで、その指で、私の顎を軽く持ちあげた。頭巾の隙間から覗くクリスの目の色は、懐かしいような穏やかな色だった。
「貴女は本当に美しい」
「何やってんだ」
ウィルが怒りを込めてクリスの手を叩き落とす。
「マリーは、僕の婚約者なんだ。触らないでいただきたい!」
「おっとこれは失敬。綺麗な女性はつい口説く癖がありまして」
「護衛は、護衛だけしていてください!」
「なるほど・・・護衛だから護衛しかできないと」
「当たり前だ!」
クリスは「ちょっと用事を思い出したので、これで失礼します。では明日」
と言ってさっさと帰ってしまった。
ウィルは大きなため息をつく。
「あーもうーあいつ本当やだ。ずっと嫌な奴なんだよ。しかもマリーを口説こうとするなんてありえない。コッツフェルド家に行ったらまたあいついるんだよな、マリー、絶対二人きりになるなよ。ちゃんと護衛を呼べよ。」
「いやあの人護衛だから」「くそっ、さっさとシシィ捕まえてマリーを連れ戻す!」
子どもっぽいウィルに笑ってしまう。
「心配してくれて、ありがとうね」
「あの頃、急にマリーが遊んでくれなくなった頃、マリーは僕としゃべってるのに、マリーの目に僕が映ってない気がして怖かったんだ。誰かほかのものを見ているようで。お願い僕を見てってずっと思ってた。シシィが君の中にいたんだね」
そっと私の手の甲に口づける。
「これからは、僕をみてほしい。今度こそ必ず、君を守るから」
ウィルは、いつの間にこんなに男っぽくなっていたんだろう。
ずっと弟みたいに接してた分、慣れなくて余計気恥ずかしい。
ウィル、かっこいい。子どもっぽいウィルも可愛いくて、いい。
赤くなった顔を見られるのがはずかしくて、うつむきながらウィルの肩に頭を寄せた。
「ありがとう。私ね、ウィルがいてくれて、本当によかった」
ウィルの身体から妙な振動を感じて頭を上げる。顔を真っ赤にして感極まったように震えている。
「は、初めて、マリーに甘えられた・・・・!」
そんな大げさな。でも考えてみたら、確かに、ずっとバタバタしてて、ウィルと二人でゆっくりする時間もなかったな。
「もっと一緒にいたいけど、今日は大変だったから、もう帰るよ。ゆっくり休んでね」
ウィルはそっと私の頭の上に口づけをして、部屋を出て行った。
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寝台にあおむけになってもなかなか寝付けなかった。再びシシィの事に思いをはせる。
部屋の窓をみると、板が設置されていて、もう誰も侵入できないようにしてある。
シシィは生きていた。また会えた。
でも、まさか人の命を平気で狙うような人間になっていたとは。
楽しそうに人の首を締めるような人間に。
怯えていたあの小さなシシィが。
あの後、一体どれだけの人生があったのだろう。
生きていくために、どれだけのことが・・・
あの時、変えられたのだろうか。
もし、私にシシィの手を取って逃げる力があったのなら。
『 助けて、マリー 』
かつてのシシィの悲痛な声と、先ほどの相手をいたぶるようなシシィの声と、二つの声が絡み合うようにして、ずっと頭の中に響いていた。




