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アメリカ都市文化体験研修(2)

 紗良、飛鳥、瑞鶴(みつる)の乗り込んだシボレー・タホはユニオンステーションを出発し、片側3車線の広々とした道路を進んでゆく。


 最初に訪れたのはファイナンシャル・ディストリクトだ。天を突くような高層ビルと、道路に面した1階にはお洒落なカフェ。まさに憧れのアメリカンビジネスライフといった感じだ。


 目を閉じ、感覚を研ぎ澄ました飛鳥が


「ビルの中から何体か、魔物の気配を感じる」


 と告げるが、今はどうすることもできない。瑞鶴はビルの場所だけを記録し、あとでキャリーに報告することにする。


 シボレーはいったんユニオンステーションへと戻り、そこからリトルトーキョー地区へと入った。リトルトーキョーは歴史的に日系人が多く暮らしていた地区であり、今でも日系の書店が大きな店舗を持っている。


 最初は物珍しげに街の光景を眺めていた3人であったが、次第に建物の破損や汚れが目立ち始め、違和感を抱く。道路脇にはビニールシートで作られた簡易なテントがいくつも現れ始めた。


「ここから危険な区域に入る」


 いかつい運転手、ミスターダゲットが3人にゆっくりと告げた。外国人慣れしているらしく、わかりやすく発音してくれたようだ。いかつい外見に似合わず、繊細で優しい人である。


 3人が乗ったシボレーは、夜に決して行ってはならないと言われている地区、スキッドローに入っていく。シボレーがゆっくりと進んでゆくと、いつの間にか、周囲は異様な雰囲気となっていた。


 路上に寝転ぶ人。


 中腰になりじっと動かない人。


 フラフラと歩いている人。


 大声で叫んでいる人。


 ミスターダゲットによると、スキッドローは以前から治安の悪い区域ではあったが、近年、強力なドラッグの流入により、ゾンビーとしか形容のできない人々が増えたのだという。


 飛鳥はウインドウ越しに異様な光景を漫然と眺めていた。ホームレスと思われる人々の大半から瘴気を感じたが、人間は多かれ少なかれ瘴気を持っている。危険と言えるほどでは無かった。


(父さんは瘴気の急激な変化に注意せよといっていたが、急激な変化など……)


 飛鳥は道端に立ってじっと動かない男が気になっていた。男の発する瘴気の気配は決して強いものでは無かったが、大きく膨らんだり縮んだりを繰り返していたのだ。


 男が突然、激しく震えだした。不安定だった瘴気の気配がねじくれ、裏返り、急速に魔物としての気配が膨れ上がった。


「あの黄色いTシャツを来た人、何かおかしい!」


 飛鳥の指さした男の眼窩から真っ白に濁ったピンポン玉のような目玉が眼窩を割ってせり出した。


「ア゛ア゛~」


 男は苦痛とも歓喜ともつかない叫び声を上げると、すぐ横にいた別のホームレスに噛み付いた。


「ミスターダゲット、車を止めて、トランクを開けて!」


 瑞鶴の声にシボレーが路肩に停車した。ミスターダゲットがフロントパネルを操作するとトランクルームが開き、瑞鶴が脳波コントロールする6機のドローンが次々に飛び出していった。


 ドローンは魔物化した者とその魔物に襲われた者の周囲を取り囲むと、彼らの頭上で旋回を始めた。


「いま魔物忌避モードにしてる。ドローンが作る円周の結界の中からは魔物は出られない」


 魔物に噛みつかれたホームレスも白目の魔物と化していた。


 2体の魔物は、まるで目に見えない壁に阻まれているように、ドローンが作る結界から出ることができずに、両手を前に出してぐるぐると同じ場所を動き回っていた。ハリウッド映画のゾンビーそのものである。


 紗良がシボレーを降り、バタムとくぐもった音を立ててドアを閉じた。今日の紗良はちびTシャツとデニムの出で立ちだ。ぴったりフィットした上下が、紗良のスタイルの良さを気持ちよく際立たせていた。


 紗良はそのまま、結界を踏み越えて、白目の魔物に無造作に近づいた。


 白目の魔物が発作的な動きで紗良に襲いかかったが、紗良に焦った様子はみじんも見られない。魔物の伸ばした両手を確実にさばき、魔物の胸に左手を当て浄化魔法のプッシュを送り込むと、魔物がアスファルトに崩れ落ちた。


 もう1体の魔物は両手を背中に回されて、背中から浄化魔法をかけられた。この程度の魔物であれば、紗良にとって制圧は児戯に等しかった。

このお話これからどうなるんだろうと、少しでもワクワクしてもらえてたら嬉しいです。

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