アメリカ都市文化体験研修(1)
翌朝、愛はホテルの一室で目が覚めた。ベッドはふかふか。昨晩までの時差ボケと疲れは綺麗さっぱりと無くなっていた。手早く身支度を済ませると、ロビーで友人たちと待ち合わせ、簡単な朝食を摂った。
1月初めのロサンゼルスは、少し寒いがからりと晴れた爽快な朝であった。それぞれにジャケットを羽織ると、留学受け入れ先のハイスクールへと元気に出発し、意気揚々と現地の生徒達に混じって授業を受けた7人娘だったのだが……
当然だが英語が聞き取れない。それにもかかわらず、先生からはバンバンと発言を求めらる。精神をすり減らしながらなんとか午前の授業を終える頃には、皆の顔からは朝の元気は嘘のように消えていたのであった。
昼休みを告げるブザーが鳴った。これで一息つけると思いきや、今度は現地の生徒達から質問責めにされた。
「コニチワ!」
「日本人? 東京から来たの!?」
「俺、芸者さんとゲームしたことあるよ」
「普段どんな服着るの?」
「……マイエンジェル♡」
10数分後、愛達は教室にまで迎えにきたキャリーに無事救助され、昨日と同じ黒くて大きい車シボレー・タホに乗り込み、ダウンタウンへと出発した。サンドイッチの簡単なランチを車内で済ます慌ただしさだ。
午後は「アメリカ都市文化体験研修」という名目の、ダウンタウンの魔物調査が予定されていた。
市内の中心部に位置するユニオンステーションに到着すると、早速、愛達は2手に分かれて市内の探索を開始した。1つのチームに魔物を感知できるもの、浄化を使えるもの、念話を使えるものを1名づつ配置すると愛、志津香、花梨、明奈、キャリーの徒歩チームと、紗良、飛鳥、瑞鶴のシボレーチームへと自然に分かれることになった。
志津香は愛と同じチームになれて終始ご機嫌であるが、飛鳥は志津香と同じチームになることができず不満げであった。かといってロス市内を竹刀を持って歩くことはオススメできないわ、とキャリーに言われてはどうしようもない。同様な理由でドローンを武器とする瑞鶴もシボレーチームだ。
飛鳥はアメリカに来て新スキル、ハグを体得したらしい。志津香と長めにハグをして、志津香成分を存分に補給してから元気にシボレーに乗り込んだ。
シボレーチームの出発を見送って、愛達4人とキャリーはユニオンステーション内のホールへとやってきたのだが……
まあ、なんという壮麗な美しさか!
白い壁。アーチ構造。大きな空間。レトロな照明。床の幾何学模様。実利一辺倒の日本人には決して思いつかない美しさに、しばらくのあいだ、4人は声もなく見惚れてしまった。
しかし、ここに来た目的はあくまでも魔物の実態調査だ。4人は気持ちを切り替えて周囲を見渡す。一見すると、ホール内はビジネスパーソンの往来する活気に満ち溢れているが、すぐに志津香が一人の若いビジネスパーソン風の男性に気がついた。
「――あの男の人から、弱いけど魔物の気配を感じる。鑑定!」
【ステータス】
名前:イーサン スミス
種族:ハーフゾンビー
職業:-
称号:変容せしもの
レベル:1
体力:10 / 10
魔力:5 / 5
力:5
俊敏:5
装備:-
スキル:交渉術、文書処理、プレッシャー耐性
「キャリーさん、あの人、ハーフゾンビーだって。激弱だけど、どうする?」
「浄化して!」
志津香がキャリーに指示を仰ぐと、即座に答えが返ってきた。愛が少し離れたところからミラー氏に浄化魔法を飛ばした。愛の浄化魔法を受けたミラー氏は、雑踏の中、呆けた表情で一瞬立ち止まり、頭をふると、再び歩き始めた。きっとリフレッシュした気分で、今日一日を健康に過ごすことだろう。
「魔物化って、コロナやインフルみたいなものなの。瘴気を吸ったからといって即、魔物化するわけではなくて、人によって発症のタイミングが違うみたい。瘴気をたくさん吸っても平気な人もいれば、すぐに魔物化する人もいる。志津香は相当、平気なタイプの人だったみたいね」
4人はコーヒーショップでの休憩中、キャリーは魔物化について分かっていることを教えてくれた。
「1人が魔物化するとドミノ倒しみたいに周りの人達が次々に魔物化しだすこともあるみたい。これはアウトブレイクって呼ばれてるの。中途半端に魔物化した人を無害だからといって放っておくと、その人が歩き回ってそこら中で魔物化を引き起こすこともあるのよ」
ユニオンステーションには結局2時間ほど留まったが、その間にハーフゾンビーやハーフ吸血種の中途半端に魔物化した人々、数多くの吸血種の弁護士を発見し、浄化することになった。
「こんなに吸血種の弁護士がいるなんて……」
キャリーは呆れて視線を上げて嘆息した。
次に愛達のチームが向かった先はオルベラストリートである。オルベラストリートはある意味、今治銀座アーケードとは真逆であった。まるで裏通りのような狭い道が大勢の観光客で賑わっているのだ。両側には南米風の様々な小物やお土産を売るお店、タコスを売る売店などが立ち並んでいた。
広々とした今治銀座アーケードと、ゆっくり歩くキャリーケースのお婆ちゃんを懐かしく感じてしまった明奈であるが、それも一瞬のことで、食欲に負けて早速タコスを買っていた。英語もスペイン語もできない明奈であるがコミュ力は抜群で、タコスをひとつおまけしてもらったようだ。
「むっちゃ美味しいわ。花梨も食べてええで」
「あむ!? これってアボガド? 美味しい!」
オルベラストリートで愛達はスマホで写真や動画を撮影したり、屋台の食べ物を買い食いしたりと楽しい時間を過ごしたが、ここでは志津香は魔物の気配を感じることはなかった。外国観光客の多いオルベラストリートには魔物化した人はいないようだった。
このお話これからどうなるんだろうと、少しでもワクワクしてもらえてたら嬉しいです。
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