クリスマスイブの浄化
曲が一巡しふたたびイントロが流れ出した。7人はイントロのバウンスから、Aメロのクラブステップ、ハッピーフィートへと丁寧に繋げてゆく。
(0.61! いい感じよ!)
志津香の念話が響く。Bメロに入ると同時にまずは後列の3人がサイドウェーブ、2カウントずれて前列の4人のサイドウェーブが続く。動きが連鎖してステージ全体に波のようなうねりを生みだし、7人のグルーブが乗り移ったかのように自衛隊員達の体も自然にグルーブを始める。
最初のサビに入ると7人は一斉にクロスハンドしながら横一列にフォーメーションを変えてゆく。次は花梨と明奈の見せ場だ。2人は前に出ると大きく激しいインディアンステップ。オーディエンスも大いに盛り上がる。全員でブルックリンにステップをスイッチし、更にフォーメーションを組み上げて愛を頂点とした∨字へと展開する。オーディエンスも巻き込んだステージ全体の熱量が愛に集中する。
(0.67!)
間奏に入ると愛達の定番、ヴォーギングだ。瞬間的にブレインシンクロがドロップする。しかしこれは想定内。手の動きのしなやかさを意識しながら一人ひとりが全員の動きに同調してシンクロ度を高めてゆく。愛、紗良、志津香の3人が前に出て、モデルのように歩きながらヴォーギング。
「0.70! もっと〜っ!」
興奮した志津香の声が念話ではなくスピーカーから出力されてしまっていた。これが却ってヘリポートの全ての人々にボルテージの上がった志津香の波動が伝わることになって、オーディエンスのノリをいやが上にも押し上げる。
2回めのサビに入った。7人は再びブルックリンで∨字フォーメーションを組み上げる。合間にジャンプ。再びブルックリン。7人とオーディエンスのノリが最高潮に達した。この瞬間、シンクロ度は0.77。今を逃せば二度とは来ないクライマックス!
「愛っ!!」
志津香の合図で、愛が大規模浄化魔法を発動した。膨大な愛の力が放出されてゆく。オーディエンスの自衛隊員には愛が光り輝いてみえた。愛の光はオーディエンスを、ヘリポートを、ビルを包み込み、さらに外側へと広がっていった。
浄化魔法はピンクシルバーの輝きのカーテンとなり、大手町を飲み込み、さらに外側へと広がってゆく。
愛の持つ瑞々しい生命力が吸い出される。ほんの刹那、愛は自分の生命力が枯渇してしまうのではないかと恐怖する。だが、すぐに波動で一体となった6人の生命力が優しく愛を満たした。愛は一人ではなかった。この大規模浄化魔法は7人が一体となって発動させた宇宙の奇跡だった。
愛は両膝に手をつき、肩で荒く息をしていた。額からは滝のような汗が流れ落ちていた。だが、まだ終わってはいなかった。愛は最後に大事な一言を言わなければならなかった。
「――みんな!! えんじょ~い?」
「えんじょ〜い!!!」
周りから一斉に、これまでにない熱いレスポンスが返ってきたのだった。
*****
鬼女は締め上げていた手を緩め、意識を失った警官を道端に投げ捨てると、新橋の街を歩き出した。鬼女の後方には警官や一般の人々が倒れていた。あるものは気を失い、あるものはうめき声を上げていた。鬼女は全ての人間が憎かった。
やがて鬼女は日比谷通りとの交差点に出た。周囲には乗り捨てられたタクシーや一般車両が放置されていた。それら車両の後ろに小銃を持った人間たちが隠れていた。その中のひとりが鬼女に声をかけた。
「こちらは陸上自衛隊です。抵抗はやめ、両手を上に上げなさい。指示に従わない場合、武器を使用します」
鬼女は歯をむき出して笑った。警告を一顧だにせず、声を発した人間に向かって歩き出した。陸自の小隊長がもはや発砲やむなし、との判断を下したその時、あたり一帯をまばゆい光が包み込んだ。
憎しみに満ちていた鬼女の心にやさしい光が差し込んだ。光は、鬼女の心を覆いつくした闇を切り裂いて、奥底に閉じ込められていた優しい心に手を差し伸べると、一気に意識の表面へとすくいあげた。
光が消えた時、そこにはぼろぼろのブラウス姿の裸足の女性の姿があった。女性が道路上に倒れると、自衛隊員達が救助のために駆けつけたのだった。
*****
UH−2のコックピットでヘッドセットに耳を傾けていたヘリの搭乗員が声を上げた。
「通信が乱れ飛んでいますが、魔物が一斉に人間に戻ったようです! 確認を続けます」
自衛隊員達から歓声が上がっていた。ヘリポート上の即席ステージでは愛達がアキ先生からの念話に耳を傾けていた。
(みんな。ご苦労さま。あなた達は今夜本当に大勢の命を救ったのよ! GHOOBの機械知性が追加の連絡をGHO支部に送ったようね。これで東京への攻撃もキャンセルされるわ。それに……すごいわ。10,000体以上の魔物が一度に人間へと戻ったわ。こんなこと銀河文明の歴史で初めてのことよ! これ、報酬がすごいことになるわよ……。みんなにも分かるように通知を転送するわ)
すぐに抑揚のない女性の声が聞こえてきた。
<報酬獲得のお知らせです。10,000体以上の実体を持った魔物の消滅を確認しました。現時点での概算は1,000,000ギャラ以上。正確な報酬を更新中……>
魔物を討伐するとギャラが貰える。それはいいのだが、愛にはいまだにギャラというお金がよく分からない。貰ったところで使い途がないのである。
「アキ先生、結局ギャラって何なんですか?」
アキ先生からはしばらく返事がなかった。
「……アキ先生?」
しばらくの沈黙のあと、アキ先生の念話が届いた。いつもは冷静なアキ先生が興奮していた。
「愛っ! 洋子の…あなたのお婆さんのお姉さん、帰ってくるわよ! メリークリスマス!!」
これで2学期編は終了となります。
次回はいったん1945年8月6日の今治となり、その後に3学期編へと続きます。




