サバトの夜(1)
今宵はクリスマス・イブ。
明奈、飛鳥、瑞鶴達3人が暮らす今治銀座のシェアハウスには、愛、志津香、花梨が訪れていた。花梨と明奈がとにかく生クリームを大量に食べたいという話で盛り上がり、愛、志津香、飛鳥、瑞鶴も巻き込んで、シェアハウスで盛大にクリスマスパーティーを行うことになったのだ。
市販のクリスマスケーキの値段は高い。お金もない女子高生達はケーキを自分達で作ることにした。作る、といっても、スポンジケーキに生クリームを塗って缶詰のフルーツを盛り付けるだけなのであるが、カロリーを気にしなくていいのはJKの特権であるとばかりに、生クリームとフルーツを大いに盛り付けて、時につまみ食いをしながら作ってゆく過程が楽しく、わいわいと夕方の時間を過ごしていた。
だが、唐突に、6人の楽しい時間は終わった。
<こちらGHOオービットバージ、臨時職員を含むGHO全職員に緊急連絡。本船の担当区域においてフェーズ2のアウトブレイクを確認>
突如、抑揚のない男性の声が6人の耳に聞こえていた。男性の声にはヘッドホンから聞こえるような不自然な明晰さがあった。皆で顔を見合わせた。男性の声が続けた。
<訂正。本船の担当区域においてフェーズ3のアウトブレイクを確認。繰り返す。本船の担当区域においてフェーズ3のアウトブレイクを確認>
皆、色を失っていた。今この瞬間、地球規模で、恐ろしい何かが進行しているという漠然とした、だが強い不安感があった。
<発生区域は東京を中心とする半径50kmの地域、発生日時は現地時間12月24日17時35分、軌道上からの観測による発生個体数は10,000体以上。増加中。1ヶ月以内にフェーズ4に移行する可能性は非常に大きい。本状況の対応は本船の機械知性の権限を逸脱する。本件はGHO支部にエスカレーション済み。以上>
それっきり、聞こえたときと同じ様に、男性の声によるアナウンスは唐突に聞こえなくなった。
「なあ、これって……」
と明奈が言いかけた時、今度は理性的な落ち着いた女性の声が聞こえた。
(こちら、エルデリアの賢者アキターレス。地球の子供たち、今から私が話すことをよく聞いて下さい。東京で瘴気水の大量摂取が原因と考えられる大規模な人間の魔物化が進行しています。 先日、野間先生が魔物化した状況と酷似しています)
誰も声を発することができなかった。魔物化した野間の姿は、それを見た全員の脳裏に生々しく焼き付いていた。
(先程の男声のアナウンスについて、要点だけ説明します。魔物の発生を監視しているGHOと呼ばれる組織からの放送です。フェーズ3のアウトブレイクはコミュニティレベルで複数の実体化した魔物の発生です。現在、GHO支部の判断待ちですが、おそらくは東京全域が殺処分の対象となります)
(そんな! 殺処分って……、人を殺すってことですか!)
志津香の抗議に対し、アキ先生が淀みなく答えた。
(ええ、そうよ。GHOは冷酷な組織よ。志津香、あなたも殺処分の対象になっていたかも知れないのよ)
しばらく志津香の念話が途絶えた。
(私が、魔物化した時……)
(ええ、あの時、愛と紗良がすぐに浄化してくれたから助かったのよ)
(でも、でも、どうやってそんなことを……)
(4ツ首大蛇事件の時の、爆熱火炎煉獄という魔法を憶えているわね)
(……)
(もう虚構は不要ね……。あれは静止軌道衛星からの2次放射器の最小火力による攻撃。今回使用される1次放射器による攻撃力はあのときの100倍以上よ。標的地域の周囲を円を描くように焼いて炎の壁を作り、その内側を掃引照射するの。太平洋戦争でカーチス・ルメイが行ったのと同じことをより大きな規模で行うのよ)
いつのまにか6人は、お互いに手をつなぎ、声もなく身を寄り添いあっていた。
(ショックなのは理解します。だけど、今から私がいうことを良く聞いて下さい。東京の人々を救うことができるのは、あなた達しかいないのだから。この間、ドンドビ交差点で発動させた大規模浄化魔法、あれをもう一度やってもらいます。愛を中心として、あなた達全員の力で大規模浄化魔法を発動することで、東京の魔物化した人たちをもとの人間に戻すことができるはずよ)
志津香が力づけるように愛の手を握り、愛の目を見つめた。愛は志津香に頷き返すと、勇気を振り絞って声をあげた。
「…アキ先生、GHOが東京を攻撃するまで、どれだけの時間がありますか?」
(地球からの連絡がクーリエドローン便で最も近いGHO支部まで届くのに大体1日。指示が戻ってくるまで1日。合計2日ってところね。時間はあるわ)
アキ先生の念話が答えた。
(さっき私はGHOは冷酷な組織といったけれど、GHOの現場で働く人達は、今悲劇を食い止めようと必死に動いているわ。自衛隊のヘリがあなた達を迎えに来るから、それに乗ってすぐに東京に向かって。それで、明奈! 飛鳥! 瑞鶴! 聞こえてるわね!!)
明奈達3人は急にアキ先生に名指しされ、飛び上がるほど驚いた。
「「「はい!」」」
(あなた達が最近、ダンスの練習をしているの、私は知ってるのよ。今日はあなたたちにも踊ってもらいますからね)
このお話これからどうなるんだろうと、少しでもワクワクしてもらえてたら嬉しいです。
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