VS 隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)(2)
(どれ、お前さんを私の色に染めあげてみようかい。まず服を脱…)
ドドドッ
という音とともに、隠神刑部が後ろにのけぞった。3人が顔を上げると、交差点向かい側、伊予銀の2階の窓から、スナイパーライフルのようにマジシャンズステッキを構えた志津香の姿があった。
同時に、八百八狸軍団の包囲網の一角が崩れた。
「トルネードヨーヨー!」
愛が右手を天高く上げて、爆裂ヨーヨーをモーニングスターのように振りまわすと、八百八狸が次々と爆散していった。
「爆裂ナックル!」
「爆龍脚!」
そのすぐ後ろから、紗良と花梨が現れた。志津香が伊予銀の2階から飛び降りて合流すると、4人は八百八狸たちを蹴散らしながら、明奈、飛鳥、瑞鶴を縛り晒していた丸太を確保した。
花梨と志津香がすぐに縄を切り払い、3人を助け下ろした。力なく路上に座りこんだ飛鳥の背中を志津香がさすった。
「お待たせ。遅れてごめんね。作戦通りに捕まってくれてありがとう」
「私、もう少しで脱がされるところだった……」
「ウチらの演技、なかなかやったやろ? 感情込めようとして、タヌキのお妾さんになるところ、リアルに想像してしもうたわ!」
一体何を想像したのか、明奈が身震いした。
「でも、瑞鶴はなんで罠だって分かったん?」
「縛られてるお婆ちゃん、キャリーケースのお婆ちゃんと顔がおんなじだったから、タヌキが化けてるってすぐにわかったよ」
罠と分かった時点で、志津香と瑞鶴は念話で相談し、この八百八狸の背後に隠神刑部が潜んでいる可能性に思い当たり、隠神刑部をおびき出して退治する作戦を立てたのだった。志津香が道路に横たわった隠神刑部を見下ろした。
「こいつが隠神刑部……」
(おや、お前さんがサキュバスかい?)
隠神刑部がカッと両目を開いた。不意を突かれ、志津香は隠神刑部とまともに目を合わせてしまい、金縛りに掛かってしまった。志津香の額に汗が滲んだ。
「…うごけ…ない?」
(いい女じゃあないか。ゴブリン風情には勿体ないねえ)
隠神刑部がゆっくり体を起こした。尻についた砂を両手で払い、その汚い手で志津香の顔や体のあちこちをいやらしい手つきでまさぐった。
(肌も綺麗だし、肉付きもいい。これは上物だよ! ゴブリンの奴が私から隠したがった理由が分かるってものさ。あのゴブリンは、お前さんを上手く隠しおおせたまま、あの世に逃亡して、してやったり!と思ってるだろうけど、なあに、私の目にはお見通しさ。お前さんは私の専属メイドにして上げましょう。あのおぼこい娘は味見だけして、タヌキ共にくれてやることにして。ひっひっひっ。ほれ、お前さん、服を脱ぎな!)
隠神刑部が命じると、志津香は震える手でジャケットのボタンを外し始めた。ジャケットのボタンを全て外すと、つぎはブラウスのボタンを外してゆく。好色な隠神刑部はその様子を間近で鑑賞する。
(いい話をしてやろう。あのゴブリンは自分からあの世に逃亡したと思ってるだろうけどね、あいつが自分から死ぬように暗示を与えたのは、この私さ。あいつと私じゃあ、魔物としての器ってものが、違うのさ。器ってものがね!)
志津香の手が止まった。
(おい、何やってんだい、早く脱ぐんだよ! お前さんは私の愛玩動物なんだよ!)
隠神刑部が志津香を打とうと腕を振り上げて、そのままの姿勢で固まった。いやらしい笑みを顔にへばりつかせ、口も開いたまま、隠神刑部の体が震えだした。
(うごかない、私の手が、これは一体どういう……)
「先行者は、高潔な魂を持っていたわ」
(おま、え…な…)
「誰が喋っていいっていったかしら?」
(っ………)
隠神刑部の顔から口が消えた。志津香が消したのだ。
「お前が先行者を語ることは許さない。お前にはその資格がない。先行者の魂は、お前には決して理解できない高みにあったわ。たとえお前が彼の心を支配できたとしても、彼の魂までは支配できなかった!」
志津香はいつの間にかゴスロリ服を着ていた。手に持った黒い日傘の先を隠神刑部の眼前に突きつけた。
(…!)
「そうよ。ここはお前の汚い心の中。最初からずっとね」
志津香が微笑んだ。美しく冷たい笑みだった。
「お前は今から地獄に行くけど、最後に素敵なショーを見せてあげる。誰かを愛することも、誰かから愛されることもなかった惨めなお前が、地獄へと持ってゆくスーベニアとして、ね」
*****
ほんの一瞬、動きが止まった志津香を、明奈が不思議そうに見つめた。
「志津香さん、どないしたん?」
「ん? 何でもないよ。この大きなタヌキ……こんなところで寝っ転がって、本当に迷惑なタヌキだね!」
このお話これからどうなるんだろうと、少しでもワクワクしてもらえてたら嬉しいです。
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