VS 隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)(1)
人質に化けていた八百八狸たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
3人娘はドンドビ交差点の真ん中に取り残され、その周りを両手にバチを持った八百八狸の軍団が取り囲んだ。どこかに隠れていたのであろう、その総勢は200匹を優に超えていた。
その中にひときわ巨体で太鼓腹の、白い毛が混じった古ダヌキがいた。古ダヌキは光沢を放つ天然木の杖を手に持ち、3人娘を凝視していた。瑞鶴は即座に魔物辞典で検索する。
「あの大きいタヌキ、隠神刑部っていうみたい。八百八狸の総大将なんだって」
「なんかイヤ〜な予感がしてきた」
「魔物辞典には、あの杖から魔法を出してくるって書いてある。気をつけて」
四面楚歌のなか、3人娘は自然に背中合わせとなっていた。明奈の位置からは、柳橋の下からどんどんとタヌキ達が包囲網に加わっているのが見えた。
「あそこ見てみい。どんどん新しいタヌキが出てきよるで」
「この間、がしゃどくろが発生したのもあそこだったな。ということは」
飛鳥の言葉を瑞鶴が引き継いだ。
「多分あそこにゲートがある、ってことだね」
包囲網を完成させた八百八狸軍団であったが、一向に攻撃を仕掛けてこようとしなかった。飛鳥が白銀剣の構えを解かずに背後の2人に話しかけた。
「なぜ、奴らは仕掛けて来ない?」
「いま、ドローンに装備したナイフを魔物忌避モードにしてる。魔物忌避モードにすると魔物は嫌がって近寄って来なくなるんだって。初めて使ってみたけど、効いてるみたい」
飛鳥が視線を上に向けると、6機のドローンが3人の頭上で、半径5mほどの円を描くように周回していた。
「ドローンはあとどのくらい動ける?」
「……5分くらいかな」
しばらくすると、一機、また一機と、ドローンが地上へと着地しだした。それから最後のドローンが着地するまではあっという間であった。八百八狸たちを率いた隠神刑部はじりじりと包囲網を狭め、着地したドローンを避けるように、3人娘へと近づいていった。
全身に力を溜め、最後の死闘に備えた3人の前に、まるで緊張感というものがない隠神刑部が、太鼓腹を震わせながら、
のっそり
のっそり
と歩みでた。隠神刑部は3人娘の攻撃のリーチより手前で止まると、右手に持った天然木の杖を高く掲げ、いっきに振り下ろすと、アスファルトに杖の先があたる
カン!
という乾いた音とともに、3人の体から力が奪い取られ、その場にへたり込んでしまった。
周りから手下の八百八狸が進み出て、あれよあれよという間に縛り上げられ、どこからか持ってきた1本の丸太棒に3人娘は背中合わせにくくりつけられ、ドンドビ交差点の真ん中に立てられて晒し者にされてしまった。
あっという間の敗北劇だった。
「なあ……、ウチら、これから、どうなるん?」
「魔物辞典によると、タヌキのお妾さんになるんだってさ」
「なっ、タヌキのお妾さん?!」
「出世したら、隠神刑部の奥さんになれるんだって」
「……絶対、嫌だ」
隠神刑部が太鼓腹をゆすりながら、再び3人の前に現れた。自分の策が首尾よく進んで満足げな総大将の顔だ。
隠神刑部は3人の体を値踏みするように順番に眺めつつ、時折確かめるように、杖で捉えた獲物の体を突きながら、丸太棒の周りをゆっくりと回った。やがて、隠神刑部から暗い、脂ぎった粘着性の念話が届いた。
(お前さん達、3人とも生娘だね。私のお世話をしなさい。なあに。心配しなさんな。お金はたんとあるんだ。不自由はさせないよ)
飛鳥が隠神刑部を睨みつけた。
(ほっ、ほっ、ほっ。お前は魔物の言葉が分かるんだね。これはちょうどいい。この間、いうことを聞かない、役立たずのゴブリンがおっ死んだんだが、人間の言葉が分かる魔物がいなくなって不便してたのさ)
(それにお前、可愛いねえ。体はまだ子供のようだけど、余計に仕込みがいがあるってもんだ)
隠神刑部の粘りつくような視線を感じ、飛鳥の背筋に寒気が走った。
このお話これからどうなるんだろうと、少しでもワクワクしてもらえてたら嬉しいです。
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