妖怪軍団、今治銀座を占領する(3)
途中、褌姿の変態に遭遇するアクシデントはあったものの、明奈、飛鳥、瑞鶴の3人はアーケード入り口のすぐ近くまで来ていた。ここまで来ると、3人の耳に助けを求める人の声がはっきりと聞こえていた。
3人がアーケードを進んでゆくと、その行く手を塞ぐように、アーケードの真ん中に9体の妖怪達が立ちはだかった。女のような姿かたちをした妖怪、飛頭蛮だった。
飛頭蛮は胴体を破壊されると、頭部を切り離し、空中を飛び回って火の玉を放ってくる強力な妖怪だ。初見では手こずらされた魔物であったが、攻略法を知っていれば倒せない相手ではない。
飛鳥の白銀剣が先頭の飛頭蛮の頭を縦に割り、明奈の爆裂踵落としが2体目の脳天に炸裂する。アーケードの天井からは15cmのブレードを展開したドローンが飛頭蛮に襲撃をかける。
乱戦のさなか、1体の飛頭蛮が飛鳥と明奈の前列を突破して、瑞鶴に襲いかかった。
「瑞鶴!」
明奈が叫んだ。瑞鶴は両手をぶら下げて立ったままだ。明奈の脳裏を、飛頭蛮に噛みつかれる瑞鶴の姿がよぎった。だが、瑞鶴は右手にナイフを一本だけ持っていた。ぶつかる寸前、瑞鶴は大きく開いた飛頭蛮の口にナイフを突き刺した。ナイフがカウンター気味に入り、飛頭蛮が勢い良く頭から後ろに倒れた。
戦いは同時に進行していた。明奈の注意がそれた一瞬の隙を突き、別の飛頭蛮が明奈に掴みかかり、明奈の首筋に歯を立てた。だが、歯が皮膚を傷つけるよりも早く、明奈は背後に倒れ込むと、相手の腹へ足裏をつけて、そのまま背後に投げ飛ばした。頭から路上に落ちた飛頭蛮の口腔に、すかさず瑞鶴がナイフを突き立てる。
短いが激しい戦いは終わり、飛頭蛮はすべて瘴気と化し消えていった。
「飛鳥、ウチ、チャージがもう残ってへんで」
「ドローンもブレードが弾切れだよ」
3人は飛頭蛮との戦いには勝利したものの、飛鳥の白銀剣を除き、攻撃力が尽きてしまった。しかし、アーケード入り口からは今もなお助けを求める人の声が聞こえている。3人娘は助けを求める人を見捨てることなど、できはしないのだった。
「とにかく、先を急ごう」
「そやな」
「うん」
3人は入り口に向かって走った。最後の妖怪は八百八狸の軍団である。2足歩行するタヌキ達だが、可愛らしさの欠片もない、憎たらしさ満点の妖怪だ。走りながら、瑞鶴が魔物辞典を検索する。
「手に持っている太鼓のバチで攻撃してくるよ。人を麻痺させる効果がある。気をつけて」
やがて、3人娘の行く手を八百八狸が立ち塞がった。その総数27匹。妖怪系の魔物にしては数が多い。今の3人娘の攻撃力では勝てる絵が描けなかった。
瑞鶴が明奈と飛鳥をみた。
「ここは戦闘は避けて先に救助に行こう。そこから助けた人を守って逃げよう」
明奈と飛鳥に異存はない。3人娘と5機のドローンは疾風のように駆け出した。アーケードの入り口までのラストスパートだ。
八百八狸の動きは鈍重でどことなくコミカルだ。3人を捕まえようと右往左往する八百八狸の間を、ラグビー選手のようにジグザグに走り抜け、最後の300mを全力疾走すると、アーケードが終わり、目の前の視界が一気に開けた。
3人の目前には、交差点の真ん中で縛られている人々とその周りを取り囲む八百八狸の姿があった。
「助けて〜」
「助けてくれ〜」
ドンドビ交差点の真ん中で、お爺さん、お婆さん、若い男女が背中合わせに縛られ、八百八狸は時折、人質を太鼓のバチで殴ったり、自分の腹を叩いて音を出したりしていた。人を人とも思わぬ、フザけた妖怪なのだ。
飛鳥と明奈が突出した。飛鳥が手前のタヌキを一刀のもとに斬り伏せると、明奈はもう一匹のタヌキに回し蹴りを放った。人質に瑞鶴が駆け寄り、縛られていた縄をナイフで切って助け出した。
「大丈夫? 立てる?」
だが、お爺さんもお婆さんも、若い男女も立ち上がろうとしない。目が虚ろだ。瑞鶴が違和感を感じた瞬間、
ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ
と立て続けに音がして、人質の姿がタヌキへと変わった。
「なにっ!」
飛鳥があたりを見渡すと、ドンドビ交差点は数限りない八百八狸の軍団に囲まれていた。
「罠、だったの?」




