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妖怪軍団、今治銀座を占領する(1)

「聞け、今治銀座に魔物が大発生するぞ!」 

「…あの患者さん、また始まったよ」

「しぃっ……。目合わせたらあかん!」


 青い入院着をきた白髪の女が大声で喚き散らしながら、病室内を歩き回っていた。だが医師も看護師も狂人の戯言を真に受けるほど暇ではない。白髪の女は無視されればされるほどに、かえって大きな声を張り上げた。


 白髪の女は元・せとうち青雲高校教諭の野間だった。野間は医師の診断の結果、統合失調症とされ、措置入院となっていた。


 野間の入院とともに瘴気水の製造作業も全面中止となった。今日も、給水車は体育館横のプレハブ内に駐車したままである。


 プレハブの床には野間の手帳が落ちていた。誰も顧みることのないその手帳には次のようなメモが書かれていた。


「仮説。体育館横のゲートと今治銀座のゲートは向こう側で繋がっており、瘴気の源は同じ。瘴気水を製造することでゲートから瘴気を吸い出すことができる。逆に瘴気水を製造せずに給水車を放置しておくと、瘴気水は飽和してしまい、体育館横のゲートからは瘴気が魔物の形で出てこれないので、今治銀座のゲートから魔物となって溢れ出すはず。瘴気水の在庫に余裕があれば検証すること」



*****



 野間の事件から数日後、シェアハウスでオンライン授業を受けていた明奈、飛鳥、瑞鶴(みつる)のもとに、息を切らしながらお爺さんが駆け込んできた。お爺さんは明奈のファンクラブ会員番号1番を自称する()である。


「大変じゃあ。明奈ちゃあん、大変なんじゃよう!」

「ちょ、熊ちゃん、血圧上がるって。落ち着いてや」


 名前をちゃん付けで呼ぶあたり、明奈は場末のバーのママ程度にはあざとく、世間慣れもしているのである。明奈に曲がった背中をやさしく擦られながら、熊吉くまきち爺さんは差し出されたコップの水をぐいと一飲みした。


「妖怪が大発生しよるんよ! いろんな妖怪が大発生して、大暴れしよるんよ!」

「ええ! どこに出たん?」

「そこたらじゅうに出とるけど、3丁目がいっちゃんひどいんよ。ドンドビ交差点で妖怪狸たちが人質を痛めつけとるって」


 と熊吉くまきち爺さんが言ったそばから、シェアハウスを覗くものがあった。目はひとつ、長い舌、藍色の単衣、素足に草履、両手には豆腐の乗ったお盆を持っていた。


 豆腐小僧だ。反射的に明奈が蹴りを放つ。豆腐小僧は後ろにのけぞるようにして飛ばされていった。


「うわ、豆腐小僧や!」


 蹴り飛ばしておいてから、さも驚いたかのように明奈が叫んだ。


 常に肌見放さず持ち歩いている竹刀を掴み、飛鳥が脱兎のごとく表に駆け出した。飛鳥はせっかちな性分な娘なのである。さっそく倒れた豆腐小僧を始末しにいったのだろう。


 2階から甲高いモーター音を響かせて6機のドローンが一列になってダイニングへと降りてきていた。


「ウチらもいこか?」

「うん」



*****



 表にでた2人の目の前を、キャリーケースを引きずったお婆さんが普段からは考えられないものすごい速さで歩いていた。まるで山火事から逃げる森の動物のようだ。


「これはただ事やない……」


 人々の叫び声が聞こえてきた。明奈と瑞鶴はアーケード入り口方向に向かって走り出した。2人の頭上をカメラ付きドローンが先行してゆく。すぐに、瑞鶴が偵察の様子をリアルタイムで教えてくれた。


「アーケードの2丁目ゾーンに豆腐小僧2匹、小豆とぎ3匹、赤鬼3匹。3丁目ゾーンからかまいたち3匹、夜行さん1匹、飛頭蛮が多数、多分9匹? その先は八百八狸が多数!」


 早速、走る明奈と瑞鶴の前方に、ベロベロと豆腐をなめながら豆腐小僧が2匹現れた。


 飛鳥が、後ろから2人に追いつき、追い越してゆく。そのまま前方の豆腐小僧2匹との距離を詰めると、白銀剣を一閃、二閃して片付ける。まさに鎧袖一触だ。初見では苦労させられたが、豆腐小僧は目さえ見なければ怖い魔物ではない。


 瘴気を消す時間も惜しく、3人はそのまま走り抜けると、今度は前方に小さな人影が3つ、しゃがみこんでいる姿が目に入った。小豆とぎだ。熱心にザルのなかの小豆をかき回していたが、飛鳥が近づくと、すかさず小豆を投げてきた。


「あ痛っ!」


 7月の終わりに捕獲した時は投網であっけなく生け捕りにできた小豆とぎであったが、いざ開放空間で戦ってみると、意外に手強い魔物だった。一発一発の小豆がパチンコ玉のように固くて痛いのに加え、投げ付けてくる小豆が点ではなく面の攻撃なのだ。しかも、小豆が無くならない。無限小豆だ。


 瑞鶴の出番だ。


 アーケードの天井付近でひそかにホバリングしていた5機のドローンが、一斉に逆落としに襲いかかった。小豆とぎ達が上を向いたときにはもう遅い。1秒余りで彼らはドローンのブレードで串刺しとなった。つい先日、ドローンと戦ったばかりの飛鳥はひそかに小豆とぎに同情した。


 小豆とぎ達のそばで頭を抱えてうずくまっていた男性に明奈が近づいて、背中を擦ってやった。


「おじさん、大丈夫?」

「ありがとう。お前さんは優しいんだねえ」

 

 と明奈を見上げる顔に、目も鼻も口もない。のっぺらぼうだ。


「うわ!」


 明奈が思わず突き飛ばすと、のっぺらぼうは後ろに倒れた。体力は皆無なのか、そのまま消えてしまった。


「なんやねん、今の?」

「人を驚かせるのに特化した妖怪みたい」

「意味なさすぎやねんけど」

「先を急ごう!」


 なおも先に走ってゆくと、今度は前方に大きな人影が3体見えてきた。赤鬼だ。赤鬼達はひっくり返った軽四を取り囲み、ガラスを棍棒で割って中に逃げ込んだ人を引きずり出そうとしていた。


 飛鳥が再び先行する。妖怪退治チームの切り込み隊長だ。


 素早い足の動きで一気に距離を詰めると、手近の赤鬼の上半身を白銀剣できり飛ばす。間髪入れずその背後から明奈が跳躍し、もう1匹の赤鬼の脳天に爆裂踵落としを炸裂させる。最後に残った赤鬼はドローンの群れに取り囲まれて、追い払おうと両手を振り上げているうちに、あっさりと飛鳥に討ち取られてしまった。


 明奈、飛鳥、瑞鶴は3丁目ゾーンに入った。


 アーケード入り口に近づくにつれ、妖怪と遭遇する間隔が短くなってきた。お次はカマイタチ3匹と夜行さんの連合軍だ。早速カマイタチが斬撃を飛ばしてきたが、全弾すべて飛鳥が白銀剣で弾き返した。


「カマイタチは瑞鶴と明奈に任せた!」


 それだけ言うと、飛鳥が斬撃を白銀剣で弾き返しながらカマイタチを通り過ぎ、夜行さんに切り込んだ。飛鳥の闘志に夜行さんが前足を上げて応じた。

このお話これからどうなるんだろうと、少しでもワクワクしてもらえてたら嬉しいです。

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