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VS 山姥(3)

 キン!


 飛鳥がブレードを弾き返し、白銀剣を八双に構えた。


「野間先生、こんなことはもう止めましょう」

「ほざけ、虫けらめ!」 


 白銀剣の戦意が飛鳥に伝わってきた。戦いを終わりにするためには、野間を無力化する以外に方法はないと剣が告げていた。飛鳥が野間に向かって距離を詰めていくと、野間も飛鳥の意図を見抜き、最後の猛攻をかけてきた。


 だが、飛鳥は死角から放たれるブレードをノールックで弾き返し、背後から突撃をかけるドローンを最小限の動きで躱して進んでゆく。野間が飛鳥を憎々しげに睨んだ。


「おまえ、なぜ見えている?」

「私じゃない。剣が教えてくれる」

「エルデリアの犬め!!」


 野間の右足が地を蹴った。一瞬で距離を詰めると飛鳥の顔面めがけて右拳を振り上げた。突然の肉弾戦であった。飛鳥は白銀剣で上げ受け、右肩を野間の胸にぶつけた。力はセーブしたが、十分に深く入った感覚があった。だが、


 きひっ


 野間は奇妙な声とともに、飛鳥の首を締めようと両手を伸ばしてきた。飛鳥は深くダッキングしてこれを躱すと、白銀剣の柄頭を野間の鳩尾に叩き込んだ。


 いぎっ!


 もはや人間ではありえなかった。魔物は1,2歩と後退ると、半開きになった口から涎を垂れ流しながら、狂気の光を帯びた目で飛鳥をみた。


 ひっ、ひっ


 魔物はゾンビーのようにぎこちない、カクカクとした気味の悪い動きで、地面に置かれたバッグに近づくと、中からドリンク剤を取り出し、蓋を開けるのももどかしく、中身を一気に飲みほした。液体が喉を流れ落ちる度に、魔物の表情が恍惚としたものに変わっていく。


 魔物が空になった瓶を放り捨て、飛鳥を睨みつけた。白髪の魔物の目はすべてが黒く染まっていた。


 ギギッ


 かつて野間だった魔物の目には、もはや人間性のかけらも残っていなかった。飛鳥は覚悟を決め、青眼の構えをとった。魔物を睨みながら剣先をゆらゆらと揺らす。


 ギアアッ


 両手をあげて魔物が襲いかかってきた。ゆらゆらと動いていた白銀剣の剣先が激しく輝き、ほんの一瞬、魔物の目が眩んだ。同時に、飛鳥は白銀剣から右手を離し、右膝をつき、魔物の下顎の先を右手のひらで大きく突き上げた。


 そのまま魔物は飛鳥の横を通り過ぎ、地面に力なく横たわった。脳を揺らして相手の意識を奪う技は、身を守るためにと、生前の父が教えた技だった。


 飛鳥は荒い息を吐きながら、そのまましばらくの間うつ伏せに倒れた魔物を見つめていた。



*****



 明奈が足を引きずりながらプレハブの裏から顔を覗かせた。


「終わったん?」

「多分……ね」


 しばらくすると、SNSで連絡を受けた志津香がやってきた。少し遅れて愛と花梨もやってきた。愛はすぐに瑞鶴みつると明奈にヒールをかけて回復させた。


 6人は地面に倒れたままの白髪の魔物を見て、固まった。


「これって、通信制コースの野間先生?」

「そう。野間先生が突然、魔物になってしもうた」

「どうにか、こうにか、無力化できた」


 明奈、飛鳥、瑞鶴の3人は複雑な表情で倒れたままの魔物をみつめていた。善人とは言い難い人物ではあったが、担任だった人間が魔物と化したのである。志津香が白髪の魔物に近づき、 鑑定眼を発動した。


 【ステータス】

 名前:野間 瑠璃子

 種族:山ん婆

 職業:教師

 称号:変容せしもの

 レベル:1

 体力:5 / 100

 魔力:0 / 50

 力:110

 俊敏:70

 装備:ー

 スキル:殴り、蹴り、幻惑、魔物生産


「野間先生、山ん婆だって」

「……」


 鑑定眼の結果に、皆、絶句して何も言えなかった。愛がうつ伏せに倒れたままの魔物の側で片膝をついた。


「とにかく、野間先生の中の瘴気を浄化するよ」


 愛が両手を魔物の体に当て、目を閉じて何かを探るように手を動かし、ややあって浄化を発動し、人間へと戻してゆく。その様子を、瑞鶴が泣きそうな顔でみつめていた。


「明奈……」

「なに?」

「もっと早く気付けなくて、ごめん」

「かまへん、かまへんて」


 明奈がおどけた様子で瑞鶴の腕を軽く叩いて、笑ってみせた。


「……。嬉しかったんだ。ママとあんなふうにご飯食べたり、おしゃべりしたこと、なかったから。もっと、早く気付けていたら、明奈が怪我することなかった」

「……瑞鶴のせいやない。それは絶対ないで。人の弱みにつけこむやつが悪いんやで」


 確信を込めていい切ったのは、明奈の優しさだ。


「あ、そういえば、私、瘴気水、飲んだかも」

「ほな浄化したるわ」


 そういうと、瑞鶴のお腹あたりを両手で揉みだした。


「浄化! コチョコチョ」

「ちょ。やめ!」


 2人がふざけていると、紗良が両親といっしょにやってきた。


 紗良の両親は学校関係者だ。現実として、高校生である彼らにはできることに限界があったのだ。紗良の母親が野間に声をかけると、野間が意識を取り戻したようだった。瑞鶴が近づき、肩を抱いて助け起こした。野間の目は何も見てはいなかった。


「皆さん、大丈夫? 怪我はなかった?」


 紗良の父親が皆を見回した。愛が明奈、飛鳥、瑞鶴を見た。


「大丈夫、やと思います」


 明奈が代表して答えた。紗良が父親に尋ねた。


「野間先生はどうなるの?」

「とりあえず、知り合いの病院に連れてゆく。あとは本人と、医師の診断次第かな」


 タクシーが到着した。瑞鶴に肩を抱かれて、野間がよろめきながらあるき出した。おぼつかない足取りで、飛鳥、明奈とすれ違う時に、訳の分からないことを繰り返し呟く小さな声が聞こえた。

このお話これからどうなるんだろうと、少しでもワクワクしてもらえてたら嬉しいです。

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