閑話:餃子パーティ、里芋の煮物、志津香の美容室
11月になった。季節の変わり目である。飛鳥が風邪を引き、食欲がないという。食べたいものはないかと聞くと、餃子が食べたいという。近所のスーパーに餃子を買いにゆくと、その日はたまたま特売日であった。そこで餃子を大量に購入し、シェアハウスでは餃子パーティー開催の運びとなった。
ホットプレートは以前の住人が使用していたものを瑞鶴が見つけ、綺麗に清めたものだ。これまでにも、お好み焼きを作るのに使っていたが、今日は餃子を焼くのにフル稼働状態だ。
「パリパリして美味しい」
「ポン酢とごま油のタレも美味しい」
「はぁ〜〜。臭い?」
「うにゃあ」
明奈が赤毛の猫に息を吹きかけ、猫が匂いを嗅いでいた。誰はばかることもない女子3人のシェアハウスである。
「明奈、酔っ払ってる?」
「いやいや、麦茶で酔うかいな。ただ、先月はいろいろあったから、こうやってシェアハウスでゆっくりできるのは、本当にええなあと思うてね」
先月は運動会に始まって、せとうち青雲高校に妖怪、さらには泥棒が出没したりと、いろいろあったのだ。特に、明奈が死後の世界に引越しそうになった時はみな騒然となった。こうやって明奈が元のように元気になってくれたのが飛鳥も瑞鶴も嬉しくて、ついつい笑顔になってしまう。もともと性格が優しく、よく気がつく明奈は友人たちの笑みの意味を理解できた。
「みんな、ありがとな」
「じゃあ、明奈の分の餃子、頂戴」
「それはアカン」
*****
翌日、明奈が中華料理屋のバイトに出かけたあと、シェアハウスに訪問者があった。呼び鈴の音に、瑞鶴がシャッターを開けると、そこには近所に住む志津香の姿があった。
「こんにちは。瑞鶴ちゃんだけ?」
「飛鳥は2階で横になってる。明奈はバイトだよ」
志津香は左手に下げていた紙袋を瑞鶴の前にかかげた。
「これ、おうちで煮物を大量に作ったから、母親がみんなにも持っていきなさいって」
「え、煮物? 私、里芋の煮物大好き。ありがとう」
おかしな間があった。志津香は瑞鶴の髪の毛が気になったのだ。瑞鶴は髪を伸ばしていたが、ずいぶん長い間美容院に行っていないのではないかと思われた。
「瑞鶴ちゃん、最後に美容院にいったのっていつ?」
「? 憶えてない」
「後ろ髪がはねてるのが目立ってるよ。それに前髪が伸びてきてる。よかったら、少し揃えようか?」
ダイニングの椅子を洗面所に持ち込むと即席の美容室であった。志津香は瑞鶴を座らせて2人で鏡を見ながら、少しずつ切りそろえていった。
「志津香さん、髪切るの、どこで憶えたの?」
「母親がたまに切ってくれてたの。そのうちに見様見真似で自分でやるようになったの」
後ろ髪のはねているところに縦に少し鋏を入れてゆく。
「この間、母親の前髪と後ろ髪を整えたよ。母親と、昔と逆になったねって言ってたのよ」
「……」
志津香は瑞鶴が黙り込んでしまったのに気付いた。
「どうしたの? 切りすぎちゃったかしら?」
「違うの。羨ましくて」
「……」
今度は志津香が黙り込む番だった。志津香は瑞鶴が家庭のことを話したがらないことは知っていた。
「ごめんなさい」
「そうじゃない。もっとお話して。志津香さんのお母さんの話」
志津香は髪を切りすぎないように注意しながら、瑞鶴に母親の話を聞かせた。つまらない日常の話ばかりであったが、瑞鶴は知りたがりであった。やがて、
「うん、綺麗になったよ」
2人で鏡に映った瑞鶴の髪をみて、出来栄えを確認した。
「志津香さん?」
「なにかしら?」
「また、お願いしてもいい?」
「いいよ。だけど失敗しても文句言わないでね」
志津香と瑞鶴は洗面所で笑いあった。その楽しげな様子を、ダイニングから誰かがちらちらと伺っていたのに、志津香は気がついていた。
「ふふ…。 飛鳥ちゃん、こっちおいでよ!」
このお話これからどうなるんだろうと、少しでもワクワクしてもらえてたら嬉しいです。
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