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VS バグベア

 深夜の校舎。男が死に物狂いの形相で何かから逃げていた。男は廊下を全力で駆け抜け、


「た、助け……誰か……ああっ?」


 そして階段で盛大に足を踏み外した。


 翌朝、男は階段の踊り場で気絶していたところを登校してきた生徒らによって発見され110番通報された。119番ではなく110番通報だったのは男が女子生徒の体操服を着ていたからである。男は全治1ヶ月の怪我と診断され、そのまま建造物侵入罪と窃盗罪の被疑者として警察指定の病院に収容された。

 

 女子体操服の男の自供によると、夜の教室で女子生徒の荷物を品定めをしていたときに


「巨大な目玉に襲われた」


 のだという。巨大な目玉に睨まれて目が見えなくなり、逃げ惑っているうちに階段で転倒し、落ちて気を失ったのだという。


 ここ数日、私立せとうち青雲高校の女子生徒の体操服や内履きが紛失する事件が相次いでいた。


 今年の4月に夜間の校内にゴブリンが発生して以降、夜間の警報装置が切られていた。警備会社に対応を断られたためである。そのことが女子体操服男の知るところとなり、どうしても衝動が抑えきれず今回の犯行に及んだということであった。警察では余罪があるとみて取り調べを続けているが、どうやら女子体操服男の身に覚えのない紛失事件が多数あるようだった。


 ともあれ、巨大な目玉であれば魔物だろうということで、担任の野間を通して3人娘に話が来た。


「旧職員室で発生したのかな……」


 瑞鶴みつるはブリの照り焼きを箸で一切れ、口に運んだ。ブリの照り焼きは昨日の晩ご飯の残りだ。多めに作って置いて、本日の昼食のおかずとなった。近所の魚屋さんが明奈達を何かに付けて気にかけてくれて、サービスしてくれるのだった。


「あとな、もぐもぐ、これ、警察のおじさんから聞いた話なんやけど、魔物から、ロリコンめ!って大きな声で怒鳴られたんやって」


 明奈が厚焼き玉子を食べながら情報提供した。明奈は顔が広い。知り合いには警察関係者もいるらしい。


「ロリコンは女性の、いや、人類の敵だ」


 飛鳥が煮物のカボチャに箸を突き刺した。目が怖い。過去に何かあったのだろうか、と明奈は思った。飛鳥が左手で愛刀を撫でた。


「つまらぬモノを切りたくはない……。だが、いざとなれば容赦はせん」

「いや、切るのはロリコンちゃうで、魔物やで!」


 明奈が突っ込んだ。続けて、


「けど、夜のパトロールは負担が大きいんちゃう? どないしよ?」


 というと、瑞鶴がカボチャを食べながら手を挙げた。


「はい。私に任せて」



*****



 未明の3時。シェアハウスのベランダからドローンが甲高いモーター音を立てて浮上した。ドローンはGPSデータとカメラからの映像データをもとに瑞鶴の体内にあるCPU上に作成されたプログラムが操作していた。


 瑞鶴本人は夢の中だ。


 カメラを校舎の窓へと向けながら、ドローンは外から校舎を確認していった。木造の旧校舎から始まって、新校舎の1階を東から西へ、2階を西から東にパトロールをすると、更衣室に人影が検出された。プログラムにしたがってCPUが瑞鶴に報告した。


<不審者を発見しました>

「……ぐう」


 CPUが少し大きな音量で繰り返した。


<不審者を発見しました!>

「……ぐう」


 瑞鶴はまだ起きなかった。CPUが更に大きな音量で繰り返した。


<不審者を発見しました!!>

「うるさいな〜もう〜」


 ようやく目を覚ました瑞鶴は眠たい目をこすりながら、飛鳥と明奈を起こした。彼らはジャージを着て寝ていたので、そのまま夜の街を走り、直ちに卑劣な犯罪が行われている現場へと直行した。2階の廊下を走っていると更衣室の方から


「ぎゃあ〜。たす、たす」


 という男の声が聞こえてきた。助けて、と言いたいのだが、恐怖のあまり最後まで言えないらしい。果たして、瑞鶴達が到着すると、更衣室には腰が抜けて床に座り込んだ男と、男に向かい合う形で、巨大な目玉に枝のような物が放射状に生えたような魔物が宙に浮いていた。


 男は何故かパンツ一枚の姿であった。


 巨大な目玉から電撃が放たれた。


「ロリコンめ!」

「ぎゃあ〜」


 パンツ男は悲鳴を上げると、悶絶して床に崩れ落ちた。ついで、巨大な目玉は瑞鶴達の方を向いた。瑞鶴が既に魔物辞典を検索していた。


「バグベアって魔物。目をみると失明する」

「もう見てもうたわ」


 しかし、巨大な目玉は瑞鶴達を攻撃する素振りはみせず、一瞬ふと優しい目になり、消えてしまった。


「え? 消えた?」

「うむ。気配が感じられないな」

「なんか、思うてたんとちゃうな」


 瑞鶴が総括した。


「あの魔物、もう消えちゃったし、放っておこう。それより、パンツ男、警察に通報する?」

「私達も事情聴取とかされるのでは?」

「不法侵入になるんちゃう?」

「縛って転がしておこう」


そういうことになった。


 翌朝、パンツ男は建造物侵入罪の被疑者として身柄を拘束された。パンツ男は「目玉の化け物に襲われた」と供述しているという。この事件は、前の事件と合わせて、有名週刊誌が報じるところとなり、それ以降、世のロリコン界隈からはせとうち青雲高校は鬼門として避けられることになった。

このお話これからどうなるんだろうと、少しでもワクワクしてもらえてたら嬉しいです。

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