瑞鶴、白状させられる
10月中旬の放課後、瑞鶴は再び野間から進路指導室に呼び出された。
「大西です」
「はい。どうぞ〜」
ドアを開くと、野間がラップトップPCのキーボードを叩いていた。
「ちょっと座って待ってて。すぐ終わるから」
「はい」
瑞鶴は丸椅子に座ると目を閉じた。最近瑞鶴は自身に内蔵されたCPUに命じることでネットに接続できるようになっていた。もともと待つことは苦にならない瑞鶴だが、ネットに接続できるとなると話は別だ。天文学関連のトピックを紹介する動画を見ること5分……。
野間はすでに作業が終わったらしくキーボードを叩くのをやめているが、瑞鶴はそれに気づかず目を閉じたままだ。野間はしばらくその様子を観察したあと、瑞鶴に声をかけた。
「おまたせ、大西さん」
「はい」
瑞鶴は目を開けて、網膜ディスプレイに映った超巨大ブラックホールのCG映像を止めた。
「どう、新しいドローンの調子は?」
「はい、調子いいです」
「カメラには接続できた?」
「はい、この間も、カメラに接続して、魔物を追いかけました」
「それ、私も見てたのよ、おもしろかったわね」
その後の女2人の乱闘はもっと面白かった、とは野間は言わなかった。
「なにか不具合あったら言って頂戴」
「はい」
「それでね…」
といいながら、足もとのブランドもののバッグから何かを印刷したA4の紙を取り出した。
「この間の朝のミニテストなんだけど、この問題、正解したのは大西さんだけなの。大西さん、この問題、知ってたのかな?」
瑞鶴は不穏な空気を感じながらも適当に答えることにした。
「はい。たまたま知ってました」
「そお〜〜。たまたまねえ……。この問題、教科書には載っていないのよ。新しいから参考書にも解答は載ってないの。でもネットで調べると、答えがすぐに出てくるわ」
瑞鶴の背中を冷や汗が流れた。
「大西さん、あなた、カンニングしたでしょ?」
「…………」
ここはどう答えるのが正解なのかと頭のギアをフル回転させて考える瑞鶴を見ながら、野間は冷ややかに言い放った。
「いいのよ、別に」
「え?」
「私、そんな熱心な教師じゃないの、知ってるでしょ。それよりどうやってネットに接続したかが、気になってるの。教えてくれたら、今回に限ってこの件は不問にするわ。もちろん、今後はネットでカンニングはNGだけどね」
「……」
「ねえ、CPUにどんな命令を与えたの?」
どうやってかは知らないが、野間は既にCPUのことも知っていた。瑞鶴はあっさり陥落し、RF送信機と受信機を用いてネットに接続する方法や、手指の動きを脳波でモニターして検索し、検索結果を網膜ディスプレイに映しだしたことなどを、洗いざらい白状した。
「大西さん、さっき、私を待ってる間もネット見てたでしょ?」
「……はい」
野間はまったく怒る気配がなかった。却って上機嫌なくらいであった。
「素晴らしいわ。脳をネットに繋げられるとすごく便利でしょうね」
「厳密には、脳を繋げてないです」
瑞鶴は網膜ディスプレイを出力に、手の動きを入力に用いているだけだと説明した。本当に脳を接続するには、思考を読み取る必要があるが、それは達成できていなかった。
「それにしたって便利よ。大西さん、賢いじゃない。賢い子は嫌いじゃないわ。ナノマシーンはどれくらい使用したの?」
もう隠す意味は無かった。瑞鶴は使用したBINの数をCPUにきいて野間の質問に答えた。野間は瑞鶴の答えに満足したようであった。
「そう。ありがと。助かったわ。もういいわよ。今後はカンニング、しちゃダメよ」
瑞鶴が進路指導室からでていくのを見送ると、野間はにやりと笑った。先程の瑞鶴の話をききながら、自身の目論見に必要なナノマシンの量を暗算していたのだ。
「とっておいたナノマシンの量で足りそうだわ」
*****
数日後。公海上を航行する、とある外国船籍のクルーズ船内の医務室。
外国籍の医師が前投薬を打つと、ほどなくして背中の感覚が消え、麻酔が導入される頃には、感覚は完全に麻痺し、痛みどころか、かすかな違和感すら感じなかった。
「野間サン、時間モナイノデ、早速なのましーんノ導入、始メマスヨ」
医師が処置を始める頃には、野間の意識は無くなっていた。
このお話これからどうなるんだろうと、少しでもワクワクしてもらえてたら嬉しいです。
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