VS ゴブリンロード(1)
<新しく発生した魔物に挨拶を送る>
<ここはどこだ?>
<若い人間が集まる建物だ。指令はあるか?>
<殺すな、だ>
<なぜ?>
<分からない…… 先行者よ?>
<なんだ?>
<これは夢か?>
<そうだ、これは夢だ>
*****
チャイム音のあとに抑揚のない音声が校内に響いた。
「魔物がァ、発生しましたァ」
国語総合の教師が、はあ、と大きくため息をついた。手に持った教科書をパタンと閉じた。
「いっそのことリモート授業になればいいのに」
教室前列の真面目な生徒たちには彼の心の声が漏れ聞こえた。
「ハァ。みなさん、グランドに移動します。」
生徒達が教室から移動を開始すると、いつものように、さらりと身を翻して、波方愛は皆とは逆の方に向かって歩き出した。
「ちょっと愛、どこに行くんよ、方向逆だよ」
クラスメートで幼馴染の、宝来紗良だった。
愛は驚いた。今まで隠密のスキルを使った愛に声をかけたものはいなかったのだ。
「おトイレだよ。先にいっとって」
「わかった。先に行っとるよ。早く来なよ」
紗良はクラスの友人たちとグランドへと向かって歩いていった。
途中、教職員ともすれ違った。何人かの教職員は頭や腕に怪我をしているようだった。教職員達からは職員室、占拠、人質、という言葉が聞こえてきた。
愛の聴力は常人よりも微かな物音を聞き取ることができた。
職員室のほうから、何かが割れるような音に続いて、悲鳴が聞こえた。愛は足を早めた。
*****
愛は気配を消して、割れた廊下の窓から職員室をのぞきこんだ。
職員室のなかにゴブリン達がいた。職員室はめちゃくちゃに荒らされていた。机はすべて部屋の中央に寄せられてステージのようになっていた。。
校長の机だけがそのまま残っていたが、座っていたのは校長ではなかった。
<ゴブリンロードを確認しました>
女性の声が愛の耳腔内で反響した。
「今回はゴブリンロードか……」
ゴブリンロードはゴブリンリーダーよりもひと回り大きな体躯を有しており、上背は180cmを超えていた。また自身の戦闘能力も強化魔法を使って向上させることができると言われていた。
手強い相手である。愛はエルデリアでゴブリンロードと対峙した経験はなかった。
職員室の壁際には、教職員が3名、縛られて床に転がされていた。痛めつけられたせいか、ぐったりしていた。
愛は職員室内にいるゴブリンを数えた。ゴブリンロードを含め9匹のゴブリンがいた。廊下のそばに1匹。これは見張りだろう、と愛は判断した。残り7匹のゴブリンはゴブリンロードと何事かを話し合っていた。
ゴブリンロードは少なくとも26匹のゴブリンを率いていると言われている。
「どこかに別働隊がいる、ということ。
――別働隊が戻ってくるまでに、人質を助け出す!」
愛には9匹までならばゴブリンを迅速に討伐できる自信があった。しかし、別働隊が戻ってきたら、そうはいかない。人質を無事に取り戻すことは不可能といってよかった。チャンスは今しかなかった。
愛は大きく息を吸い込んだ。
やれる、と思った。爆裂ヨーヨーを握る右手に力を込めた。
(頼んだ相棒!)
助走をつけると、割れた窓から一気に職員室に飛び込んだ。
着地して一回転、起き上がりざまに、近くにいたゴブリンに爆裂ヨーヨーをぶち込んだ。
ゴブリンが爆散した。
「1匹!」
ゴブリンが積み上げられた中央の机のステージの後ろからわらわらと現れた。
その顔面にヨーヨーを叩き込む。
「2匹! 3匹!」
愛は人質に向かって進んだ。
解き放たれた猟犬のように獰猛に、ヨーヨーがゴブリンを爆散させてゆく。
「4匹!」
もう少しで人質を確保できる距離にまで迫ったその時。
突然、職員室の入り口から、ゴブリン達がなだれ込んできた。別働隊が戻ってきたのだ。
(どうして? このタイミングで?)
職員室になだれ込むゴブリン達の背後では、ゴブリンリーダーが指揮をとっていた。
<ゴブリンリーダーを確認しました>
ゴブリンリーダーの手にはスマホが握られていた。
愛は振り返った。
校長の席に座ったゴブリンロードはスマホを顔から離した。黄色い目が嘲笑っていた。




