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飛鳥、志津香を挑発する

 ゴブリンの先行者が最初から理解していた感情は怒りだった。怒りは、ゲートから魔物が発生したときに、最初に感じる感情だ。


 志津香が4つ首大蛇を爆熱火炎煉獄(メギドフレイムインフェルノ)で焼き払ったとき、先行者は心の底から怒りを感じると同時に、胸の奥に鋭い何かが突き刺さるような不思議な感覚を感じた。


 怒りはすぐに過ぎ去っていったが、突き刺さるような感覚は、その後も先行者の胸に潜み続け、蛇のように細長い何かを見る度に蘇っては先行者を悩ませた。


 先行者は、自分自身の機能不全に、どう対応していいか分からなかった。


 先行者はこの不思議な感覚を、4つ首大蛇を焼き払った張本人である志津香に聞くことにした。先行者がテイムした人間である宅間氏にはニュアンスを伝えることが出来ないが、志津香には魔物同士の念話による意思疎通が可能だったからだ。


 先行者の胸の痛みの訴えに、志津香はすぐさま、


<あなた、ひょっとして、悲しいの?>

 

 と伝えてきた。


 悲しいという人間の感情に興味を抱いた先行者は、志津香に頼み、図書館から児童向けの文学作品を又借りして読みふけった。



*****



 8月が終わりかけた正午。


 今治銀座のアーケードを少し脇にそれた小道を、阿方志津香は右肩に鞄をかけ、左手で愛用の黒い日傘を差して歩いていた。日差しは中天にかかり、こんな狭い路地にも日が差し込んでいた。


 午前中に高校の校舎での自習を終え、帰り道に市立図書館で本を借り、先行者が潜む宅間氏の家に届けて来たのだ。最近、先行者の読む本の内容が高度になり、本が分厚く重くなっていた。今日、先行者のリクエストで借りてきた本の中には哲学書もあった。


(自分でもなぜこのようなことをしているのか、よく分からない)

(でも、先行者と意思疎通するときの感情は決して不快なものでもないし)

(結局のところ、私も魔物の一種なのかしら)


 地面をみながら歩く志津香のとりとめのない想念の連鎖が、突然断ち切られた。志津香の歩く先に小柄な人影が立ち塞がっていたのだ。


 視線を上げると、そこには先日、夜のアーケードで先行者を追い回していた少女、近見飛鳥が志津香を睨んでいた。飛鳥は財団からの依頼により、ゲートの場所を特定するために今治銀座周辺を探索していたのだった。


「あら、あなたは……」

「志津香さんはこの辺に住んでるのね」


 近見飛鳥は小柄な体格と愛らしい顔に似合わぬ危険人物である。なにせ会話の途中でいつでも剣戟が飛んでくるのだ。


「いま、そこの家から出てきたでしょ」

「……それがどうかしたの?」

「そこの家から魔物の気配がする」


 志津香は内心の動揺を抑え、そらとぼけることにした。


「魔物って何のこと?」

「あなた、波方愛の魔物退治チームなんでしょ? 魔物と通じているって知られたら、どうなると思う?」

「私を脅してるの? 愛はあなたの言うことなんか信じないよ?」

「こんな住宅密集地では究極光魔法メギドフレイムインフェルノ☆アポカリプス・ジ・エンド・トゥ・ザ・ヘルは使えないでしょ。今戦ったら、私とあなた、どっちが勝つと思う?」

「……」


 アキ先生の命名による中二病センス溢れる究極光魔法、爆熱火炎煉獄(メギドフレイムインフェルノ)はいつの間にか生徒達の間で独り歩きして、究極光魔法メギドフレイムインフェルノ☆アポカリプス・ジ・エンド・トゥ・ザ・ヘルへと変わっていた。


 つい先日まで究極光魔法メギドフレイムインフェルノ☆アポカリプス・ジ・エンドだったのに、


(また名前が長くなってるじゃない……)


 志津香は嘆息した。中二病は一度発症すると、本人の意志に関わらず、後々まで祟るなかなかに業が深い病のようだった。


 志津香は飛鳥を睨みつけた。飛鳥がふと視線を外すと、緊張を緩め、くるりと背中を向けた。


「フフッ、怖い怖い、冗談よ」


 背中を向けた動作からの自然な流れで飛鳥の体が翻り、振り返りざまに志津香に竹刀を叩きつけてきた。完璧な不意打ち。日傘を差し、右肩に鞄を掛けた無防備な態勢の志津香にとって致命的な攻撃といえた。


 志津香は、しかし、逆に飛鳥に向かってゼロ距離にまで距離を詰めた。右拳を甲を下側にして飛鳥の心臓の位置に当て、そのまま勢いを止めずに道沿いの家の壁に押し付けると、飛鳥の顔を間近に見下ろしながら、拳に力を込めた。


 志津香が可愛く微笑んだ。


「飛鳥ちゃんは、そんなに私に遊んで欲しいんだ?」


 汗ばんだ薄いTシャツの布地を通し、志津香の手に飛鳥の心臓の鼓動が伝わる。飛鳥の息遣いが荒い。怒りからか、それとも羞恥からか、飛鳥の顔は真っ赤になっていた。


「……今日は見逃してあげる!!」


 そう言い捨てると、飛鳥は再び背中を向けて急ぎ足で歩き去っていった。


 志津香はその小さな背中を見つめながら


「いったいどういう環境で育ったらあんなに可愛げのない性格になるのかしら……」


 と眉をひそめた。

このお話これからどうなるんだろうと、少しでもワクワクしてもらえてたら嬉しいです。

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次も頑張ります!

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