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VS 小豆とぎ

今治銀座アーケード街の裏に流れる川を金星川という。かつては今治城の外堀の一部であったというが、今では幅が狭く、水量も少なくなり、普段は誰からも省みられることがない。


そんな金星川に、妙な噂が立っていた。


橋の下からシャキシャキと音が聞こえてくる。その音のするほうを覗いてみると、小柄な老人がザルで何かを洗っているのだという。


ただそれだけの噂だった。


赤鬼との戦いから間もないある日の夜、「明奈ちゃん、川からシャキシャキと音がして気味が悪いよ」と近所の老人から明奈のスマホにメッセージが入った。


明るくて人懐っこく、誰ともすぐに打ち解ける明奈は、魔物がいたら一声を掛けてほしいと日頃から周囲に触れ回っていたのだ。


明奈、飛鳥、瑞鶴みつるが生活する今治銀座のシェアハウスからシャキシャキ音がする地点は目と鼻の先である。


早速、3人娘が現場へと出動すると、橋の下から


しゃきしゃきしゃき


という音が聞こえてきた。


橋の上からそっと下を覗き込むと、川の水で懸命に何かを洗っている小柄な老人の姿があった。


「魔物だな、あれは」


声をひそめて飛鳥が断じた。飛鳥は魔物や瘴気を感じることができる感覚を持っていた。


その日は現場の確認をして帰宅し、次の日の夜、3人は再び現場へと戻った。


「明奈、瑞鶴、準備はいいな?」


声の低い飛鳥が声をひそめると、まるでこれから悪事を働く相談をしているようである。


「お主も悪よのう、越後屋」


とフザけた調子で返した明奈を、飛鳥がジト目で見つめた。


「……明奈、財団からは魔物を捕まえろとしつこく言われてるんだ。少しは真面目にやって欲しい」

「めんごめんご! 怒らんといてや〜」


と軽く流すと、明奈は持参してきた物を橋の上に広げた。


明奈が熊ちゃんと呼ぶ老人から借りた投網である。熊ちゃんがいうには「わしが若い頃ゃ、この投網使うて、蒼社川で鮎を捕りよった」のだという。


熊ちゃんは明奈に投網の使い方を教えてくれたが、まさか明奈が魔物相手に使うために借りていったとは思ってもいないだろう。


明奈と瑞鶴が音を出さないように慎重に投網を広げ、網の端を探し出して両手に持って、金星川にかかる短い橋の両端に立った。


明奈と瑞鶴が飛鳥に頷いた。準備は整った。


飛鳥が橋の上から魔物を見つめた。魔物に何かを警戒している様子はみじんも無い。かがみ込んで、シャキシャキと、ひたすらザルで何かを熱心に洗っている。


その様子を睨みながら、飛鳥が腕をさっと振り下ろした。


明奈と瑞鶴が橋の下の魔物に向けて投網を投げた。投げたというよりは落としたという表現が近い。


ばさっ


という音がして投網が川底に落ちると同時に、網の中で魔物が激しく暴れた。魔物は暴れながら、小豆のような小粒を撒き散らしたが、周りには人がおらず、何の危害もなかった。


ひとしきり暴れると魔物は力尽きたのか、大人しくなった。


「これで依頼ひとつ、完了ね」


と飛鳥が満足げに呟いた。飛鳥が財団に連絡すると、捕まえた魔物を引き取る回収班を向かわせるが、翌朝になるという。


3人は魔物を川から引き上げ、逃げないように投網をしっかり縛りシェアハウスの土間に置いておいたのだが、シャキシャキ音がうるさく、その日の夜は眠れたものではなかった。



*****



3人娘が魔物を捕まえたその一部始終を、2階の窓から静かに見下ろしている影があった。


ゴブリンの先行者である。


1月ほど前、せとうち青雲高校にゴブリンエンペラーが発生し、続いて実体を持った強力な魔物である4つ首大蛇が発生する大事件が起こった。


4つ首大蛇を生み出したのは、他でもない、先行者である。


事件の後、先行者はこのまま学校内に潜伏を続けるのは危険であると判断し、テイムした人間である宅間氏の今治銀座の自宅に拠点を移したのであった。


先行者が今治銀座に引越したのには、もう一つ理由があった。


爆裂ヨーヨーの使い手である最強の女子高生、波方愛がせとうち青雲高校に生じる2つのゲートを破壊してしまったのだ。


瘴気とは星から溢れ出るエネルギーである。これまでせとうち青雲高校の2つのゲートから溢れていたエネルギーは、行き所を失った。


行き所を失ったエネルギーは、マグマのように力を溜め、新たな湧き場所を見つけた。


今治銀座の近くに新しいゲートがある。先行者としての感覚でそれが分かる。


魔物たちと交信を行い、情報を提供し、可能であれば実体を持った魔物をふたたび生み出したかった。


先行者はカーテンを閉じた。



*****



【今治銀座かわら版 妖怪注意報】


7月27日 御幸橋に小豆とぎが出ました!

ここ数日、「橋の下からシャキシャキという音がする」「橋の下にへんなオジさんがいる」という情報が寄せられていました。この妖怪は小豆とぎという名前で、近所の有志の活躍により捕獲されたそうです。

魔物を見かけられたら、決して近づかず、すぐに青年会にご連絡を。

このお話これからどうなるんだろうと、少しでもワクワクしてもらえてたら嬉しいです。

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次も頑張ります!

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