VS 赤鬼(1)
<シズカ、聞こえているか?>
<聞こえてる>
<今治銀座に魔物が3体発生した>
<知ってるよ。さっき感じた。放っておけばいいじゃない>
<彼らはエルデリアのコントロールを受けていない魔物だ>
<……>
<彼らは人を殺すかも知れない>
<……>
<私が話しかけても話がまるで通じなかった>
<……>
*****
日本奨学金財団からの連絡によると、魔物は今治銀座商店街から少し裏路地に入ったあたりに出現したようだった。
飛鳥の先導で、すっかり涼しくなった夜のシャッター街をジャージ姿の少女達がしばらく走ると、そこには身長2mはあろうかという大男が3人、あたりの様子を伺っていた。
大男は人間ではなかった。
人間よりも肌の色味が赤く、体は前後にぶ厚く、腕も足も太かったが、もっとも特徴的であったのは額に生えた1本の大きな角であった。獣皮でできた粗雑なパンツのみを身に着け、右手にはトゲのついた棍棒を持っていた。
「いたぞ、赤鬼だ」
飛鳥が竹刀を青眼に構えると、竹刀は剣先から白銀色を放ち始め、その輝きは竹刀全体を覆った。飛鳥のもつ白銀剣がその擬態を解いたのだ。
赤鬼達もこちらに気がついたようだ。
赤鬼のうち1匹が、一番手前にいる飛鳥に近づくと虫を踏み潰すような気軽さで棍棒を振りあげた。
ほんの刹那。
右前方へと駆け抜けた飛鳥が放った面抜き胴が決まった。赤鬼の上半身が宙を舞い
ドスン
と音を立てて地面に落ちた。赤鬼の目は信じられないものを見るように飛鳥を見ていたが、すぐに光を失った。飛鳥は油断せず、そのまま白銀剣を構え続けた。
戦いが同時に進行していた。
飛鳥が駆け出す直前、高速回転するモーターの甲高い音が頭上を通り過ぎ、赤鬼の顔面にぶつかった。
赤鬼の左目にはドローンが突き刺さっていた。
両手でプロポ(ドローンの操縦装置)を持った瑞鶴は微かに会心の笑みを浮かべた。瑞鶴の武器はドローンとそれに取り付けた特別なナイフであった。
「ガアアアッ」
赤鬼が棍棒を放し、両手で顔を払い除けた。ドローンは床に落ちるかと思いきや、その直前に再び空中に浮かび上がった。
赤鬼は顔を両手で覆いながらも1歩、2歩と踏み出した。そこには明奈が腰に両手を置いて少し首を傾げて立っていた。
残った右目で明奈を見つけた赤鬼が右腕を振り下ろした。
巨大な右腕が上から明奈を押しつぶすかと思われたが、明奈の右足が下から急角度で跳ね上がり、これを迎え撃った。
パーンッ
乾いた音がして、赤鬼の右腕が上に跳ね上げられた。
間髪置かず、明奈が体を捻り一瞬背中を見せた状態で空中に飛び上がった。
次の瞬間、赤鬼の顔面に右の回し蹴りが炸裂した。
「裏爆龍脚!」
踵の衝撃波発生装置で魔物を破壊する明奈の必殺技だ。体をその場に残し、赤鬼の頭部が右方向に消し飛んでいた。
赤鬼の残骸が倒れるかと思われたが、3体目の赤鬼が残骸を両手で掴んだ。赤鬼は仲間の残骸を明奈に向かって投げつけると、意外な俊敏さで瑞鶴に近づいた。
赤鬼の残骸を避けながら、明奈が叫んだ。
「あかん、はよ逃げぇぇ!!」
瑞鶴は赤鬼が近づいて来るのをただ見ていた。恐怖のあまり体が硬直し動かなかった。棍棒が眼前に迫ったその時、
ドドドッ
3発の光弾が赤鬼の胸部に命中した。赤鬼は衝撃で背後に吹き飛び、仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。
3人の少女達が背後を振り返ると、黒いゴスロリ服に身をつつんだ志津香が、射撃モードのマジシャンズステッキの構えを解いたところだった。
「もしかして、お邪魔だったかな?」
「お前……」
と言いかけた飛鳥の低い声を、明奈の明るい声が遮った。
「志津香さん! いやあ、ほんま助かりました! ありがとうございます。瑞鶴、この方、普通科の阿方志津香さん、ものすごい魔法使いなんやで! 瑞鶴もお礼いっとき!」
「……ありがとうございます」
志津香は一瞬飛鳥と目を合わせたが、何事もなかったかのように明奈と瑞鶴との会話を続けた。
「びっくりしたわ。妖怪が出たってご近所が大騒ぎしてるから急いで来てみたら、明奈ちゃんが普通に魔物と戦ってるんだもん」
「えへへ。私達、ボランティアでこの辺の魔物を掃除するようにって、奨学金をもろうてるところから言われてましてね」
「明奈ちゃん達も、いろいろ大変なんだね」
飛鳥は何も喋らず、志津香を睨みつけていた。
「瑞鶴も来た早々、えげつない洗礼やったなぁ! でもマジ良かったで! 赤鬼が楽に倒せたわ」
「ありがと。明奈も凄い蹴り技だった。あの技はなに? 何かやってたの?」
「我流やねん。いつの間にか使えるようになっとってん。変な話やねんけどな!」
明奈が志津香にウインクをした。エルデリアでスキルを会得したことは秘密にしているらしい。
甲高い音を立てて頭上をホバリングしていたドローンが着地した。瑞鶴はドローンを手に取ると、上から見たり下から見たりして、壊れたところがないか確認した。
「瑞鶴は、ドローンに取り付けたナイフで戦うスタイルなん?」
「そう。でも、すごく使いにくい」
瑞鶴はムッとした表情だ。
「この戦い方考えた人に文句言いたい。色々不便!」
瑞鶴にとってはかなり不本意な戦い方のようであった。
飛鳥は会話に加わらず、赤鬼を倒した場所に留まり、一人稽古を始めていた。
「あの人は、なぜ練習してるの?」
「ああ、飛鳥ね。あれ、練習ちゃうらしいですわ。赤鬼倒したあと、瘴気が残るから、剣で祓うとるねんて。ウチらには、なんも見えへんねんけど」
言われてみると、たしかに飛鳥は赤鬼の瘴気に対して熱心に白銀刀を振るっているようであった。飛鳥が白銀刀を振るう度に、瘴気は少しずつ薄れていった。
「それじゃあ、私、帰るね」
「はい! お疲れ様です!」
「おやすみ〜」
志津香の姿が見えなくなると、明奈は目を閉じて、深く息を吐いた。
「明奈、すごく緊張してなかった?」
「緊張するも何も、あの人はせとうち青雲高校の裏番やで!」
「うそ? あんな小悪魔系コスプレ美少女が?」
志津香は自宅での普段着がゴスロリである。そこを急遽、先行者に呼び出されたのだが、彼ら自身はそのことを知らなかった。
「なんでコスプレしてはるんかはよう分からへんねんけど……、晩ごはんの時、4つ首大蛇の話したやろ。その4つ首大蛇を学校のグランドもろとも究極光魔法メギドフレイムインフェルノ☆アポカリプス・ジ・エンドで焼き払ったんはあの御方ぞ!」
「えっ、うそでしょ?」
「うそやない。瑞鶴も無礼な態度とると、ドローンごと消し炭にされっぞ!」
「!!」
「飛鳥は志津香さんに無礼なこと、してへんよな?」
「……」
「ちょ、飛鳥なんで脂汗かいとん!?」
瑞鶴の今治初日はようやく幕を閉じたのであった。
*****
【今治銀座かわら版 妖怪注意報】
7月25日 金星橋で赤鬼の目撃情報!
ご近所から「大きな鬼が3匹暴れている」との目撃情報がありました。鬼はすぐに退治されたようですが、魔物を見かけられたら、決して近づかず、すぐに青年会にご連絡ください。
このお話これからどうなるんだろうと、少しでもワクワクしてもらえてたら嬉しいです。
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次も頑張ります!




