VS ゴブリンエンペラー(4)
<ゴブリンエンペラーを確認しました>
「爆龍脚が効かない!?」
「花梨、逃げて!」
紗良の警告は遅かった。ゴブリンエンペラーは巨体に似合わぬ速さで前に進み出ると、爆龍脚を放ったばかりの花梨に髑髏の盾を押し当てた。
ごうっ!
という音とともに衝撃波が盾から放出され、花梨を後方に吹き飛ばしていた。
髑髏の目が赤く光っていた。
花梨の体は数メートルの距離を飛び、廊下の壁に叩きつけられ、顔面から床に倒れた。
「花梨!」
紗良が駆け寄り、上半身を起こした。
「ヒール!」
紗良が手早く治癒魔法を施すと、すぐに花梨が意識を取り戻した。
「あ、紗良? わたし、どうなったの?」
「爆龍脚が吸収されて、跳ね返されたの」
紗良が花梨を助け起こす様子を、ゴブリンエンペラーは強者の風格で見つめていた。周りのゴブリン達は巻き添えを食らうのを恐れてか、ゴブリンエンペラーを恐れてか、この戦いを遠巻きに観戦していた。
花梨はようやく攻撃の構えをとり、紗良もファイティングポーズをとった。が、攻撃を繰り出すことができない。うかつに近づけば髑髏の盾で反撃を食らってしまうからだ。
つかの間の均衡を破ったのはゴブリンエンペラーだった。
「ᛞᛖᚾᚷᛖᚲᛃᚨ〜」
ゴブリンエンペラーが紗良に向けて髑髏杖を突き出すと、髑髏の目が赤く輝いた。
「やばい!」
廊下は狭く横方向には逃げ場所がない。紗良が咄嗟に左後方に避けると同時に、大きく開いた髑髏の口から紫電が放たれた。
先程まで紗良の立っていた位置に紫色の電撃が直撃した。逃げる紗良を追って2度、3度と紫電が走った。紫電の落ちた床は黒く焼け焦げていた。
その間、花梨が何もしなかった訳では無い。花梨は通常の蹴りでゴブリンエンペラーを攻撃し続けていたのだが、すべての攻撃を髑髏の盾で捌かれて、攻撃の間のほんの一瞬の隙をついて盾をぶつけられ、後方に弾き飛ばされた。
(強い……、だが!)
紗良がゴブリンエンペラーに向かってジグザグに走り出した。
「花梨!」
「ええ!」
花梨も同時に動いた。ゴブリンエンペラーとの距離を一気に詰めると、紗良はゴブリンエンペラーの右から、花梨は左から攻撃を始めた。通常のパンチや蹴りではゴブリンエンペラーにダメージを与えることはできない。だが紗良と花梨には勝算があった。
かねてから、髑髏の盾については放課後の定例ミーティングでも攻略法を考えていたのだ。たとえ髑髏の盾がどんな強力な防御能力を有していたとしても、2方向からの同時攻撃は防ぎきれない。
紗良と花梨の猛攻が続く。だが、ゴブリンエンペラーは余裕だ。杖を握ったままの巨大な拳で紗良の攻撃をいなし、盾で花梨の攻撃をいなす。たまに腕や足に攻撃を食らっても意に介した様子がない。まさに支配者の余裕だ。
だがその余裕が命取りになる! 紗良が花梨に目で合図を送った。
「爆裂ナックル右ストレート!」
「爆龍脚!」
右と左から、2人の必殺技が同時にゴブリンエンペラーに襲いかかった。
だが、ゴブリンエンペラーには同時攻撃に対する備えがあった。髑髏杖を床に打ち付けると、髑髏が目を光らせて謎の言葉を発した。
「ᛉᚢᚷᚱᚨᛏᚲᚨᛁ、ᚺᛁᚲᚨᛖᚱᛟᛚ」
その瞬間、紗良と花梨は床に叩きつけられた。突然、頭を、肩を、両腕を、腰を、両脚を見えない強い力で上から押さえられ、床に押し付けられた。
「くっ、どうなってるの?」
「髑髏杖の効果よ!」
紗良は強大な力に抗い、震える手を床につき、渾身の力を振り絞って身を起こそうとするが、その度に、かえってさらに強い力で押さえつけられ、廊下の床に顔面を押し付けられるのだった。
「ああっ!」
何度も立ち上がろうとしては崩れ落ちる2人の様子を、ゴブリンエンペラーはまるで喜劇でも見るように悠然と眺めていたが、やがて、我慢できないとい様子で笑い出した。
「ゔ、ゔ、ゔぉっゔぉっ! ゔぉっゔぉっゔぉっゔぉっ!」
せとうち青雲高校の廊下にゴブリンの王者の低い笑い声が響き渡った。
最強の杖と最強の盾を装備したゴブリンエンペラーは、まさに無敵の魔物だった。
遠巻きに眺めていた雑魚ゴブリン達も、この局面に至って、床で身悶えする2人に近づいて間近で嘲弄を始めた。
「ゔぉあ、ゔぉあ、ゔぉあ」
「ゔぉーああ、ゔぉーああ」
一匹のゴブリンが恐る恐る近づき、震えながらも起き上がりかけた紗良の腰を棍棒の先で突つくと、紗良は再び力なく床に崩れ落ちた。それを皮切りに雑魚ゴブリンが2人を取り囲み、棍棒で小突き、足蹴にし始めた。
頭部を棍棒で殴られた花梨が頭をかばい、体を丸めた。ゴブリンの小さな足が何度も何度も花梨の体を蹴った。
「花梨! あぐうっ!」
声を上げた紗良の横腹に大きく蹴りが入った。横腹を蹴られ仰向けになった紗良に雑魚ゴブリンたちが殺到した。
あるゴブリンは馬乗りになり、あるゴブリンはを両足を押さえつけた。紗良にはなすすべもなかった。
容赦のない暴力が、紗良に次々と叩き込まれた。
「ぐえ?」
「ぐえ、ぐえ」
階段から別の階にいたゴブリン達が「遊び」に参加しにきたようだ。
一匹。
また一匹と。
床に倒された獲物へと群がってゆく。
その様子を、ゴブリンエンペラーは満足げに見下ろすのだった。
最初は激しく抵抗していた獲物の動きが次第に鈍くなり、やがて止まった。
「ぐえ!」
「ぐえ、ぐえ」
「ぐえ」
「ぐえ」
「ぐえ、ぐえ」
そのとき、鋭利な破壊音が空気を切り裂いた。
ガァシャーン!!
ゴブリンエンペラーが背後を振り返ると、ゲートの黒い欠片が砕け散る向こう側に、爆裂ヨーヨーを半身に構えた愛の姿があった。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます!
このお話これからどうなるんだろうと、少しでもワクワクしてもらえてたら嬉しいです。
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