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VS ゴブリンリーダー

「ピンポンパンポーン」


 チャイム音に続き、抑揚のない音声が校内に響いた。


「魔物がァ、発生しましたァ。生徒はァ、落ち着いてェ、グランドにィ、避難しましょう」


 白昼のせとうち青雲高校に魔物が発生するようになってからゴールデンウィークを挟んで既に3週間が経過した。その期間中に作成したのであろう、魔物発生を知らせる校内警報が流れるようになった。


 国語総合の教師が小さなため息をひとつ漏らし、手に持った教科書を閉じた。


「みなさん、落ち着いてグランドに移動します」


 今週にはいってからは既に2回目の避難であった。いつものように、ひらりと身を翻して、波方愛は皆とは逆の方に向かって歩き出した。


(最近、魔物が発生するペースが上がってる)


 愛はグランドへと避難する生徒達を避けながら歩みを早めた。今週は昼間にゴブリン3体。夜間の討伐数を含めると9体。そして今日は――


 階段の上から、重低音のような咆哮が聞こえた。


「ぐお〜。ぐお〜」

「……悪い予感しかしない」


 愛は階段を駆け上った。3階に上がり廊下を進むと、その先に生徒の頭髪を鷲掴みにして、辺りを睥睨している魔物がいた。通常のゴブリンより、頭ひとつ分、大きい体躯。160cmはあるだろうか。全体的により筋肉質となり、濁った黄色い目が愛を睨みつけていた。


「……ゴブリン?」


<ゴブリンリーダーを確認しました>


 愛の耳腔に女性の声が反響した。


「ゴブリンリーダーかあ」


 ゴブリンリーダーは8匹のゴブリンを従えていた。8匹のゴブリンのうち、2匹がゴブリンリーダーの両脇を固め、6匹が前衛となって棍棒を構え、明らかに愛を待ち構えていた。


 愛は両手をポケットに入れたまま、ゆっくりと距離を詰めていった。右ポケットに爆裂ヨーヨーの重さを感じた。これまでにいくつもの修羅場をともに生き延びてきた頼もしい相棒だった。


 前衛のゴブリン達が犬歯をむき出して威嚇した。ヨーヨーの射程範囲である1mに到達した時、腰の位置から銀色の輝きが一閃し、一番先頭にいたゴブリンの頭が爆散した。


 それを皮切りに、恐れを知らぬゴブリン達は一斉に愛に襲いかかった。愛の武器である爆裂ヨーヨーの射程範囲は紐の長さである1m強といったところであり、それよりも懐に入られると危険であった。


 愛は後方へとバックステップしながらヨーヨーを放った。


 猟犬が獲物を咥えて主人のもとに戻るように、銀色の凶器が愛の手元に戻るたびにゴブリンの頭部が爆散した。


 愛の右側に回り込むことに成功した1匹のゴブリンが一瞬の隙をついて、愛の右手に取りついた。好機とばかりに、残りの2匹のゴブリンが同時に愛に襲いかかった。


 愛は冷静だ。ヨーヨー本体を左手に持ち替えて、右手にしがみついたゴブリンをヨーヨーで殴った。ゴブリンの頭部が爆散した。


 愛はバックステップしながら自由になった右手をサイドスローにしてヨーヨーを投擲した。ヨーヨーは近い位置にいたゴブリンの顔面にぶつかり、その反射の方向は紐繰りで軌道修正され、次のゴブリンの顔面にぶつかったところで手元に引き戻された。ヨーヨーが愛の手元に戻った時、2匹のゴブリンの頭部が矢継ぎ早に爆散した。


 最初のゴブリンの頭部が爆散してから、ほんの数秒も経っていなかった。


 愛は何事もなかったかのようにゴブリンリーダーへと近づいてゆく。


 ひゅん…ひゅん…


 愛の右手の動きに追従して、重金属でできたヨーヨーが重たげに上下した。ゴブリンリーダーは憎らしげに愛を睨んでいたが、何かを思いつた様子でニヤリ、と邪悪に口元を歪めた。


「ぐお。ぐお」


 ゴブリンリーダーは頭髪を掴んで生徒を立たせた。生徒の四肢はだらりとして、まるで糸の切れた操り人形のようだった。愛が近づこうとすると、ゴブリンリーダーは左腕で生徒の首を締め上げながら、右腕に持った棍棒で愛を牽制した。生徒は人間の盾であった。


「う、ううっ」


 盾にされた生徒が苦しげに喘いだ。


 ゴブリンリーダーと愛の間の距離は5mだろうか。明らかにヨーヨーの射程距離外だった。


 1匹のゴブリンが愛に近づき、撲りかかろうとした。


 その瞬間、ヨーヨーが宙を走りゴブリンの頭部が爆散した。


「ぐお! ぐお〜!」


 ゴブリンリーダーが何事かを喚いて、生徒の首をいっそう強く締め上げた。生徒の顔色が悪い。時間がなかった。


 もう1匹のゴブリンが恐る恐る近づいて、愛の体を棍棒で突いた。


 愛の右手は動かなかった。


 ゴブリンは更に愛に近づくと、棍棒の先で愛の腕を押した。何も起きなかった。


 ゴブリンは後ろを振り返り、ゴブリンリーダーと目で笑いあった。


 調子に乗ったゴブリンが愛に向き直り、今度は棍棒の先で愛の腹部を強めに押した。何も起きなかった。


 ゴブリンは残酷な喜びを露わに、愛の右手を棍棒で殴ろうとしたその瞬間、愛の右手から爆裂ヨーヨーが放たれた。


 ヨーヨーは1mの距離をすぎても止まることなく、一直線にゴブリンリーダーの顔面に向かって飛んでゆき、そのまま顔面にのめり込んだ。


「えんじょい♡」

「ぐゲボン!」


 いまや定番となりつつあるコーレスとともに、ゴブリンリーダーの頭部が爆散した。


 愛の右手からは千切れたヨーヨーの銀糸が垂れ下がっていた。


 1匹だけ残ったゴブリンが呆然と立っていた。愛はゴブリンの首を無造作にひねった。


 ころころころ……


 と転がってきたヨーヨーの本体を、愛は静かに拾い上げた。


「奥の手は最後まで見せんもんよ……」


 ポロロ〜ン、と間の抜けたアナウンス音が愛の耳腔に鳴り響いた。


「やった〜〜。今のでレベルが上がったよ〜〜!」


 【ステータス】

 名前:波方 愛

 種族:人間

 職業:巫女

 称号:-

 レベル:6(↑+1)

 体力:60 / 60(↑+10)

 チャージ:-/-

 力:25(↑+5)

 俊敏:60(↑+10)

 装備:爆裂ヨーヨー(USR)

 スキル:隠密、暗視

     ヒール(小)

     浄化(小)

     ヨーヨー連撃

     奥の手

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