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番外編:VS ワーウルフ(3)

(……馬鹿だなあ、私は……もう遅いね)


紗良がついに膝をついた。


雑魚ゴブリン達が高まる興奮に我を忘れた時、背後に黒い影が立った。


黒い影は獣の顔を持った学生服姿の男だった。獣面の男は牙を剥いた。手近のゴブリンの首と頭を掴むと一瞬で


ベキリ


と折り捨て、振り返った隣のゴブリンの両目に中指と人差し指を突き込み、そのまま床に叩きつけた。


最後に残ったゴブリンは反応する時間があった。だが、ただそれだけだった。ゴブリンは棍棒を振り上げたところで男に腕を弾かれ、がら空きになった顔面に右の拳を叩き込まれた。


メリッ


男の拳から顔面が外れると、壊れた玩具のようにゴブリンが崩れ落ちた。


「がるるるっ」


男の喉から獣の唸り声が響いた。


振り返ったゴブリンロードと目が合うと、ますます大きく牙を剥き出した。


先に動いたのはゴブリンロードだった。髑髏の盾を獣面の男に叩きつけるが、男は素早く身を躱した。ゴブリンロードの執拗な攻撃を男は粘り強く捌き続けたが、ガードの上からも衝撃が襲い、ダメージが蓄積してゆく。だが、獣面の男の目は光を失わない。


目前の勝利を掴みそこねたゴブリンロードは、焦りから不用意に大きく盾を突き出した。


獣面の男はこの瞬間を待っていた。両手でゴブリンロードの左腕と盾をがっちりと抑え込んだ。ゴブリンロードは棍棒で男を何度も撲るが、男は両手を決して離そうとしなかった。


獣面の男が紗良を見た。目と目があった。チャンスだった。


「爆裂右ストレート!!」


防御する術を失ったゴブリンロードに紗良が爆音とともに渾身の爆裂拳を叩き込んだ。


上半身を半ば粉砕され、ゴブリンロードは崩れ落ちた。


紗良は獣面の男を見つめた。狼のような恐ろしい容貌だが、紗良がよく知っている熱くて優しい目だった。


「さ、ら……」

「助けてくれたんは、淳やったんやね」


紗良は淳に伝えたい言葉があったが、いざ口にしようとすると体が固まってしまう。


紗良は胸の前で組んだ両手に力を込めた。


「淳、あのね、私……」


獣面の男が右手のひらを前にだした。


すぐ側に小さな段ボール箱を抱えた奇妙なゴブリンが立っていた。そのゴブリンの口や鼻は小さく目の黄色も薄く、まるで人間の子供のように見えた。


牙を剥く獣面の男に、ゴブリンはまるで怯える生き物を怖がらせないような足取りで慎重に近づくと、


「ᛚᛁᛚᛁᚨ ᛏᚨᛁᛗ ᚾᛟᚨ ᚲᛁᚱ ᚠᛖᛏᚺ」


と小さな声で話しかけた。


獣面の男は誘惑に抵抗するかのように頭を振るが、ゴブリンは男の手を掴んで目を覗き込んだ。


「ᛞᚨᛖᚱ ᚲᛟᚹᚨ ᚾᛟᚱ ᛏᚨᛁᛗ ᚲᛁᚱᛗᛁᚨ ᚲᛟᚲᛟᚱ ᛒᛟᚲᚨ ᛗᛟᚾ」


男が跪くとゴブリンはその頭をぽんぽんと軽く叩いた。


「ᚨᚾᚨ ᚾᛁᚷᚱᚨᚾ ᚹᚨᛋᚲᛖᛏ」


ゴブリンはそれだけをいうと、背を向けて走り去ってしまった。紗良には何が起こっているのか分からなかった。獣面の男を見ると、獣面の男は立ち上がったところだった。


「淳、どうしたの?」


緊張した紗良の声に獣面の男が牙を剥き出した。


「がるるるっっ、がるるるっっ」


紗良を見る相貌が憎々しげに歪んでいた。優しい光が男の目から失われていた。


男が四つん這いの姿勢から紗良を急襲する。紗良は咄嗟にサイドステップで鋭い爪を躱すが、まるで1つの動きのように滑らかに連続して攻撃が繰り出される。


「どうしたの、やめて!

 私よ、分からんの?」


男の追撃は止まらなかった。紗良は防戦に徹していたが、次々に繰り出される鋭い爪の連撃がついに紗良を袈裟斬りにした。


「ガァァッ!」

「きゃあ」


衝撃が紗良を廊下の壁に打ち付けた。男は壁際に追い詰めた傷だらけの紗良を見下ろした。


紗良は祈るような気持ちで男の目を見つめた。


どれくらいの間、そうしていたのだろうか。突然、紗良の顔に男の鮮血が降り注いだ。


「え?」


男は廊下に面した窓枠に残ったガラスの破片で自らの手首を切っていた。男の手首から血が溢れ出し、廊下に崩れ落ちた。


男の容貌が獣から人間に戻り、淳の優しい目が紗良を見つめた。


「紗良……、ごめん、君を守れなくて」


心臓の拍動とともに血が溢れ出し、淳の目から光が急速に失われていった。


「淳、いやだ、どうして?

 愛? だれか?

 だれか! 助けて!」


紗良は淳の手首を押さえるが血が止まらない。


感情の洪水が紗良を襲った。どうして自分はゴブリンロードに無謀にも突っ込んでいったのか。どうして自分だけは大丈夫だと思ったのか。どうして自分はこの気持ちにもっと早く気付けなかったのか。


今、淳の命の灯火が消えようとしていた。この冷酷な現実に際して、紗良は淳を救うためならば何でもする、どんな無理なことだって押し通して、自身の生命すら差し出すことも構わないと感じた。


淳のためならば命だって捨てられる。とてつもなく自分勝手なのに無私である不思議な感情。


「淳、死なないで……

 愛してる!」


これまで感じたことがなかった自分の心の奥深く。そこに存在する熱いエネルギー。涙とともに心の奥から暖かい力が流れ出した。


その力は紗良の生命の力そのものだった。生命の力は紗良から溢れ出すと、傷ついた淳の体に染み込んで傷を癒やしていった。紗良は淳の体内に巣食っていた瘴気の塊を感知すると、紗良から溢れ出た生命力は魔物化の原因であるその瘴気も浄化していった。


「……紗良?」


紗良の膝の上で淳が目を開いた。


「なぜ泣いてる? 誰に泣かされた?」


紗良が笑った。


「淳に泣かされたんよ!」


 【ステータス】

 名前:宝来 紗良

 種族:人間

 職業:拳闘士

 称号:-

 レベル:6

 体力:5 / 80

 チャージ:70 / 80

 力:35

 俊敏:60

 装備:なし

 スキル:隠密、暗視

     爆裂拳(中)

      爆裂右ストレート、使用チャージ10

      爆裂左フック、使用チャージ10

     ヒール(小)

     浄化(小)



******



「淳、死なないで……愛してる!」

「……紗良? なぜ泣いてる? 誰に泣かされた?」

「淳に泣かされたんよ!」


愛が駆けつけ、声を掛けようとした時、紗良が治癒と浄化の能力を同時に発現した。


愛はその様子を少し離れた場所から見ていたが、2人に気づかれないように、そっとその場を後にした。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます!

今回のお話、少しでも「いいな」と思ってもらえてたら嬉しいです。


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次も頑張ります!

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