番外編:VS ワーウルフ(2)
番外編では、ゴブリンキング(4)で紗良のピンチを救った学生服の男が誰だったのか、なぜ吸血種(1)の時点で愛と紗良の連携がうまく行かなくなったのかが明らかになります。
今回のお話の時系列はサキュバス(6)の後となります。
「魔物がァ、発生しましたァ」
魔物警報が終わりきらぬ内に生徒達は椅子から立ち上がるとグランドへと移動を始めた。志津香は座ったまま両手を膝の上に置いて、何かを感じ取ろうとするように目を閉じていた。愛と紗良が足早に近づいた。
「ゴブリンだと思うけど、最近一度に発生するゴブリンの数が増えてきとるんよね」
「前回は本当に大変な目にあったよね」
「愛がフラグ立てまくるけん」
顔を上げた志津香に愛が尋ねた。
「どう? どこに出たか、分かりそう?」
「体育館のほうに30匹くらい、職員室のほうに10匹くらい、分かれて出現したみたい」
愛が難しい顔で紗良をみた。
「ということは、27匹と9匹が2箇所に出現したパターンやね。どっちかにゴブリンロードがいるかも」
「アーチャーも厄介だね」
愛は即座に判断した。
「体育館のほうは私が行く。紗良は職員室のほうをお願い。ゴブリンアーチャーにくれぐれも注意して。障害物を上手く利用して」
「分かった」
「人命救助を最優先。わたしが合流するまで、体力は温存。無理は絶対にしないこと」
「分かってる! 職員室は任せて!」
「じゃあ、レッツゴー!」
紗良と愛は教室を駆け出した。階段で愛と分かれ、紗良は3階へ駆け上がり、逃げる生徒や教職員達のすきまを縫うように職員室へと走った。
職員室に近づくにつれて、盾を持った大きなゴブリンが紗良を待ち構えているのが目に入った。大きなゴブリンの足元では配下のゴブリンに囲まれて生徒と教職員が痛めつけられていた。
<ゴブリンロードの特殊個体を確認しました>
紗良の耳腔に女性の声が反響した。
筋肉質のゴブリンロードは右手に棍棒、左手には不気味な髑髏の意匠が施された盾を持っていた。髑髏の目が赤く光っていた。
だが、紗良の動きに微塵の恐れも迷いもない。爆裂拳の威力はこれまでのゴブリン戦で証明済みだ。
スピードを落とすことなくゴブリンロードに近づき、右腕を後ろに大きく引いて体ごとぶつけてゆく。
「爆裂右ストレートッ!」
ゴブリンロードの持つ盾が吸い付くように紗良の右拳を阻んだ。
ごん
廊下に低い金属音が反響した。
「……っ! 不発?」
髑髏の盾を前面に掲げ、ゴブリンロードが前にでた。爆裂拳を封じられた紗良がファイティングポーズのままフリーズする。
ゴブリンロードが盾を軽く紗良にぶつけたインパクトの瞬間、髑髏の目がひときわ赤く光った。
ドゴーン!
轟音とともに盾から爆裂拳の威力が放出され、咄嗟に両腕でガードした紗良を弾き飛ばした。
紗良は壁にぶつかり、もんどり打って倒れた。
(そんな……? 爆裂拳?)
用心深いゴブリンロードは盾の構えを崩さずに、床に手をついた紗良に棍棒を振り下ろした。
紗良は間一髪で横に転がって回避するが、ゴブリンロードの追撃は止まらない。二転三転し、ようやく立ち上がりファイティングポーズをとり、ゴブリンロードと対峙した。
(爆裂拳の威力が吸収される?!)
ゴブリンロードが左手に持った盾を正面に掲げて紗良に迫った。紗良が思わず後ずさると背中が廊下の壁に当たった。ゴブリンロードが薄く笑ったように見えた。
襲いかかる棍棒を紗良はギリギリで回避したが、即座にゴブリンロードは左手に持った盾で紗良の顔面をしたたかに打ち付ける。とっさに右手でガードすると、今度はそれを見越したかのように棍棒の先が紗良の腹部に打ち出された。
「うっ」
そこからの紗良はまるでリングコーナーに追い詰められたボクサーのようにサンドバッグ状態になった。
「こんな・・・・・・」
紗良からどんどんHPが削られてゆく。紗良の表情が苦悶に歪んだ。
「ぐぅえ! ぐぅえ!」
一方的な戦いだった。周囲の雑魚ゴブリン達は棍棒をかかげ歓声を上げた。
雑魚ゴブリンたちに痛めつけられていた生徒や教師達はいつのまにか逃げ出していた。紗良は惨めな孤独を感じた。
髑髏の盾が紗良の顔面を強打し、一瞬だけ紗良の意識が飛ぶ。
「くっ!」
下がりかけたガードを構え直す。
再び髑髏の盾が突き出され、紗良はとっさに顔面をガードするが、盾はフェイントで再び腹部を打ち据えられた。
紗良はもはやジリ貧だった。雑魚ゴブリン達の歓声が止まらない。
「ぐぅえ! ぐぅえ!」
「ぐぅえ! ぐぅえ!」
四面楚歌の中で紗良の孤独な戦いが続いた。HPは次第に削られ、紗良の脳裏を死の一文字がかすめた。
(こんなところで!)
怒りの炎を燃やそうとするが、気持ちに反して紗良の意識は朦朧となった。
「体力は温存。無理は絶対にしないこと」
紗良に念を押した愛の姿が浮かび、いつのまにか心配性の幼馴染の姿に変わる。
「約束してほしいんよ。絶対に危ないことはせんて。自分の身を大事にするって」
心配そうな眼差しと、その奥の熱いけれど優しい光。
(あっ、そうか……私は……)
紗良は孤独と死の予感のなかで初めて理解した。
(もっと早く分かっていたら、もしかしたら……)
紗良の両腕のガードが下がりだしたのを見たゴブリンロードは攻撃に拍車をかけた。
(……馬鹿だなあ、私は……もう遅いね)
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