番外編:VS ワーウルフ(1)
番外編では、ゴブリンキング編で紗良のピンチを救った学生服の男が誰だったのか、なぜ吸血種編開始の時点で愛と紗良の連携がうまく行かなくなったのか、が明らかになります。
話は少しさかのぼり、サキュバス編1の直後(放課後)から始まります。
午後の陽光が降り注ぎ、今治市の市街地にはすでに初夏の気配が漂っていた。
学生服姿の大柄な少年と、美しい少女が並んで歩いていた。
少女の髪が海からの心地よい風にさらさらとたなびいていた。白いブラウスは緩やかで子供らしさを残していたが、風が吹くとモデルのように美しいスタイルが不意にエンボスされて、そこに大人の女性が潜んでいるのに、少年は気付かされるのだ。
少年は180cm近くの長身だ。格闘技か何かをやっているのであろう、分厚い体をしていた。少年の隣をあるく少女の身長も低くはないのだが、こうして並んで歩くと少年の肩に届かず、まるで大人と子供のようだった。少年とは対照的に、少女はほっそりした体つきをしていた。
少年はせとうち青雲高校の近くにある公立高校3年の越智淳、少女はせとうち青雲高校2年の宝来紗良だ。2人は家が隣同士で年齢が近いこともあって子供の頃から一緒に遊んだり、何気ない時間をともに過ごすことが多かった。紗良がせとうち青雲高校に進学してからは、こうして機会を見つけては一緒に帰宅していた。
4月に魔物の発生が確認されてから、せとうち青雲高校では校内での部活動が全面禁止となっていた。ダンス部の活動が行えないのは残念ではあったが、部活動から引退して受験勉強を始めた年上の幼馴染との帰り道は紗良にとってかけがえのない時間となっていた。
「それでね、猫が2本足で立って愛の部屋のテレビを担いで持っていってしもうたんやって――」
「そうなん? いや、それはないやろ」
楽しそうに話す紗良の笑顔が揺れる。普段の紗良の声よりもほんの僅か柔らかい。
「嘘やろっていうたら、真剣な顔してこの目で見たんだから間違いないっていうんよ!」
「……」
紗良はようやく淳の表情が暗いことに気がついたようだった。
「どうしたん、淳? なにか心配なことでもあるん?」
「……なあ、紗良」
淳はまっすぐ紗良の目を見つめた。一瞬目が合ったが、紗良は目を逸らした。淳は歩みを止め、眼差しを空に向け浅く呼吸をして、再び紗良に眼差しを戻した。
「危ないこと、しとらんよな?」
「え?」
紗良がふたたび目を逸らした。紗良には心当たりがあった。有りすぎた。
つい先日もゴブリンキングとの戦いで辛うじて勝利を収めたものの、学生服姿の男がいなかったら、一歩間違えば殺されていたところだった。
この保護欲の強い幼馴染の前で、最近ゴブリンと死闘を繰り広げています、などとは間違っても口にしてはいけなかった。紗良は何事もなかったかのように微笑んだ。
「何いうとるん? するわけないやろ〜」
「本当に?」
「本当よ。淳は昔っから心配性!」
紗良はくすりと笑って視線を逸らすと、風に乱れる髪を手でおさえた。淳は紗良の美しい横顔を見つめてため息をついた。
「紗良……」
「なに?」
「約束してほしいんよ。絶対に危ないことはせんて。自分の身を大事にするって」
「どうしちゃったの突然? 淳、なんか変やよ?」
淳はうつむいて、しばらくそうしていたが、ややあって顔を上げて笑った。
「そんなに俺って心配性かな?」
「そうだよ。それに私、こう見えても強いんだから」
紗良がガッツポーズをしてみせた。2人は笑い合った。
「あ、そうだ、淳。数学でiって出てきたんだけど、教えてくれん?」
「iか。iは……難しいね」
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