閑話:新聞部のインタビュー(2)
新聞部部長である女子生徒、石持はこの日を一日千秋の思いで待っていた。
私立せとうち青雲高校3階の旧職員室付近は魔物発生の特異点であった。例年、2年6組は職員室の隣であり、石持はその2年6組の生徒だった。
いまでこそ、職員室や隣接する2年6組の教室などは旧校舎に移転したため、魔物に襲われる恐れは少なくなったが、5月までは魔物が発生した際、間近にゴブリンを目撃することもあった。
始めて白昼の校舎にゴブリンが発生した日、石持は持ち前のジャーナリズム精神を発揮し、写真や動画を撮影していたのだが、いかんせん、ゴブリンに近づき過ぎた。
石持はいざとなれば逃げればよいのだと軽く考えていたが、退路を封じられ、棍棒で強かに打ち据えられて、あっけなく捕らえられてしまった。その後にゴブリンにされたことも含め、これまでの石持の人生のなかで最も恐怖を感じた出来事であった。
そんなときに石持は波方愛に助けられた。愛は2匹のゴブリンと死闘を繰り広げ討伐したうえ、うずくまる石持に優しく声を掛け、不思議な力で怪我を治癒してくれたのであった。恐怖も深ければ、その分、感謝の思いも深かった。
その日以来、石持は愛の熱烈な信奉者である。
今日は愛を含めて5人の女子生徒のインタビューを行うことになったため、新聞部の部室である社会科準備室では狭いだろうという学校側の配慮により特別に応接室を使用させてもらえることになった。
石持は緊張を表に出さないよう、努めて平静を装いつつインタビューを開始した。
石持:本日はインタビューに応じて頂き、ありがとうございます。
愛 :いえ。ただ、学校の応接室なので、少し緊張しています。
紗良以下4人が頷いた。5人の前にはお茶も出ていた。石持は笑顔を見せた。
石持:驚かせてしまってごめんなさい(笑)
愛 :あ、いえいえ。大丈夫です(笑)
石持:これはオフレコですが、ゴブリンから助けて頂いてありがとうございました。あの時はまともにお礼もできず、申し訳ありませんでした。
愛 :あ、やっぱり、あの時の?
石持:はい。お陰様で、何事もなく生活できています
愛 :よかったです
石持の胸に熱い思いがあふれるがぐっと堪えた。
石持:え、さて、さっそく本題に入りますが、皆さんが魔物と戦っているという噂は本当ですか?
愛 :いいんかな、いっちゃって?
石持:大丈夫です。学校側の許可はとってあります
愛 :そうなんですね。えーっと、じゃあ、はい、本当です
石持:すごい! 波方さんは魔物は怖くないですか?
愛 :怖いという気持ちもありますが、守りたいという気持ちのほうが強いです
石持:生徒の一人として、あらためて、ありがとうございます
愛 :いえ、そんな
石持:魔物と最初に戦ったときはどのように感じましたか?
愛 :最初に戦った魔物はゴブリンだったんですが、最初は物凄く怖かったです。後ろからチョークスリーパーをかけられたこともありますよ(笑)
石持:ひどいゴブリンですね
愛 :でも、あのゴブリンのお陰で今の私があるんだと考えると、あの首絞めゴブリンに感謝ですね(笑)
石持:ゴブリンについて教えて下さい
愛 :ゴブリンは身長140cmくらいで、目が黄色くて、体は緑色をしています。指は3本しかないので、地球上の生き物ではないと言われています。ネットの受け売りですけどね(笑)
石持:意外と小さいですね
愛 :はい、私が150cmくらいなので、私よりも小さいです
石持:ゴブリンは強いですか?
愛 :いえ、ゴブリンは一番弱い魔物です。ただ、ゴブリンが大量に発生すると、ゴブリンエンペラーやゴブリンキングといった上位個体が発生します。これらのゴブリンは体も大きく、知能も高くなり、魔法を使ったりするので、手強いです
石持:ゴブリンエンペラーは強そうですね
愛 :はい。私一人では太刀打ちできないですけど、助けてくれる友人がいるので、きっと頑張れます
石持は5人全員に向き直った。
石持:皆さんはどういった経緯で魔物と戦うことになったんですか
紗良:……スカウトかなあ。学校のとある場所でスカウトされたって感じ?
石持:えっ、そうなんですか。学校内で? これはスクープですね(笑)
愛 :でも、実際、私達もよくわかってないんです。選考基準とか
花梨:かわいいからよ(笑)
明奈:せやせや、かわいいから(笑)
志津香:自分でいっちゃうんだ(笑)
石持:そうですよね。皆さんかなりの美少女揃いですよね。宝来さんってモデルみたい
紗良が赤面し、お茶を口に含んだ。子供の頃から綺麗と言われるのが苦手な紗良だった。
石持:波方さんにはファンクラブもあると聞きしました
愛 :恥ずかしい
石持:波方さんに魔物から助けられた生徒や教職員が大勢いますからね
愛 :たくさんの人を守ることができたのは、それだけで、とっても嬉しいです
(愛さま!! なんという尊いお言葉!)
石持は愛に抱きつき、己の感情を吐露したい危険な衝動を抑えるのに必死であった。
石持:素敵です。波方さんには、神様から何か重要な役目が与えられているのかも
愛 :そんな大げさな(笑)
石持は愛のことを女神、さもなければ天使だと本気で考えていた。このまま愛と会話を続けると昇天しそうだった。胸の高鳴りを鎮めなければならなかった。冷水を飲む代わりに、その他の有象無象4人に向き直った。
石持:おほん。皆さんは実際に魔物と戦って、どう思いましたか?
紗良:魔物がだんだん強くなっていくけど、力だけじゃなくて人を守る力を身につけたいです
花梨:私は波方さんと同じ気持ちです
明奈:ウチも大勢の人を助けたいかなあ
志津香:私は波方さん達4人のサポートを頑張りたいです
石持:ところで、最近妙な噂があるのをご存じですか?
愛 :噂ですか?
石持:構内に段ボール箱を抱えた子供の霊がでるという噂です。
愛 :え、怖い
石持:霊魂関係の退治は?
愛 :できないです。お化けはちょっと。専門外です(笑)
石持はそろそろ締め時であると判断した。
石持:では、波方さん、全校へのメッセージがあれば、お願いします
愛 :いつも私達の魔物退治にご協力頂き、ありがとうございます。魔物の発生は、せとうち青雲高校だけの危機ではなく、この世界の危機だと思っています。魔物は退治したあと、きちんと浄化しなければ、再発生の恐れがあり危険ですが、私達は魔物を浄化することができます。魔物を見かけたら、決して自分から攻撃せず、すみやかに避難してください。これからもご協力よろしくお願いします。
石持:皆さん、本日はありがとうございました。
石持は愛と直接話をすることができた感動と喜びをひしひしと感じるとともに、醜態をさらさずに無事インタビューを終えることができて、ほっと胸をなでおろした。
愛にチョークスリーパーをかけたゴブリンについては、本作品の前日譚「愛ちゃんの異世界奮闘記」もぜひご一読ください。
愛ちゃんの異世界奮闘記
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