VS 吸血種(1)
愛と紗良の連携がうまく行かなくなった理由については、最終決戦前の番外編にてお話いたします。
愛と紗良は人知れず、夜の私立せとうち青雲高校で熾烈な戦いを続けていた。
せとうち青雲高校という場所は、魔物の発生という事象において、明らかに特異点であった。ゴブリン種、スケルトン種と発生が続き、いまや吸血種が発生していた。
吸血種は厄介であった。素早い動き、飛行能力に加えて、強力な再生能力を有していた。唯一、集団で出現しない点だけが救いだった。
昨日の夜は2人で散々追い回した挙げ句に、結局逃げられてしまった。おかげで本日は2人とも寝不足である。
眠い目をこすりながら、もしくは舟を漕いでいるのを教師に注意されながらも午前中の授業をなんとか乗り切って、愛、紗良、志津香の3人は教室で昼食を食べていた。昼食の時間は3人にとって大事な会議の時間でもあった。
本日の議題は
「吸血種、ヤバい」
であった。
「とにかく、逃げに入られたら、捕らえられない」
のであった。
「愛と紗良はコンビネーションでの戦闘が主体よね。はむ。だけど、最近、2人の連携がうまくいってないってことなの?」
志津香が厚焼き玉子を食べながら現在の状況を要約した。
「ごめん」
目を合わせず謝る愛を、紗良が急いでフォローする。
「愛のせいやないよ。連携うまいこといってないのは私も悪い。最近ずっと毎日パトロールしよるから、うちら、相当疲れたまっとるんやと思う。あむ」
紗良が悔しそうにサバサンドに噛み付いた。
このサバサンドは、昼休みに入ると同時に、食いしん坊の紗良が全力ダッシュで学校の近くにあるパン屋に走り買ったものだ。バゲットがパリパリ、それでいて切れ目が入っていて食べやすい。全く魚臭くなく、レモンのさわやかな酸味が良くて、大きすぎない。罪悪感ゼロなのである。
紗良が続けた。
「それに相性が悪いんよ。私の攻撃は爆裂パンチが主体だから、溜めがある上にリーチが短いんよ。だから、吸血種を2人で追い詰めても、私の側から逃げられちゃう」
愛が海苔を巻いた塩おにぎりを両手で持って口にした。
「もぐもぐ。ヨーヨーだって射程範囲がバレとるけん。ちょっと気を抜くと、私の側からも逃げられてしまうんよ」
志津香が思いついたようにいった。
「紫外線ライトを浴びせるとか?」
「ネットで調べたけど、いいやつは結構高い。お小遣いじゃ、買えないよ」
世界を魔物の侵略から守る高校生の懐事情は厳しかった。
「愛と紗良以外に、異世界転移した人はいないの? はむ」
といいながら、志津香が鮭フレークの載ったご飯を口に運んだ。
「ええー。どうなんだろ。あむ。紗良しっとる?」
「知ら〜ん。あむ」
「愛は4月の中旬に、紗良は5月の初めに保健室で異世界転移したんだよね?ほかに保健室に行った人はいなかったっけ?」
愛と紗良の口が止まった。
「そういえば、誰か、保健室に行ってたような……」
「誰やったかなあ……」
志津香が席を立ち、教壇から学級日誌を持ってきた。机の上において、1学期の始まりからページをめくった。
「この週は愛が2時間目の初めに気分が悪くなったって書いてある」
志津香がさらにページを進めた。
「ゴールデンウィーク明けの週は紗良が国語総合の時間に保健室にいってるね。う〜ん。5月には他に誰もいないのかなあ。5月最後の週は、愛と紗良が倒れたことが書いてあるよ。他には誰もいないのかな」
志津香がページをめくった。
「あれ、5月の最後の週に、山路さんが気分が悪くなったって。ほら、ここ」
志津香が指で示したところを見ると、確かに1時間目の数学IIの時間の欄に「山路さん、始業前に体調不良で保健室」と記載されていた。欠席者の欄にも山路と記載されていた。どうやら始業前に気分が悪くなり、保健室で休んだあとにそのまま帰宅した、ということらしい。
教室を見渡すと、山路花梨は友人たちと机を寄せてお弁当を食べていた。愛がプチトマトを箸でつまんで口に含んだ。
「私、山路さんに帰り道で話を聞いてみようかな」
*****
「山路さぁーん」
「あら、波方さん」
「今帰り?」
「うん。部活もないし」
愛は花梨の隣に並んで歩き出した。花梨は艶のある黒髪が印象的な気位の高そうな女子生徒だった。女性らしい雰囲気に、スカート丈が少し短かく活動的な印象でもあった。
「部活動は全面中止やもんねえ……」
「波方さんは何部だったかしら?」
「ダンス部。山路さんは美術部やったよね?」
「そうよ。最近は描く時間が取れてないけどね」
愛が話を促した。
「へえー。どんな感じの絵が好きなの?」
「ピカソの画風が好みなの。動物を描くことが多いわ」
「凄い。今度見せて」
「文化祭には出すつもりよ。……中止にならなければ、だけど」
「あ〜。魔物がねえ……」
話を切り出すタイミングだ、と愛が考えたとき、
「波方さんの知り合いに、アキ先生っていらっしゃる?」」
と花梨が尋ねてきた。アキ先生はエルデリアに転移して、右も左も分からなかった愛を保護し、指導してくれた人物であった。愛は内心の驚きを隠して答えた。
「うん、知っとるよ。初めての土地で何したらいいか分からんくって、その時にすごいお世話になった人なんよ」
「そう」
愛と花梨はしばらく無言で歩いていた。
「波方さんが魔物と戦ってるって噂、聞いたのだけど……本当なの?」
愛は意を決して打ち明けた。
「うん。ほんとうよ。学校には内緒にしとってね」
「ええ、分かってるわ。それで……波方さんは、魔物が怖くないの?」
花梨が小首を傾げた。
「怖いっていう気持ちもあるけど、それよりも守りたい気持ちのほうが、強いかなあ」
「……強いのね、波方さん」
花梨は立ち止まった。
「……実はね。アキ先生から、愛と紗良と一緒に魔物と戦ってほしいって言われてるの。でも……切り出せなくて」
「山路さんも、アキ先生のこと知っとるの?」
「ええ」
話を聞くと、やはり保健室で横になった際にエルデリアに転移し、アキ先生のもとで色々と学んでいたとのことだった。
「アキ先生、他になんかいっとった?」
「せとうち青雲高校にね、魔物が侵入してくるゲートが開くらしいの。そこから魔物が出てくるから、完全に叩かないといけないって。今は愛と紗良が応戦してるけど……増援が必要だって」
愛と紗良の転移した世界、エルデリアにおいてアキ先生は賢者様と呼ばれていた。ぱっと見たところ、やさしい年配の女性だが、その豊富な知識、スキル、経験で人々の尊敬を集めていた。故人である愛の祖母、波方洋子とも旧知であったらしい、不思議な人物であった。どういう方法を使ったのかは分からないが、愛と紗良がせとうち青雲高校で戦いの日々を過ごしていることを知っているようであった。
「ねえ、波方さん、私も一緒に戦わせて欲しいの」
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