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VS サキュバス(6)

「……お願い、愛、殺して」


志津香が気を失った。


わずかの間、目を閉じた愛は魔道士メアリーの最期を幻視した。キャリーから聞いた魔道士メアリーの最期は、硝子の欠片のように愛の心に沈殿していた。


だが、再び目を開けた時、愛の視線は定まっていた。


「紗良、志津香をもとに戻すけん」

「え、できないよ!」

「エルデリアで浄化の練習はやったはず」

「浄化なんて、使ったことないよ!」

「いいから! さあ、手を出して!」


紗良が差し出した手のそれぞれを愛の手が握りしめた。単なる温かさではない力の奔流が沙良に流れ込んで、出てゆく。


「熱い塊が動いてる!」

「感じとれたね。いま紗良の左手に心のエネルギーを渡して、紗良の胸を通して、右手から放出させてる。

 こんな感じで紗良の左手にこのエネルギーを渡すから、右手から放出して、志津香の中の瘴気に当てて欲しい。試してみよう」


紗良が右手を志津香の頭部に当て瘴気の位置を探ると瘴気を感じ取ることができた。瘴気はビー玉ほどの大きさの丸くて黒い球体のイメージだ。


「あった! これだ! ここからどうするの?」

「私は志津香の体の側面から瘴気にロックする。紗良は、同じ瘴気を、体の正面からロックする。そうすれば、志津香の体のなかの狙った部分でピンポイントで浄化が発動するはず」

「……私、怖いよ、愛」

「志津香を助けるために、絶対にやるよ!」


愛と紗良は片手を繋いだまま、床に横たわった志津香の両側の位置で、両膝をついた。愛は志津香の頭に左手をあて、目をつぶって、何かを探っているようだった。愛の額を玉のような汗が伝う。


「ここに指をあてて。分かる?」

「うん。志津香の心の間に瘴気がはさまってる」

「そうだよ。私はここに指をあてる。紗良はここに指をあてて。直交する角度で。感じた?

 ……いいね、いくよ、1,2,3、浄化!」


2人は志津香の頭部に指をあて、慎重に呼吸を合わせると、やさしく傷つけないように心のエネルギーを送り込んだ。


愛の指示のもと、2人は心のエネルギーをさらに送り込んだ。2人は極度の集中と疲労で何度も力が尽きかけたが、そのたびに、お互いを励まし合い、友人の無事だけを願い、浄化を続けた。


明け方近くになって、これまでに誰も聞いたことのない魔物化した人間をもとに戻すという試みが終わった。愛と紗良は魂と絡み合った瘴気だけを選択して聖化するという離れ業をなし終えた。愛は再び感覚を研ぎ澄ませ、志津香の頭部を探った。瘴気は消えていた。頭部に生えた2本の角も消えていた。


「やったよ、紗良。瘴気が消えた。

 あとは皮膚の下に瘴気が残ってないか、最期の確認だよ」


そういって、愛は志津香のフロントホックのブラを外し、そこで力尽きた。


「ぐう」

「え、ちょっ、愛、どうすんの? これ?」


紗良は床に無防備に横たわる志津香を見下ろした。そこには自分と同じ年とは思えないほど艶めかしくも悩ましい女性の体があった。


愛は皮膚の下を確認するようにいったはずだ。


紗良は唾を飲み込んだ。震える手が志津香の白い肌に触れる。


「志津香……これは……治療行為だから……ね」


その後、紗良は薄い本数冊に匹敵する偉業をなし終えたが、紙面の関係でここでは割愛する。



*****



空のどこからか、ひばりの鳴き声が聞こえていた。爽やかな朝の空気の中、今治駅から続く大通りを学校へと向かう児童や生徒たちが登校していた。その中には、いつものように愛と紗良の姿があった。


「おはよう、紗良」

「おっはよー」


楽しくお喋りをしながら、信号をまっていると、日傘をさした志津香がやってきた。


「おはよう、愛、紗良!」

「「おはよう、志津香!」」


魔物化と人間への生還という前代未聞の経験を経て、蛹が蝶へと羽化するがごとく、志津香は美しい少女へと変身を遂げていた。先週までの志津香は人見知りの控えめな少女だった。今の志津香は、心が開かれた陽性の美しさを全身から放射していた。


「志津香、体はもう何ともない?」


愛は気になっていたことを尋ねた。


「うん、愛と紗良のおかげで、この調子だよ」


志津香は笑って、その場でくるりと廻ってみせた。校則を遵守した長さのスカートがふわりとひるがえった。3人の少女は笑いあった。


「でも、小悪魔系美少女の志津香も可愛かったなあ〜。

 私、志津香のリトルデーモンになりたかったなあ〜」


紗良が余計なことをいうと、志津香は紗良の肩を軽く叩いた。


「もう、黒歴史いじるの、やめてよ〜」


信号が青に変わった。


「じゃあ、私、園芸委員の仕事があるから、先に行くね!」


志津香が横断歩道をわたり、元気に大通りをかけていった。その後姿を紗良は無言で見つめていた。


「紗良どうしたの? 固まっちゃって?」


愛が紗良の顔を覗き込んだ。


「愛……」

「なに?」


愛が小首を傾げた。


「私、ちょっと前に、男って魔物だっていわんかったっけ?」

「いったねぇ」

「私、勘違いしてたわ」

「ん?」

「女の色気が凄いんよ。

 エリスってすごいセクシーな娘やったんよ」


 【ステータス】

 名前:波方 愛

 種族:人間

 職業:巫女

 称号:-

 レベル:6

 体力:60 / 60

 魔力:60 / 60

 力:25

 俊敏:60

 装備:爆裂ヨーヨー(USR)

 スキル:隠密、不眠、暗視

     ヒール(小)

     浄化(小)

     浄化(中)

     ヨーヨー連撃

     奥の手

     トルネードヨーヨー


*****



<受肉した魔物よ、聞こえるか>

<……>

<受肉した魔物よ、聞こえるか>

<聞こえてるけど、私はもう魔物じゃないわ>

<では、お前は誰だ?>

<……志津香よ>

<志津香は愛と戦わないのか?>

<いやよ!>

<なぜ?>

<だって、友達だもん>

<……友達?>

ここまでお読み頂き、ありがとうございます!

今回のお話、少しでも「いいな」と思ってもらえてたら嬉しいです。


よかったら、ブックマークや評価をポチっとしてもらえると作者の励みになります!

次も頑張ります!

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