表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/55

VS サキュバス(5)

夜の校舎で愛と紗良の2人と出会って以降、しばらくの間、志津香は自宅でおとなしく夜を過ごしていたが、ある夜半、急に寝床から起上り、闇の中へかけだした。


30分も経たないうちに、深夜の私立せとうち青雲高校の校内にゴスロリ服を着た志津香の姿があった。


魔物の気配を探りだし、さっそく見つけたスケルトンに魔眼を発動した。


「アリュール」


スケルトンの動きが止まると、志津香は頭蓋骨を傘で突き、瘴気へと変えて吸収した。志津香にとっては数日ぶりに味わう官能であった。


(エモい♡)


志津香は頬を上気させ、次の魔物を探した。


魔物の気配を探って体育館にたどり着くと、そこにはスケルトンナイトとスケルトンソルジャー2体が蠢いていた。


志津香は舌なめずりをした。


踊るような軽い足取り。


くるりと回る。


スカートがひらりと翻る。


志津香はスケルトンソルジャーに近づくと、ふたたび魔眼を発動した。


「――アリュール」


スケルトンソルジャーの動きが止まると、志津香は頭蓋骨を傘で突いた。スケルトンソルジャーの骨格が崩れ落ち、瘴気と化して志津香に吸収されていった。


もう1体のスケルトンソルジャーも同様に、あっけなく傘で突かれ、崩れ落ちた。志津香は瘴気を吸収し、そのエモい感覚を存分に味わった。


奇妙なことに、その間スケルトンナイトは身動きもせず、その様子を見ていた。


志津香は両手で自分の体を抱きしめる仕草をしてみせた。


物憂げに少し視線を落とし、長い睫毛を瞬かせて、再びスケルトンナイトを見つめる。


「こんな私を、君は襲わないのかな?」

「……」


志津香が蕩けるようなトレモロで囁いたが、無論スケルトンナイトは喋ることができない。


志津香はしばらくスケルトンナイトを警戒していたが、そのうちに静かにスケルトンナイトに近づき、スケルトンナイトが剣戟を繰り出した段階で魔眼を用いた。スケルトンナイトの動きが止まった。


「魔眼が効かないわけじゃないのね」


魔眼の効果に問題ないことを確認し、スケルトンナイトの頭蓋骨を傘の先で突いた。スケルトンナイトの骨の体が崩れ落ち、大量の瘴気が志津香の体へと吸収された。


「ああ〜」


志津香が甘美な声をあげた。志津香の爪は根本から先まで一気に真っ黒に染まっていった。



*****



<受肉した魔物に挨拶を送る>

<あなたはだれ?>

<先行者だ>

<そう>

<糸の付いた投擲武器を持った女に気をつけろ>

<愛のことはよく知ってるわ>

<愛?>

<あの娘の名前>

<……>

<ねえ、これは夢?>

<いや、お前にとっては現実だ>



*****



「ああ〜」


志津香がスケルトンナイトを倒したとき、愛と紗良はちょうどその場に到着したところだった。


その日の夜、いやな予感がして、愛が志津香の自宅に電話をかけると家の人はいつの間にか志津香が部屋からいなくなっていると告げた。愛は紗良を呼び出して、夜のせとうち青雲高校に駆けつけたのだった。


暗視のスキルを持った愛と紗良が目にしたものは、いままさに魔物へと変貌してゆく志津香の姿であった。


頭部の両側に羊のような黒い角が、めりめりと伸びだした。


志津香はしばらく身悶えしていたが、やにわに着ていたゴスロリ服の正面を思い切り引きちぎり、破り捨てた。


黒い下着、ガーターベルトとストッキングのみに覆われた白い肢体が闇に露わになった。


背後には黒くて小さい羽と細い尻尾が生えていた。


<サキュバスを確認しました>

<サキュバスは実体を持った魔物です>


愛と紗良の耳腔に感情のない女性の声が反響した。


志津香が二人を見た。その目には白目の部分がなく、底のない闇のようであった。


「ᚨᛚᚢᚨᛖᚱ…」


その目を見た愛の体が鎖で縛られたように動かなくなった。


「……う、うごけん?」


魔物と化した志津香、いまやサキュバスが愛にゆっくりと近づいていく。


動けないままでいる愛の頬に愛しそうに触れ、体全体を指先でやさしく触りながら、やがて体を密着させると、サキュバスは愛の目を見ながら、ゆっくりと唇を合わせる。


と、その瞬間、紗良が愛を抱え、思いっきり横っ飛びに飛んだ。


2人の体は体育館の壁にぶつかって止まった。


紗良はすぐに起き上がり、倒れたままでいる愛のもとで防御の姿勢をとった。


「あいたた」

「愛、大丈夫?」


ようやく魔眼の呪縛から開放された愛は起き上がりながら、サキュバスの体全体にフォーカスして警戒する。


「志津香の眼を見た途端、体が動かなくなったよ。紗良はなんで動けたの?」


なんだかエッチだから恥ずかしくて目を逸らしていた、とは格好悪くて言えない紗良だった。


「拳闘士の戦闘勘?」

「さすが。眼を見ないで捕まえるしかないね。いくよ」


2人はその場から勢いよく飛び出すと、サキュバスを挟み込むような位置を取り、一瞬の静止のあと、サキュバスに飛びかかった。


直後、愛と紗良が伸ばした手が交差するように空を切った。サキュバスは空中に浮かんでいた。


サキュバスは少し離れたところに空中移動すると、向き直り、何か人間には分からぬ言葉を唱え始めた。


「うそ、空飛べるんだ、ズルい」

「なんか、ヤバい感じ」


床に5つの光る魔法陣が現れ、その魔法陣から浮かび上がるように、デーモンの姿をした魔物が出現した。サキュバスが薄く笑ったようだった。


戦闘時、愛と紗良は機先を制するのが常であった。この数週間、夜のせとうち青雲高校で幾多の魔物との戦闘を経て、2人のコンビネーションはまさに以心伝心であった。


「紗良!」

「うん!」


紗良を先頭にして、最も近い位置にいたデーモンに飛び込むと、紗良がかがんで、その上を左手だけの馬跳びで愛が飛び越え、飛び越えざまにヨーヨーをデーモンの脳天に叩きつけた。


紗良は低い姿勢のまま、別のデーモンに走り込むと、爆裂右ストレートを叩き込んだ。


愛はふわりと着地し、一回転したあと、もう1体の別のデーモンにヨーヨーを放ち、粉砕した。


刹那、鋭く刺さる悪意を感じ、その軌道をヨーヨーで遮った瞬間、


キン・キン・キン


残ったデーモンが打ち出した何かを、愛は戻したヨーヨーを金属の盾として跳ね返す。


攻撃後に隙が生じて無防備となったデーモンを紗良の右拳が打ち抜き、愛が最後のデーモンの顔面にヨーヨーをのめり込ませた。


一瞬の静寂のあと、サキュバスが何事かを叫んだ。


「Ɑħø₦ÐαЯᚨ〜」


愛と紗良はサキュバスの顔を見るようなことはしなかったが、サキュバスが激昂しているのが分かった。


愛と紗良は一瞬、顔を見合わせると、未だ空中に浮いたままのサキュバスに向かって走り出した。今度は愛が先頭、紗良が後方というフォーメーションだ。


「ᛗᚨᚱᚤᛟᚲᚢᛞᚨᚾ!」


サキュバスがさきほどのデーモンと同じ攻撃を愛に向かって連続で打ち出した。愛はその攻撃を右手のヨーヨーで弾いた。数秒間の短い、だが強烈な魔力攻撃を弾き飛ばすと、デーモン同様にサキュバスにもほんの僅かのクールタイムが発生した。


2人の勘は今が好機と告げていた。


愛が身を屈めた。その背中を紗良が右足で、トンと踏み、空中に浮かぶサキュバスに向かって跳躍した。紗良が空中に浮かぶサキュバスの足に取りつくと、二人分の体重を支えきれず、サキュバスは体育館の床に落下した。


爪を立てて暴れるサキュバスを紗良が押さえつけた。魔物であるサキュバスの膂力は常人を凌ぐものであったが、戦闘職である紗良はさらに上回る力でそれを押さえ込んだ。


「愛、いま!」


愛がサキュバスの胸に両手を当て、浄化のプッシュを送り込んだ。


「志津香、お願い、戻ってきて!」


サキュバスの体がのけぞった。


「ᚲᛃᚨᚨᚨ」


サキュバスが憎らしげに愛の顔を爪でひっかいたが、愛は顔に流れる血を意にも介さず、さらに浄化のプッシュをサキュバスに送り込んだ。再び、サキュバスがのけぞって痙攣した。


黒かったサキュバスの眼が、人間の眼に戻っていた。


その眼は涙を流していた。


「……お願い、愛、殺して」

ここまでお読み頂き、ありがとうございます!

今回のお話、少しでも「いいな」と思ってもらえてたら嬉しいです。


よかったら、ブックマークや評価をポチっとしてもらえると作者の励みになります!

次も頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ