VS サキュバス(4)
その日の夜、愛と紗良の姿は私立せとうち青雲高校の校舎にあった。
愛と紗良が辛うじてゴブリンキングを討伐した日以来、二人は定期的に夜の校舎に来ては、魔物を狩っていた。
当初、魔物はゴブリン種のみであったが、最近はスケルトン種、さらには吸血種が出現するようになっていた。このことは、魔物の出現を放置しておくと人間の生存圏を脅かすという愛がエルデリアで聞いた話を裏付けるように思われた。
愛の手から放たれた爆裂ヨーヨーがスケルトンソルジャーを一撃で粉砕した。
「紗良、そっちいったよ」
「オッケー」
紗良がスケルトンソルジャーの剣戟をかいくぐり、素早い身のこなしでふところに入り込むと左フックを叩き込んでとどめを刺した。
スケルトンソルジャーは頭部を砕かれ、残った骨がカラカラとその場に崩れ落ちた。
愛が嘆息した。
「スケルトンって、レスポンスないけん……
張り合いがないっていうか、つまらんね」
ゴブリンがくれるような熱いレスポンスがないとやる気が出ない愛なのであった。
「愛、魔物退治はライブ会場じゃないんよ」
骨の小山はしばらくすると輪郭を失い、消えたあとには、黒い瘴気が残った。愛はひとつづつ丁寧に瘴気を浄化していった。
「はい、これで終了!」
「うん、おつかれさま」
夜の校舎内を並んで歩きながら、2人の会話は昼間の不思議な出来事に及んだ。
「昼間のあれ、なんだったんだろう?」
「志津香?」
「うん。志津香と目があったとき、なんか志津香がすうっと心に入ってきたような気がしたんだ」
「私も。同性なのにドキドキしてしまった」
「クラスの子たちも変な感じやったね」
それから、2人は夜間の校内への出入り口として利用している体育館と校舎をつなぐ渡り廊下へとやってきた。廊下を歩きながら、紗良は愛に言った。
「なんか音が聞こえん?」
「……。聞こえるかも」
音は体育館側から聞こえてくるようだった。2人は気配を消して体育館を伺うと、そこには黒いゴスロリ服を着た少女がスケルトンの軍団と戦っていた。
志津香だった。
声をかけようとした紗良の肩に愛が手を置いた。
それは奇妙な戦いだった。
ブロードソードを大きく振り上げたスケルトンソルジャーの動きがピタリと止まり、志津香が傘の一突きで頭蓋骨を粉砕した。
続けて襲ってきたスケルトンソルジャーの袈裟斬りには後方にステップしてかわすと、やはり振り下ろした状態で動きの固まったままのスケルトンソルジャーに近づき、傘で突いて頭蓋骨を砕いた。
動きの止まったスケルトンソルジャーの頭蓋骨を傘で突いては粉砕する。この繰り返しであった。
戦いはほんの1分ほどで終わった。
不思議なことに、スケルトンソルジャーから出た瘴気は志津香に吸収されているようだった。
戦いを終えた志津香の頬が紅潮していた。
「志津香」
「……あら、愛。それに紗良」
志津香が愛と紗良の目をじっと見つめた。志津香が心のなかに侵入してくる感覚があったが、不意を突かれなければ、心は正常を保てるようだった。
「びっくりしたわ。ふたりとも、こんな時間に何してるの?」
「志津香と同じだよ。魔物を討伐しているんだよ」
「えっ」
志津香は驚いた様子だった。
「だめよ。この子達は全部私のものなんだから!」
愛と紗良は顔を見合わせた。
「でも、愛になら、少し分けてあげてもいいよ」
なぜか顔を赤らめながら志津香が続けた。
「スケルトン……、いっしょに倒そうか?」
しっかり者の愛が念を押した。
「それはいいんだけど、浄化はちゃんとして欲しい」
今度は志津香が当惑する番だった。
「浄化って、何?」
話が噛み合っていなかった。
愛は浄化を見せることにした。魔物の気配がわかるらしく、志津香が先導してしばらく廊下を歩くと、そこには3体のスケルトンソルジャーがいた。
「じゃあ、そこで見とって」
と言い残して、愛と紗良が突撃した。
スケルトンの動きは緩慢だ。紗良は一瞬で間合いをつめスケルトンソルジャーの懐に入ると、スケルトンソルジャーに左フックを放ち、頭蓋骨を粉砕した。爆裂拳を使うまでもない。
すこし離れた位置から愛の放った爆裂ヨーヨーが一閃し、スケルトンソルジャーの頭部が爆散した。
最後に残ったスケルトンソルジャーは紗良の右ストレートに粉砕された。一瞬の内に戦いが終わった。
「ふたりとも凄いのね」
志津香が感心したようにいった。
「浄化はここからだよ」
骨の小山が瘴気に変わった。愛は手をかざし、浄化魔法を発動すると、すぐに瘴気が消えた。
志津香が何もいわずに愛をみた。愛の表情や全身の様子をじっぃと観察しているようだった。
「エモい?」
「え?? どういう意味?」
志津香はエモいという意味を誤解して使用しているのだが、志津香はおろか、愛も紗良も知りようもない。
志津香がじれったそうに聞き直した。
「気持ちいいのって聞いてるの!」
気持ちいいはずがなかった。
「瘴気は放っとったら、また魔物になるんよ。やけん、浄化魔法で聖化する必要があるんよ」
当然、その過程に気持ちよさという要素が入り込む余地などない。
「え、消しちゃうの、そんな。もったいなくない?」
志津香はそう言って残っていた瘴気に近づいた。
すううっ
と瘴気は志津香に吸収された。
愛は驚愕した。以前エルデリアにいた時に、魔物化した人々の話を聞いたことがあった。それらの人々は瘴気を吸収することで、驚異的な身体能力やスキルを獲得していたが、限界をこえると、魔物と化して人間を襲い出すという話であった。
志津香は、両腕を胸の下でクロスさせて何かに耐えるように、2人の視線を感じながら少し恥ずかしそうにしながら、顔を赤らめて、エモい何かを全身で堪能していた。
気まずい沈黙があった。このままでは危険だと思った愛は、意を決して沈黙を破った。
「志津香、瘴気を吸収するのはやめて。凄く危険やけん」
「いやよ。絶対いや」
志津香は愛を睨みつけた。愛も視線を外さなかった。
「志津香、瘴気を吸収し続けると、志津香も魔物になっちゃうんだよ」
「その前にやめるわよ。今はまだいいでしょ! 愛のわからず屋!」
ふんっ、と志津香が背を向けて歩き去っていった。
傘を片手にゴスロリの後ろ姿が妙に悩ましかった。
「どうしよう、紗良?」
「どうするって……。なんだろう……男子に見せたくない……」
2人は志津香の背中を見送ることしかできなかった。
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