VS ゴブリンキング(3)
愛と紗良はお互いに支え合いながら、立ち上がった。
「そろそろ行こか、3階?」
「うん。ちょっと待って。腕見せて」
紗良の左腕が赤く腫れ上がっていた。愛の両手が優しく紗良の左腕を包んだ。
「ヒール」
治癒魔法で腫れはすぐに引いた。
「ありがと」
「うん」
2人は音も立てずに東階段を上り、曲がり角から3階の廊下をうかがうと、職員室前の廊下には机を並べたバリケードが築かれていた。今度は西階段から3階に上ってみたが、職員室前の廊下には、やはりバリケードが築かれていた。先程の戦闘のあいだに、残ったゴブリン達がこのバリケードを築いたに違いなかった。
「次に魔物が出現するまでの時間稼ぎかな?」
「だね。ゴブリンなかなか賢いね」
「あいつら、スマホ使えるけん」
「そうやった」
ともあれ、魔物に増援が来るのを黙って見過ごすことはできなかった。今現在で生き残っているゴブリンに加えて、更に81匹、最悪の場合は81匹x3=243匹のゴブリンを相手に戦って勝利するのは不可能だ。
「ベランダから職員室にいけるよね」
「いってみよか」
2人は職員室に隣接する教室を抜け、ベランダに出た。ベランダは防災上の観点から、すべての部屋から行き来できるようになっていた。
「やっぱりベランダには気がついてないみたい」
「カーテン引かれてるけん」
教室や職員室は南に面しているため、PCで事務作業をする教職員のために、真昼の時間帯は分厚いカーテンが引かれていることがあった。そのことが幸いして、ゴブリン達はベランダには気がついていないようであった。
「あそこに隙間があるよ。なか、のぞいてみよう」
職員室の内部は電気が消されていた。カーテンの隙間から中をうかがうと、4名の教職員がゴブリン達に取り囲まれ、棍棒で殴りつけられているところであった。教職員達は血だらけのありさまで、すでに意識を失って床に臥しているものもいた。
「倒れてる人、イケメンの英語の先生だ」
「これって、危険な状況だよね」
「うん、すぐに助けてあげんと」
2人は顔を見合わせた。
「少しは回復した?」
「まあね、愛は?」
「いける」
紗良が愛の目をじっと見つめた。
「愛は怖くないん?」
「紗良が一緒だから、全然怖くないよ」
愛が笑って答えた。
職員室の窓は鍵がかかっていた。ガラスを割って突入するしかなかった。
愛と紗良は立ち上がり、再び顔を見合わせた。
「準備いい?」
「あっ、教室に戻ってお菓子食べてから…」
「いくよ!」
「ちょ! まっ…」
愛は大きく振りかぶり、渾身のオーバースローでヨーヨーをガラスに向かって叩きつけた。
グワッシャーン
大音量をあげて、窓ガラスが砕け散った。
愛が割れた窓から手を入れて鍵を開け、窓を大きく開いた。窓枠に左足をかけるのと、職員たちに暴力を振るっていたゴブリン達がやってくるのは同時であった。
愛は小さく素早いモーションでヨーヨーを連続して投擲し、ゴブリン達を爆砕した。
愛と紗良は窓から職員室に入り、職員たちを引きずって壁の隅に寄せると、彼らを背後に守り背水の陣を布いた。
「いま気づいたんやけど、私、このパターン、今月もう2回目だよ。しかも2回とも、割れた窓から職員室に入っとる」
「愛って、もしかして……スケバン?」
職員室の両方の入り口からゴブリンロードに率いられた無数のゴブリン達がなだれ込んできた。一番先頭のゴブリンの顔面めがけて、愛は右手からヨーヨーを放ち爆散させた。
その横を次のゴブリンが通り抜けた。愛に襲いかかる寸前に、紗良の右ストレートがカウンターで入り、後ろにいた別のゴブリン共々倒れ込んだ。
愛はゴブリンの顔面を粉砕し続けたが、その残骸の隙間から次々にゴブリン達が現れ、愛に肉薄した。近距離から襲いかかるゴブリンに対し、愛は左腕をけん制に使い、右手は腰だめの位置から手首のスナップで巧みにヨーヨーを放っては爆散していったが、ゴブリン達は数の暴力で、じりじりと愛に迫った。
後方に教職員を守った愛を、前と左右から迫ったゴブリンが覆い尽くし、圧倒するかと思われたとき、
ドゴーーン!
ゴブリン達の後方から大爆音が轟いた。後方に控えていたゴブリンロードの頭部が消し飛んでいた。愛がゴブリン達の注意を引き付けている間に、紗良はゴブリンロードとの距離を一気に詰めて、爆裂右ストレートを放ったのであった。
紗良は近くにいたゴブリンにも爆裂右ストレートを放ち、大爆音とともに吹き飛ばした。さらにもう一撃の大爆音。ゴブリン達が目に見えて動揺した。形勢が逆転した。
愛は右手に握りしめたヨーヨーで、掴みかかるゴブリン達を殴っては爆散させ、殴っては爆散させた。愛はゴブリンとの距離が開いた瞬間を見逃さなかった。チャンスだった。
「トルネードヨーヨー!」
ヨーヨーが愛を中心に竜巻のように回転し、5匹のゴブリン達を続けざまに爆散させていった。最後のゴブリンが床に倒れたのと同時に、力尽きた紗良も床に倒れ込んだ。
愛が紗良にふらふらと近づき、その側で片膝をついた。二人とも体のあちこちが無惨に赤く腫れ上がり、痣ができ、流血していた。
「はあ、はあ、はあ、はあ、流石にこれで終わりよね?」
「はあ、はあ、愛、それフラグやってば!」
と紗良が口にしたその時、
ドスン
ドスン
ドスン
と廊下を踏みつけて歩く足音が近づいてきた。職員室の入り口から、相撲取りのような体格をしたひときわ大きなゴブリンが入ってきた。左手には巨大な棍棒、右腕には女性職員を、首を閉めるように抱きかかえていた。
<ゴブリンロードの特殊個体を確認しました>
ゴブリンロードの特殊個体は入り口に立ち、職員室の内部を見渡した。愛と紗良がボロボロの状態であること、床にはゴブリンがそのままの状態で倒れていることを確認すると、ずる賢くニヤリと笑った。愛と紗良に止めをさす力が残っていないことを見て取ったのだろう。
2人はよろめきながら立ち上がった。愛が右手にヨーヨーを構え、紗良がファイティングポースをとった。するとゴブリンロードの特殊個体は後退りながらも、棍棒と女性職員を盾にして、何事かを吠え立てた。
「ゔぉ〜。ゔぉ〜」
ゴブリンロードの特殊個体は棍棒で前方を防御しつつ、女性職員の首をいっそうきつく締めあげた。
「ううぅ」
女性職員がうめき声を上げた。紗良は残った力を振り絞りゴブリンロードに果敢に挑んだが、ゴブリンロードが巨大棍棒を横薙ぎに振り払い、紗良を吹き飛ばした。紗良はとっさに両腕をクロスさせ防御した。
その瞬間を狙って、ヨーヨーの射程距離外から銀色の光芒が巨体ゴブリンの頭部に突き刺さった。愛の右手からはヨーヨーの銀糸が垂れ下がっていた。
ヨーヨーの糸を断ち切って射程距離外の敵にヨーヨー本体を投擲する奥の手を使ったのだった。頭部を失ったゴブリンロードの胴体が後ろに大きな音を立てて倒れた。吹き飛ばされた紗良は、床に倒れてピクリとも動かなかった。愛も力尽きて床に崩れ落ちた。
「これで、、本当に、、終わり、、だよね?」
と愛が呟いたとき
「ゔぉゔぉっ。ゔぉゔぉっ」
廊下から嘲るような声が聞こえた。
ぬうっ
と骸骨が職員室を覗き込んだ。骸骨の目が赤く光った。その瞬間、愛は強い力で床に叩きつけられた。
「あぐっ!」
震える右手を床について体を起こそうとすると更に強い力で頭を床に打ち付けられた。
(くぅっ……これは、何?)
骸骨がゆっくりと職員室に入ってきた。骸骨の首から下は杖だった。
髑髏の装飾がついた杖を右手に持って、ゴブリンロードよりも更に巨大なゴブリンが笑いながら職員室に入ってきた。ゴブリンは満足気に室内の様子を眺めていた。
<ゴブリンキングを確認しました>
女性の声が無感情に告げる。
(ゴブリンキング??)




