第二十話
鏡に触れて、向こうの世界に夢をはせる
向こうから手が伸びてくることがないのは分かっている
それでも、夢を見るのを止められない
ふと、前を見るとそこにいるはずの女の人はいなかった。
真っ白な空間。
座っていたはずの私はいつの間にか立っていた。
そこにいたのは私とそっくりな、ううん、私の顔をした、彼女。
「あなたは、だれ?」
口から出た言葉は確かなものとして、彼女に届いたようだ。
『あたしは、あなた。・・・ううん。あなたは、あたし。と言ったほうがいいのかな?』
「私?」
そう言いながら彼女は私の手をとる。
その手にはぬくもりがあって、実体があって、まるで私と変わらない。
『この状況をどうにかしないといけないよね?〝あなた〟の気持ちも〝あたし 〟と同じだよね?』
そういうと彼女は私の手をぐい、と引っ張った。
突然のことにびっくりした私は引っ張られるままにバランスを崩してしまう。
そして、彼女の後ろにあるものに目を向けた。
目に見えるものは何も、なかったけれど、私は確かに何かを越えたし、彼女もその何かを越えた。
反転する。
私と彼女。
反転する。
あたしとあなた。
覚醒する。
夢から目を覚ますように。
認識する。
目の前の状況を。
横では神崎さんが袋の中身を見て月華と文句を言っている。
どうやら、会話の中を聞いていると袋の中身は手榴弾のようで、あたしは瞬時に判断を下す。
それは、習慣。
教え込まれた、自衛の手段。
彼女の言葉を思い出す。
『その気になっている敵に、手加減は無用だよ。』
◆◇◆◇◆◇◆
「これ、投げればいいんだよね?」
そう言って、袋を神崎さんから奪い取った私はその中身をぼとぼとと車の外に落とす。
次にすることは・・・
「月華、このまま直進して!!」
「あ、ああ」
あたしの指示は彼女ならありえないような勢いを持っていたのだろう。
月華は動揺しながらも、あたしの言ったとおりにしてくれる。
車を追ってくる後ろの連中と、手榴弾の位置が重なるのを確認する。
「『縛』!!」
追っ手の動きを縛る。
「『爆』!!」
手榴弾を爆発させる。
この程度では傷を負うかも分からない連中だけど、足止めくらいにはなるし、こんな単純作業なら『一文字』で事足りる。
『一文字』の『縛り』を瞬時に解けないなら、その程度、つまりは、とりあえず後ろのやつらはこれでいい、と背もたれに寄りかかる。
あとは・・・。
「ユウ、上に乗ってるというやつらもどうにかできるか?」
どうやら、月華はあたしと同じことを考えていたようだ。
何でそんなことを知っているのかというと、別に、気配を察知したとかじゃなくて、あたしを追っていたあの女の話を聞いていただけ。
さすがに『一文字』で落とせと言われたらさすがに無理だが、『二文字』を重複させればできないこともない
「多分どうにかできると思うよ」
だから、あたしは月華にこう返した。
横で神崎さんが驚いた顔をしているけど、気にしない。
少しだけ、どうやって落とすかを考えて、月華に指示を出す。
「思いっきりターンをしてくれたら、その時にでも」
月華はターンをするときに合図をすると言ってくれた。
「じゃあ、行くぞ!!」
あたしはその合図に合わせて天井に手をつけて『言』を放つ。
言、あたしが使えるやつらに対する唯一の対抗手段だ。
「『以上』、『重反』」
範囲指定と、状態指定の二つ。
これより上にいるものの、重心を、反転させる。
ターン中に内側に傾けた重心を反転させると、外向きになって放り出されるだろう、という考えだったのだけどうまくいったようだ。
それに、彼らが術者だったのだろう。
今ので周りの結界にほころびが生じたのが分かる。
そのまま月華は車を進め、あたし達は結界から出ることができた。
『それにしても紅月は戦闘描写?がへたよねぇ。』
「自覚はしてるって。どうやったらうまくなるのかは知りたいんだって。」
『それにしても、この話、専門用語的なのが説明なしで放置されてるけど、それはいいのかしら?』
「あー確かに、感想の方にきてたね、それ。というわけで、紅月から預かってきました。「この話の専門用語的なアレは全部、最終話あたりで説明します。ぶっちゃけ、今説明するとネタばれなのでご了承ください。」だそうです。」
『感想を下さった方には感謝しております。』
「いやぁーほんとに。昨日の紅月の反応はすごかったもんねー。詳しくは活動報告で書くらしいので、ぜひともそっちで。」
『それでは、また次回、会いましょう』