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25 ウォルグ

お読みくださりありがとうございます。

「商会に行ってくるね」


 昨日ディオに頼まれた伝言をパーチメント商会に伝えるためにフランがディオたちに声をかける。


「待って、オレも行く」


 寝起きのディオは着替えをしながらフランに言って、シドとトリスに出かけたいと視線で訴える。


 護衛の役目をもつどちらかがついていなければ外出も出来ないことは家を出る時の約束の一つだ。ディオが一人になることはあってならないのだ。


「だと思った。お前の準備さえ整えばいつでも出れるぞ」

「ありがと」


 すでに町を歩ける格好をしているシドたちにディオは礼を言って、昼食のパンを押し込んむと、その間にフランが用意してくれた町人スタイルの服に着替えて、全員で町に出た。


 木造よりもレンガ造りの建物が並ぶ町は、オシャレで落ち着いた空気があった。

 焼きたてのパンの香りが鼻をくすぐり、その近くでは飲食店が多く立ち並ぶ。


 そこからさらに進んでいくと生活必需品を扱う店や雑貨屋、花屋などが多くなり大きな広場に出る。


 広場の先にあるパーチメント商会にフランが向かい、その用事が終わるのを広場のベンチに座って待っていたディオは、ぼんやりと町を眺めていた。


 視界に武器を携えた三人の男たちが映る。

 鎧というほどの格好はしていないが防具を身につけていて穏やかな町には似合わない姿だが、町人は時折彼らに対して気さくに声をかけて去っていく。


 ディオの視線は三人の男の真ん中にいる一際背の高い荒々しい男に固定される。

 それが誰か、見知った顔と認識したディオは目を丸くして男を明るい声で呼びながら駆け寄り、慌ててシドがついていく。


「ウォルグ‼︎」


 ウォルグと呼ばれた男は声を主を探して辺りを見渡し、ディオを見た瞬間驚いた顔をして何かを言おうとしたが声を出すまえに口を閉じると代わりに挨拶のように手を上げた。


「――よう」

「うん」

「お久しぶりです。ウォルグさん」


 ディオのすぐにそばに立つシドにとっても見知った顔で、驚きつつも久しぶりの再会に笑みをこぼすが、ウォルグの隣にいる男たちには僅かな警戒をしている。


 そんなことは気にせずにウォルグはディオをまるで小さな子供を見るような目をして笑う。


「家にいないから驚いたぞ」

「知ってたら帰ったのに」


 拗ねたように言うディオに、会えたんだからいいじゃねぇかとウォルグは豪快に笑う。

 ウォルグは暇があればよくディオの元に遊びに来てくれていたので、近くに寄った際に顔を出したのだろう。


「そういや、商会開いたんだって?」

「うん、シルク商会。改めて紹介を――」


 家に寄ったウォルグなら大体の事情は聞かされているだろうが、それでもわざわざディオに尋ねて来た理由をディオは察してトリスとアルドを手招きして呼んだ。


「オレはシルク商会、会長のディオ。それで従業員のシド、トリス、見習いのアルド。今は席外してるけどフランもいるよ」

「ディオが商会をなぁ。見ない顔(チビ助)もいることだし、俺もやっとくか」


 そう言ってウォルグは自分の胸を拳で叩いた。


「俺はウォルグ。青いのがアズール、赤いのがロートだ」


 ウォルグの言葉に濃紺の髪をしたアズールが手を上げ、赤色のコーディネートで決めているロートが親指で自分のことを指差した。


「普段は護衛なんかをやってるが、自警団の設立、アドバイスが本来の仕事だ」

「相変わらずみたいだね」


 ウォルグが今の仕事を始めた頃を知っているディオは、変わらない仕事内容に呆れたように笑うと、ウォルグが愚痴のようなものをこぼした。


「そうなんだよ。騎士に任せときゃいいって考えのやつらも多いんだよ。騎士だって万能じゃないってのに」

「動けない事案もあるからね」


 ディオがウォルグのこぼした言葉に同意をして、アズールとロートも頷いている。

 彼らにも思うところはあるらしい。


「ディオ様、お待たせってあれウォルグだ」


 用事を済ませたフランがやってきて、予期しない人物がいることに驚くが、ウォルグの仕事を知っているためそういうこともあるかとすぐに納得した。


「おう、フランか」


 フランを見たウォルグはアズールとロートに名乗らせると、フランやシドたちの顔色をちらっと伺い口を開いた。


 護衛という役割から常に気を張っているせいかフランはともかくとしてもシドとトリスはウォルグからみて疲れているように見える。


「ディオ、職場見学にこねぇか。毎回話だけってんじゃつまらねぇ」

「そうさせてもらうかな」


 ウォルグの誘いに乗ったディオがシドを見ると、シドは険しい顔をして時計を取り出すと時間を確認していた。

 ディオな起きてから時間が経っていないが、久々のウォルグとの再会も相まって見学にもかなりの時間を要すだろう。


「どうせなら泊まってけ。今デケェ家を借りてんだが、ちょうど俺の隣が空いてる。馬も連れて来い」


 シドの考えを読んだウォルグは、ディオの事情も知っているため出来る範囲での提案をする。

 もちろん、シドやトリスが警戒を解かないのは分かっている。どれだけ信頼に足る相手に近い人物であろうと警戒を解いていい理由にはならないのだ。

 護衛という立場上、適当な判断は出来ない。


 もっとも、護衛でなくとも警戒くらいはしてもいいはずのフランは見学を楽しみだと呑気にディオはアルドと話している。

 まだアルドの方が警戒心があるくらいだ。

 まぁこちらは懐かない動物のようなものではあるのだが。


「助かるよ、ウォルグ。意外と宿代もバカにならないから」


 ウォルグから家の場所を教わったディオたちは荷物を取りに宿に戻り、馬を引き取るとウォルグの滞在場所である家に向かった。

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