26 旅に慣れなかったのは
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宿泊していた宿を引き払い、ディオはウォルグが借りているという家を向かった。
一般的な庶民が住むには少々大きすぎるその家は、まるで貴族の暮らすようなお屋敷といった風だ。
アルドは驚いていたものの、ディオたちは思ったよりも大きいという感想だけで特に驚くこともなく平然としていた。
「わぁ、思ったよりは大きいね〜」
「そうですね」
「ウォルグのことだからツテで借りたんだろうね」
敷地前の門の前、馬車から降りたディオたちはウォルグの借家をみて感想を言い、ディオたちは庭にいる人たちに不審そう視線を向けられる。
悪目立ちはしたくないとシドが中に入るために事情を説明しようとしたところにウォルグとロートがやってくる。
「お前の時間計算は相変わらず正確みたいだな」
「すげぇ、こんな正確にできるもんなのかよ」
時計を確認して出てきたロートは、事前にシドが伝えた到着時間とほぼ変わらない時刻に到着したことに驚きを隠せない。
なにより、初めてきた町だというのだからそこまで正確に導き出せるのが不思議なのだ。
門を開けたウォルグがディオたちを招き入れると、好奇心を満ちた視線が飛んでくる。
ウォルグはため息をついて、声を張り上げた。
「見せもんじゃねぇぞ、てめぇら!」
皆視線を逸らすが好奇心は抑えきれないようで、ウォルグとディオたちの周りに集まってきた。
「謎が多いアニキが招く人って言ったら気になりますって」
「しかも知り合いじゃなくて友達だとか」
一応ウォルグに怒られるとディオたちを質問責めにする気はないようで、ディオの方をチラチラとみながらウォルグに話しかけている。
「親友だ、客人として丁重に扱えよ。こいつらに何かあったら牢屋にぶち込むから覚悟しとけ」
「どんだけ仲の良い人なんですか」
「冗談はやめて下さいよ、ウォルグさん」
何かあったら牢屋にぶち込むというウォルグの言葉を冗談だと受け取ったウォルグの仲間
たちは笑っているが、ディオは彼らと目を合わせずに苦笑いをしてそっと頰をかいた。
ウォルグのその言葉が冗談にならないことを知っているからだ。
もちろん、そうならないようにディオたちも最大限の注意はするつもりだ。
「王家の信頼が厚い貴族だからね」
そう言ってディオはシドの方をみて、ウォルグやディオたちを取り囲んでいた人々の視線もシドの方に向かう。
侯爵家の人間であるシドやトリスなら、何かがあった時牢屋に入れられるとしてもおかしくはない。
一応、ウォルグの言葉が半分は冗談ではないのだとディオは言ってみせる。
それは相手を守ることにも繋がるのだ。
「上級貴族ってことですか」
「わー、気をつけないと。マジで牢屋に行きじゃん」
「ウォルグさんって顔広いな」
それぞれがシドが上級貴族だということに反応を示すなか、自分に意識を向けさせるべくウォルグは一度両手を合わせてパンと音を鳴らした。
「もういいだろ。ケイン、馬小屋に案内してやれ。問題が起きたらビスのやつに指示を仰げ。分かったな」
「了解です、兄貴!」
ウォルグは指示を飛ばすと、馬を預けるシドだけを残すとディオたちを連れて家の中に入っていった。
ディオたちに用意された部屋は小部屋が二つついた大部屋で、事前に伝えられていたようにウォルグの部屋が隣にあり、他の部屋からは距離のある場所に存在していた。
「おー、思ってよりちゃんとした部屋だ」
「お前の家を基準にするじゃねぇ」
「あれは宿泊施設のついた研究所だからね」
部屋に入るなり小部屋に続く扉を開けて中を覗き込むフランは呑気にいって、ウォルグがそれに突っ込む。
そこにシドがやってくるとウォルグが言う。
「全員個室でもよかったんだが、シドはここの連中を信用しちゃいねぇだろ」
だから大きい部屋にしておいたとウォルグが続ける。
簡単に人を信用することはディオの護衛として出来ないししないのはウォルグもよく分かっているのでディオと同じ部屋にしてある。
例え守るべき弱者であっても全てを信じることは出来ないものだ。
「助かります」
「ま、他んとこと比べりゃ少しは安全だってもんだ」
「そうかもしれませんね」
シドがウォルグに同意しながら荷物を開き、トリスもそれを手伝う。
ウォルグはディオが座る対面の椅子に腰掛けてから誰にというわけでもなく尋ねる。
「旅にゃ慣れたか?」
「オレは寝てるだけだから、苦労してるのはシドたちじゃないかな」
家を出ることが数えるほどしかなかったディオは、好奇心が勝っていたようだ。
どこでも寝れてしまうことも相まって旅に対してディオは大変だと感じていない。
「初めの頃はそうでしたね」
当時を思い出して淡々とトリスが言った。
フランはクスクスと声を立てて笑う。
「ディオ様が心配すぎてシドもトリスもそれどころじゃなかったよね」
「それはディオを連れて長距離移動なんてほとんどなかったからな」
「妖精のことで何かあった場合、私たちが出来ることはほとんどありませんから」
使用人を引き連れての旅ではないことへの苦労よりも、ディオの体調への心配が優っていて、シドもトリスも慣れない旅の大変さはあまり感じなかったらしい。
フィールドワーク好きな家族に連れ回されていたフランは旅に元々慣れていて、ディオのことはもちろん心配はしていたのだがフランの場合、研究対象としてディオを見ている節があるので苦になる理由がなかったようだ。
「そうか。お前らが上手くやれてるようで何よりだ」
「だといいけどね」
息を吐くようにして笑うディオは、この旅が上手くいってるのか少し不安を混ぜた声で答えた。
「ま、結果がすぐ出るようなら苦労はねぇな。たかだか二年だろ」
「うん」
「これからだ」
それからもう少しだけウォルグと雑談をしたディオは、一度眠りについて起きたときには日が沈んでいて、自警団のメンバーたちは酒盛りを始めようとした。
自警団メンバーのウォルグの呼び方はバラバラですが、基本呼び捨てはない様子。




