魔獣の住む世界
天気が良い。
麗らかな日和とはこういう天気の事を言うのだろう。空が澄み渡っているからもちろん太陽も出ているのだが、不思議とそこまで眩しくはない。冬の寒さには嬉しい暖かさを持っており、今すぐにでも眠れそうだ。
「今寝たら、魔獣ルートで夜を過ごす事になるけどな」
直後リオンが、オズの口から漏れた言葉に対して真顔でそう返した。
オズは困った顔でリオンを伺う。
「でも、少しぐらいロマンティックな事言ってもバチは当たらないでしょ?実際お昼寝日和なんだし」
「ロマンティックって言葉、お前が言っても似合わないぞ」
しかも使いどきが違うだろうと言われ、オズの顔面が引き攣る。
確かにリオンの言う通りなのだが、ドストレートにぶつけられた言葉が痛い。しかもリオンの表情が真顔だからより刺さる刺さる。まるで頭に岩をぶつけられた上に、弓矢で急所を撃たれた様な気分だ。
(いやまぁ、実際味わった事はないんだけども)
数刻前。
互いに友達認定してからというもの、前にも増して手厳しくなったリオンにオズは小首を傾げた。
(もしかしてリオンって、追い掛けてる間は熱心だけど祈願成就したら冷めるタイプ?)
そういうのを「ひるどら」とかいうらしいテレビ番組で見たことがある。登場人物殆どの目が笑っていない番組で、そういうタイプの役柄が一人や二人は出てくるのだ。
正直テレビ画面の中で何が起こっていたのか殆ど理解できなかったのだが、番組の終盤、何故か慌てた雪那に「すぷらったー」だからと目を覆われたので、あまり宜しくない内容だったのだろう。猟奇的な悲鳴も聞こえていたし、中々にドロドロとした内容だったに違いない。
自分とリオンはそうならないように気を付けようとオズは固く誓った。
当たり前だ。
寧ろ何をどうしたら、そんなお先ドロドロコースにゴールインするというのだろうか。先程固く友情を結び合ったばかりだというのに、あまりにも崩壊が早過ぎるだろう。
……というより、リオンのオズに対する分析からして大いに間違っていた。
リオンは熱しやすく冷めやすいのではない。初めてできた友人に対してどう接したら良いのか未だ分からず、ぶっきらぼうな態度になってしまっているだけである。オズに対して弓矢の様な言葉を吐いた最中だって、内心「オレの馬鹿!何やらかしてんだ……ッ!」と自分を責め続けていたのだから。
因みにオズが見ていた昼ドラはかなりダークな部類に属する物だったのだが、昼ドラで『祈願成就』という言葉を使うのも意味が違うであろう。アレはそんなに健やかな願いではない。正しく言うならば、『呪いを受けよキェヤァッ!』である。
あっぱれコミュ障。
あっぱれ純粋培養。
そんな事はさて置き、尚も呆れ口調のリオンが苦笑しながら口を開いた。
「てか今も、魔獣ルートに片足突っ込んでる様なもんなんだからな」
「へ?でも危ないのは夜でしょ?」
「……確かに夜の方が出現率は高まるが、昼だからと言って魔獣が出ないわけじゃないんだぞ?」
その言葉に今までの呑気さは何処へ行ったのか、一気に真っ青になって固まるオズ。やっとこの環境にも慣れ余裕が出てきたというのに、またふりだしに戻ってしまった事にリオンは嘆息した。
「そりゃ危険な事があっても当面はオレが対処するけど……お前だって、いつかは自分で何とかしなきゃならない時がくるんだぞ?」
確かにそうだ。リオンに頼りっぱなしじゃ駄目なのは分かっている筈なのに。
リオンと門番が闘っている時もオズは何もできなかった。それどころか動く事すらできなかった自分を思い出して、オズは申し訳なさに項垂れた。
「ごめんなさい……」
「っ!別に怒ってるわけじゃないって!ただもしこの先、一人で行動するような事があれば困るかなと……」
目に見えてしょんぼりとするオズに、慌ててフォローに入るリオン。だが良くも悪くも素直なオズは更に落ち込んでしまう。
(俺、足手まといだよね……)
リオンは強い。身のこなしだけではなく、心も。
明らかにリオンの足を引っ張ってしまっている事実に、オズは罪悪感に苛まれそうになった。
リオンもリオンで、そんなオズにたじろぎ何も言えずにいる。
しばし二人の周りが静けさに包まれた。
会話もなくただ突っ立っていると、やはり知らない場所は不気味に感じられる。まだ明るいというのにまるで誰かに見られている様な気味の悪さに、オズは身を縮こませた。
───瞬間。そんな空気を破る様に、二人のすぐ傍にある草むらが大きな音を立て揺れた。
静かな空気の中で突然割り込んできた音に、二人仲良くビクッと肩を跳ねさせる。
「な、何……っ?」
オズが音の原因である草むらへと視線を向ける。明らかに何かが潜んでいる揺れ方だ。「ガサガサ」という不自然な草の動きにジワジワと不安が高まっていく。
つい先程まで魔獣の話をしていた事もあり、恐怖心も付随してくるかのようだ。
リオンもオズと同様に不審感を抱いたのか、警戒心を高めるようにして草むらを注視していた。
一向に収まる気配気配のない揺れ。
寧ろ激しさを増しながら、その原因はオズとリオンの前へとゆっくり姿を現した。




