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凍結のオズ  作者: 黒乃レイ
第一部 オズとコミュ障ライオン
12/16

精霊キリハ

 リオンのお陰で無事に門を通過し、次の街へと半分程進んだ道すがら。

 貴重な休憩時間の最中、目の前の美青年にオズは開けた口が塞がらずにいた。

 その美青年……は、キラキラとしたオーラを振りまきながら絶賛飛び跳ねサービス中。


「は〜い!皆のアイドルキリハちゃんで〜っす!因みにリオン専属だよっ。オズ君これからシクヨロ〜?」


 美青年……?は、今時の女の子みたいな口調で自己紹介と共に手を差し出してくる。本当に女の子みたいな可憐な声音で「ほらっ!握手握手!」と言われ、「えっと、よろしく……?」と慌てて手を差し出した。



 ───が。


「もう!何で疑問形っ?キリハちゃんぷんぷんだぞっ!でもオズ君スタイル抜群だし綺麗な手だから許してあげる♪ はい握し「オズに触るなこの変態カマ野郎」


 美青年……うん。は、リオンによって地面へとめり込んでしまった。しかもグリグリと頭を踏まれ、更にメリメリと深さを更新しようとしているではないか。

 それを現在形で行っているリオンの目も、門番を見ていた時が生温いと言われるぐらいに冷め切っている。

「って、ちょっとリオンさんタンマーッ!」

「ん?オズどうかしたか?」

 話し掛けると打って変わった穏やかな表情で応えてくるリオン。

「いやいやどうかしたじゃなくて、その人大丈夫なの?!」

 オズが美青年(?)ことキリハを指しながら言う。するとリオンが応える前に、ガバッと勢い良く顔を上げたキリハがニコッと笑いかけてきた。

 因みに綺麗な顔は土まみれである。

「大丈夫だよ!リオンったら、初めてできた友達だからって独占欲出しちゃっただけだかブフッ!」

「黙れキリハ」

 再び、余計な事を言ったらしいキリハがリオンによって地に沈む。ピクピクと手を震わせるキリハに対して何故かリオンの顔は茹で蛸状態になっており、目の前のシビアな光景にオズは眉をひくつかせた。


(なんでこうなったんだろう……?いや、俺のせいか)

 オズは項垂れながら、数十分前の自分の発言を思い出していた。




 ───時刻は正午。

 そろそろお昼時かという頃、歩く事に慣れていないオズを気遣ってかリオンが休憩を提案してきた。門の事もあって疲労が溜まっていたオズは喜んでそれを受け入れたのだが、その時にリオンの『観己』について詳しく教えてもらっていた。


「精霊?」

「そ。昨日説明しただろ?この世界の種族の内の一つ」

 そういえば言っていたような気がする。オズはリオンの話を聞きながら頷いた。

 今までの会話で分かった事は、リオンの『観己』は精霊の魔力を受け入れる事に長けているという事。つまりリオンは魔法が使えるということである。

「って事は、さっきも精霊さんから魔力貰ってたって事?」

 オズが首を傾げながら尋ねる。それにリオンは、「精霊さんっておま……」とドモりながらも肯定を示した。

「そう。まぁ精霊から魔力貰うって言っても、その過程には契約が必要だがな。つっても、オレはキリハからしか魔力受け取らないんだけど」

「?キリハ?」

 そういえば、リオンが薙刀を出現させる直前にそんな単語を呟いていた気がする。言い草から誰かの名前だろうか?

 オズがそう思案していると、その様子に気が付いたリオンが「あぁ」と口を開く。

「それはな……」




 ───で、冒頭に戻る。

 リオンの「それはな……」の後、彼の言葉を遮る様にして突然美青年(?)ことキリハが現れたのである。それはもう、何もない空間からドロンぱと。否。どちらかというとキラキラと。

 しかも何故かオズの名前を知っている様で、冒頭の様にいきなり話し掛けてきたのである。オズはそのとにかく凄いテンションに引くのを忘れて固まったわけだが……。

 自ら「キリハ」と名乗ってきた事で、彼(彼女?)がリオンの言っていた「精霊」だと言う事には気付いていた。「リオン専属」と言う台詞から、契約とやらもしているのだろう。

 確かに、人間でないと言われても納得がいく容姿をしている。

 第一印象はとにかく「眩しい」の一言に尽きる。左サイドで緩く結んでいる白金の髪と銀色の目の組み合わせは、色彩的に見ているだけで後光がさしてきそうだ。全体的に雰囲気や目つきはおっとりとしているが、そこから人間らしさを感じる事ができない。それは何処か、自分とは決定的に違う種族なのだと本能が告げてくる様みたいに。

 更に、女とも男とも取れる中性的な顔立ちをしているために性別が掴めずにいた。


「えっと。キリハさん、はその……」

(どうしよう。性別どっちですか?なんて聞けない……)

 どっちにしろ失礼に当たると思い、なかなかキリハの性別について聞き出せずにいるオズ。

 するとオズの言いたい事を悟ったのか、リオンが合点がいった様に地面のキリハへと視線を向けた。

「コイツの性別だろ?」

 言いながらキリハを指す。あっけからんなその態度に戸惑いながらも、オズはコクコクと頷いた。

 再び復活したキリハも、その疑問を気にした風もなくニコニコと微笑む。


「ボクは女の子だよぉ」

「キリハはオカマだぞ」


「ごめん。どっちが本当か分からない」


 二人同時に告げられた台詞に、つい勝手に口から言葉が零れてきてしまった。

 というか何故、二人の返答が異なっているのか。キリハは自称女の子なのに、リオンにとってはオカマ……。てかオカマって結局性別どっちだ?

 呆然と頭の中で思考が巡っていく。ついには混乱し、戸惑いながら一人頭を抱え出したオズを見て、キリハを黙らせながらリオンが口を開いた。


「まぁ。キリハが女なのは間違ってないな。だがやっぱり、オカマの方が数倍正しい」

「え。何それそれどういう事?」

 もしかして人間ならぬ、精霊ビックリショーなのだろうか?第三の性がオカマとか?それって精霊的にはどうなんだろう……。

 オズがグルグルとそんな事を思っていると、リオンが呆れた表情で溜息を吐き出した。

「んなわけないだろ寧ろ逆」

(?逆ってつまり……?)

「って、何で俺の考えてる事分かったの?」

 口に出していただろうかと思いながら、慌ててリオンへと視線を向ける。するとリオンとキリハの二人から生暖かい視線が返ってきた。


「お前って分かりやすいよな」

「顔にすぐ出るよね〜」


 だそうである。


(そ、そうなんだ……)

 自分の顔をペタペタと触りながら、あわあわと顔を真っ赤にさせるオズ。

 実はリオンと出会った時から、彼は気持ちを読み取るのが上手いと思っていた。が、リオンの悟りが妙に良い本当の理由を知って、オズは恥ずかしい感情が沸き上がってくるのであった。


「そ、そんな事より、キリハさんの事について詳しく教えて欲しいかなっ」

 何とか話題を逸らそうと少々上ずった声で喋る。

 相当恥ずかしいらしかったオズの様子を見て、面白がりながらもリオンは本題へと入っていった。


「今までの雰囲気で分かったと思うけど、コイツがオレの契約してる精霊な。んでお前の疑問についてだけど、ごく簡単に言うと精霊ってのには性別がない。逆ってのはつまり、男と女という性がそもそも概念として存在しないと言う事だ」

 性が存在しない。

 そんな事が有り得るのかと思いながら、思わずキリハを見てしまう。偶然にもバッチリと目が合ってしまい、オズは妙な罪悪感と共にたじろいだ。

 だがそんなオズの反応など露知らず、寧ろ面白がる様に「確認してみる?」と服の裾に手を掛けるキリハ。

 それだけで刺激が強過ぎたのかピキンと固まるオズとは対照的に、リオンがキリハの頭を殴る形で止めさせた。

 そのままやれやれ、と肩を竦める。


「そもそも精霊は、(カタチ)を必要としないんだ。人型や獣型を取らなくても存在できるから、まぁなる事はできるけどハッキリとした性別はないって事。それに子どもなんて概念もないしな」

「え……?じゃぁ、どうやって精霊さんは増えていくの?」

 子どもを残さないと、絶滅してしまうんじゃないだろうか?そういう意味を込めてリオンを伺い見る。

 すると彼は嫌そうな表情でその問に答えた。

「寿命なんて制限が付いて回る種族は三種族の中じゃあ『人間』くらいだ。まぁかと言って『死』がないわけじゃないし、栄養も勿論必要なんだけどな。だからこそ、オレ達の様な魔力を受け入れる事ができる人間に魔法を放ってもらうわけ。放たれた粒子が精霊の栄養だけじゃなく、新たな精霊の誕生にも繋がるからな」


 リオンの話からすると、あの薙刀によって発生した粒子は精霊にとっての栄養という事になる。

 魔力変換の仕組みについては一応昨日も聞かされてはいたが、そこまで複雑だとも思っていなかった分オズは驚きで一杯になっていた。


「精霊さんって凄いんだね……」

 自然と賞賛の言葉を口にする。

 同時に、本当にこの世界は不思議な場所だと思考が過る。そして、まだまだ存在するのだろう自分の知らない事に胸が高鳴った。



「オズちゃんってば素直な子だねっ!意地っ張りリオンとは大違い!可愛いからハグしちゃおっ♪」

「わ、キリハさんッ?!」

「キリハで良いよ〜。あ!それか、性別はないけどボクは女の子の容取る方が好きだから『キリハちゃん』でも良いよぉ〜♪」

「え。キリハ、ちゃん……?」


 キャッキャと騒ぐキリハに抱き着かれながらも律儀に応えるオズ。生来面倒見の良い性格だからか、キリハ特有のウザさにも堪えていない。

 この分なら直ぐに仲良くなれるだろうとリオンは安心する。


 その気持ちとは裏腹に、二人の様子を眺めるリオンの顔は何とも言えない表情をしていた。

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