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凍結のオズ  作者: 黒乃レイ
第一部 オズとコミュ障ライオン
11/16

『心威』ではなく

(もう駄目……ッ!)

 向こうは鍛えられた兵士。そんな相手に敵う筈もなく、ギュッと目を瞑る。そしてオズはやってくるだろう痛みに身構えた……が。


「……?」

 いつまでたっても何も起こらない。

 それに疑問を抱き、恐る恐る目を開く。すると飛び込んできた予想外の光景に、オズは呆然と立ち尽くしてしまった。

「へ……り、リオン?」

 目の前には棒を振りかざした門番……ではなく。音もなく地面に沈んだ門番と、それを悠々と見下ろすリオンがいた。リオンの顔は一仕事したとでも言う様にスッキリとしており、オズの声に気付くと何故か親指を立ててきた。

 心なしかその顔は誇らしげに見える。

(いやいや、グッジョブじゃないし……)

 まさか、自分が目を閉じていたあの一瞬の間に門番を沈めたのだろうか?だとすれば、どうやったんだろうと思いながら首を傾げる。


 ───直後、もう一人の門番がリオンに向かって銃を構えている事に気付いた。しかも今まさに、引き金を引こうとしている所だ。

「リオン後ろッ!」

 顔を青くしながらオズが叫ぶ。

 だが叫ばれた本人であるリオンは、余裕さえ感じられる仕草で男へと振り返った。


 リオンの海色の目が暗さを増していく。まるで深海を覗き込んでいる様なその色は、何処か悲哀に包まれている様にも見えた。

「キリハ。寄越せ」

 リオンの口から、温度が低く鋭い命令が紡がれる。すると微かに空気が揺れ、彼の中へと『何か』が流れ込んでいった。

 唐突に突き出された彼の右手に、光の粒子が集まり形を成していく。


 最終的に薙刀の形へと収まったそれを、リオンが勢い良く振り回す。

 すると発砲された銃弾とぶつかり、光の火花が華やかに散った。

「す、凄い……」

 よく見ると、銃弾が光の粒子へと変換されているのが分かる。火花の正体を知り、オズは驚きに固まっていた。

 目の前で繰り広げられようとしている戦いに、ピクリとも動く事ができない。次々と発泡されていく銃弾を、リオンが一振りで粒子へと変えていく。

 あまりに圧倒的な力の差に、門番は絶望的な表情で吐き出した。

「貴様、『心威』持ちか……ッ!」

 門番がそれを告げた瞬間。

 その言葉に機嫌を損ねたのか、リオンが眉を顰める。感情の一切消えた目で、門番の頭へと薙刀を振りかぶった。


「え……?」

 一瞬何が起こったのか理解できず、オズは呆然と呟く。だがゆっくりと地面に沈んでいく門番を見て、止まっていた思考が動き出した。

 門番の横顔は死人の様に真っ青だ。

「あっ……───」


 一瞬、門番の顔が誰かに重なった気がした。



「───リオンッ!!」

 思わず、大声でリオンの名前を呼ぶ。

 オズからは想像も付かないその勢いに驚いたのか、素っ頓狂な動作でリオンが振り返った。その表情はまるで、あまりの事に毒を抜かれたかの様。


「な、何だ……?」

「何だじゃないよっ。門番さん、死んでないよねっ?!」

「……はい?」


 必死な形相でリオンへと詰め寄り、今度は門番さんに「生きてますかーっ?」と尋ね出す。

 そんなオズを見て、リオンは思わず吹き出してしまった。

「ぷっ……はははッ!」

「ちょっ……!何笑ってんのリオン?!門番さんが死んじゃったかもしれないのに……っ」

「ふっくッ……大丈夫、それはないから……って、やっぱりおかしいぃぃッ!」

 爆笑しながら、遂には腹を抱えてバシバシと地面を叩き出すリオン。彼の印象とはかけ離れ過ぎた行動を目にし、オズはポカンと口を開け放った。それにリオンはますます、ひぃひぃと笑いを止められずにいる。


 そんな中、ハッと意識が戻ったオズはリオンへと詰め寄った。


「え、何っ?俺なんかおかしな事言ったっけ……?」

 冷や汗をかきながら戸惑うオズに、やっと笑いが収まったリオンが笑い掛ける。

「ふぅ……別におかしくはないぞ。寧ろ、自分に襲いかかそうとしてた奴等を心配する奴なんて、珍し過ぎて新鮮なぐらいだ。というか、別に殺してないから」

「へっ?」

 きょとんとした顔でリオンを眺める。

「だから、門番さんは無事です!さっきのはオレ達に関する記憶を消しただけ」

「え。ぇぇえええっ?!」


 記憶を消す。つまりは、他人の頭の中を弄ったという事だろうか?そんな事ができるなんてと思いながら、リオンが持っている薙刀を凝視する。

 オズの視線に気付いたリオンは、少し困った顔でよく見える様に薙刀を抱え上げた。

「変な色した薙刀だろ」

「そうかな?綺麗な色だと思うけど……」

「えぇっ……?」

 遠目に見ても綺麗だと思ったが、近くで見るとより一層それを感じる事ができる。

 それに、白金に輝くその色は何処か優しい光を纏っている様に見えた。


 パチパチと瞬きをしながら眺めるオズに、苦笑しながらリオンが口を開く。

「これはオレの奥底(オクソコ)に潜んだ力なんだ」

「奥底に……?」

「そう。人間にも動物にも、一度魂が宿った者には普段、自分の奥深く見えない所に潜んだ潜在的な力があるんだ。例えばそうだな……」

 顎に手を当てながら考えるリオン。やがて言葉が見つかったのか、オズへと指を向ける。

「お前が危険な目にあった時、あるいは何かにとてつもなく胸が踊った時……お前は、何かを感じなかったか?」


 トン───、という音を立てて、リオンの指先が自分の胸へと当てられた。

 オズはそれに、軽く目を見開く。

(そういえば……)


 小さい頃。

 真冬の中、薄着で勝手に外に出て両親に怒られた事がある。あの頃靴も持ってなかった自分は、裸足である事も気にならないぐらい初めての外に胸が一杯だった。だからか不思議と寒さも感じなくて、凍傷は一つもできていなかった。

 此処に飛ばされて来て、幼女と出会った時もそうだ。

 あのマリアという少女は、不自然な動きで固まっていた。あの時の自分の奥底が疼く様な感覚は、一日たってもハッキリと覚えている。


(あれが、……?)

 俄かに信じられない。だが覚えがあるという顔をしたオズを見て、リオンは微笑んだ。


「そう。それがお前の奥底にある力。この世界の皆は、心の威力という意味を込めてこれを『心威(シンイ)』と呼ぶ。だがオレ達はこれを、自分を見つめ受け入れる事───『観己(ミキ)』と呼んでいる」


「観己……」

 不思議な響き。

 だけど、何故かしっくりと耳に馴染む音だ。

 そう感想を抱いていると、薙刀を軽く回しながら、リオンがついでとばかりに口を開いた。

「因みにこの言葉、『木の幹』ってのも掛けられてるんだ」

「木の?」

「そっ!自分を見失うなって意味でな。……それに、木の中心なんて人の手だけじゃ簡単に触れられないだろ?」

 自分の奥底とは、他人に触れさせてはならないモノでもある。じゃないと、触れさせた者に自分の全てを掌握(ショウアク)されてしまう事もあるらしい……。

リオンの話を聞きながら、オズはぼんやりと空を見上げた。


「何で、呼び方が違うのかな?」

 不意に、そんな疑問を誰に向かってでもなく投げ掛けた。特に求めていない答えは、すぐ横から返ってくる。

「……体の構造が違うから───」


 その声は、何処か悲しそうで。

 オズはそれ以上何も言う事はできなかった。

 そして何故、リオンが言葉の中で「この世界の人達」と「自分達」を分けたのか……オズには、いつか分かる日が来るような気がした。


 やっぱり空は、憎らしいぐらい雲一つない。

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