門前払い
草むらに囲まれた一本道を、ひたすら真っ直ぐに進んでいく。風も吹いていないのにガサガサ……っと揺れる草むらに、「ビクッ!」と肩を跳ねさせた。
───そんなオズを見ながら、リオンは眉をヒクつかせていた。
「オズ……引っ付きすぎじゃないか」
明らかに疑問詞が付いていないその言葉を聞いて、オズは今にも泣きそうな顔でリオンに縋り付く。
「だ、だってぇ〜……」
まるでオバケを怖がる様な姿は、実に情けない。反対に、これでもかという程ピットリとしがみつかれているリオンは、動き辛さと埋まりそうにもない身長差に苛々を隠さずにいた。
「何メソメソしてるんだよ。今の段階でこれじゃあ、何処にも行けないぞ?」
呆れた様子で言われても、それもこれもリオンが魔獣が出るとか言ったせいだ。そう恨めしそうにリオンを睨んでいると、突然彼が思い出した様に声を上げた。
「てか、オズは国籍持ってないよな?」
聞き慣れない単語に、オズは疑問を浮かべる。
「国籍?……イドリーンスの?」
「そう。持ってないよな〜」
何故持ってない事前提……いや、多分その通りなんだけど。
(てか、国籍って持ち歩く物だっけ?)
自分だったらすぐに失くしそうだ。簡単に想像できる。
オズがそんな事を考えていると、心を読んだ様にリオンが苦笑した。
「誤解してたらアレだから言うけど、持ち歩くわけじゃないからな?生まれた時に国に登録されて、魔導具で本人確認できるようになってるんだよ」
「そうなんだ……。というか、本籍がないと何か困るの?」
さも分からないという様に、オズが首を傾げる。住む家を探すならともかく、旅をしているだけなんだから必要性を感じない。宿もお金を払えば取る事ができたので、問題なく感じだのだ。
だがリオンは、苦々しく首を横に振った。
「それがそうもいかないんだ。街と街の間にはそれ等を繋ぐ道がある。で、そこを通って街を出入りする際には、門を通過しなきゃならないんだが……王都の門には特別、検問ってのがあってな」
「?それがどうかしたの?」
「門番……つまり国の御役人がそこを見張ってるんだが、国籍を持ってなかったらそこを通れない」
「へぇ……って、えぇッ?!」
「因みにその場合、即逮捕」
「ウソッ?!」
リオンの言葉からすると、自分は王都から出られないという事になる。
ガーンッという音が聞こえそうなオズとは反対に、「あっ!」と前方を指しながらリオンがオズの肩を小突いた。
「ほら。あれが検問」
リオンの言葉にバッと前を向く。
そこには確かに、監視する様に門の横に立つ二人の男が立っていた。
まだ朝方だからか人は少ないが、今まさに門を通過しようとしている商人が見受けられる。ゴツい男───門番の内の一人が、変な鏡の様な物を商人の顔に翳す。あれがリオンの言っていた魔導具だろう。鏡から情報認証の様な画面が浮かび、そのまま商人は通されていった。
「まぁ。いっちょ殴り込みますか」
一連の様子を呆気に取られながら眺めていたオズの手を、リオンがしっかりと掴む。それにオズは驚いて彼を見やった。
「えっ……殴り込むって、どういう……っ!」
「しっ。……静かにしないと、門番に聞こえる」
真剣なリオンの声音に、慌てて口を閉ざす。不自然を悟られないように平静を装って歩いていった。そうやって緊張しながらも門へと進むと、先程商人に魔導具を翳していた門番が進み出てくる。
「人数は二人。旅人か?」
「はい」
男の言葉にリオンは短く応えた。
もう一人の男は、オズとリオンを見ながら手元の書類に何やら書き込んでいる。
(な、何だか恐い……)
国の御役人というのは、皆この様に恐そうな人達ばかりなんだろうか?
門番の強面に怯え、リオンにますますぴっとりと引っ付くオズ。しかし門番がそんなオズを気遣ってくれる筈もなく、構わずに口を開いた。
「では、先ずそちらの背の高い男から」
(背の高いって……)
明らかに自分が言われている事に気付き、思わずオズはたじろぐ。だがリオンに背中を押され、渋々と足を踏み出した。
顔に魔導具が翳される。すると目にポイントが当てられ、そこから魔導具が情報を検索し出した。どうやって国籍を調べているのかと思ったが、案外機械的な構造だ。日本のSF映画のセキュリティ装置に似ている。目は口程に物を言うとはよくいうが、魔導具も目から人を判断するらしい。
現実逃避混じりに分析していると、突然魔導具から不可解なスクリーンが浮かび上がった。そこには「エラー」という文字がしっかりと刻まれている。
(へぇ。エラーかぁ……ヤバい、よね?)
結果を見た門番の目は、驚きに見開かれていた。だが直ぐ様、眉間に深く皺が寄せられる。後退りながら苦笑してみるが、凄い眼力で睨まれてしまった。
「貴様……国籍がないとは何者だ?」
オズが下がった分、門番がじりじりと距離を詰めてくる。その腰から何やら物騒な棒を取り出すのが見え、オズは知らずに冷や汗を流した。




