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旧き理を背負う者‐エンシェントルーラー  作者: 立花詩歌
第4章『ヴァニパル戦線』
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(31)『ブラズヘル帝国の惨禍』

 ちょっと残酷な描写が入るので苦手な人はブラウザバックよろしくお願いします(==;

 ブラズヘル帝国軍ヴァニパル侵攻南下作戦中央司令本部――。

 その部屋の中には、4人の人物がひとつのテーブルを囲んで座っていた。


「ヴァニパルの腰抜け共が、ようやく尻尾を巻いて逃げ出しおったか」


 カッカッカッと前時代的な笑い方を素で体現している白髪で初老の大男は、“隻腕将軍”こと軍部総督バルバエル=グレイブハンド。皇帝に続いて指揮権を行使できるブラズヘル帝国軍最高幹部の1人だ。


「それもこれも陛下のお力によるもの。やはり我が国の君主は陛下以外には考えられませんな」


 黒縁(くろぶち)の眼鏡をかけた“君臣(くんしん)”タルバ=トル=ヴァラストスは、上座(かみざ)で上機嫌の皇帝を持ち上げ始める。

 普通ならこんな見え()いた世辞に引っ掛かるのは皇帝の治める国など期せずして滅んでしまうだろう。しかし、このブラズヘルの現君主にして“最上帝”シェオドーリア=ブラズヘルは武勲(ぶくん)だけで国を立て皇帝に成り上がった帝だった。


「ハッハッ。戦勝の前祝いだ!」


 馬鹿だった。

 そして酔っていた。

 豪快に伸ばした(ひげ)をさすりながら中央のテーブルに据えられた戦場の地形図模型を満足げに眺め、陶器製の瓶から酒を直接喉に流し込んでいる。


「ふん、調子のいいことを貴様は先代にも同じく言っておったのだろうが」


 隻腕(せきわん)の右手で酒の注がれた(さかずき)を傾けながらバルバエルがそう漏らすと、タルバは慌てたようにシェオドーリア皇帝の方に振り返り「滅相もない」と取り(つくろ)う。

 するとシェオドーリアはそんな遣り取りを笑い飛ばしてさらに酒を(あお)る。


「あまり水を差してくれるな、我が戦友バルバエル。(わし)にとってはヴァニパルなど微塵(みじん)の敵ですら有り得ないが、勝利は勝利と受け止めよ! ハーッハッハッハッハッ!」

「そうでございますとも。元より我が国にとって脅威たりえる国など世界中のどの国を見ようとありはしませんな!」


 シェオドーリアが高笑いし、タルバがそれをおだてる構図が長々と続く。

 バルバエルはその2人から目を逸らし気味に再び(さかずき)を傾け、隣で1人涼しげな表情を崩さない紅一点、“毒蛇宰相(どくじゃさいしょう)”デカラビア=ペンタグラムを横目で見遣(みや)る。


「バルバエル、(わたくし)に何かありまして?」


 こちらを見ることなくそう言ったデカラビアに、バルバエルは「いや……」と適当な相槌を返して再びテーブルの上に視線を落とした。

 ――ちょうどその時だった。


「騒がしいな」


 高笑いしていたシェオドーリアは、誰からともなく響いたその(つぶや)きを聞き逃さなかった。


「今、(しゃべ)ったのは誰だッ」


 その時、(から)(さかずき)がタルバの手から離れ、テーブルの上でカランと音を立てて転がった。急に静まり返った室内で必然的に目立って響くその音に、他の3人――シェオドーリア、バルバエル、デカラビアの視線がそのまま床に落ちて割れるまで、(さかずき)の動向を追う。

 そして再び3人の視線がタルバに戻った瞬間、3人が3人ともぎょっとしたような表情で思わずテーブルから飛び退()いた。


「……?」


 1人状況が理解できていないタルバが首を傾げる。

 そんな中、次に口を開いたのは“毒蛇宰相”デカラビアだった。


「タルバ、貴方(あなた)……」


 そのこめかみには、冷や汗が浮かんでいる。


()()()()()()()()……?」

「はぁ……?」


 タルバが言葉の意味を理解できず、単語のみに反応して自分の身体を見下ろそうとしたその時、タルバは丸ごと()()()()()()

 黒々とした、あらゆる輝きすら飲み込み食らい尽くすような鋭い闇に――。

 戦慄する空気の中、凄惨で生々しい破砕音が部屋の中に響き渡る。残った3人も目の前で瞬く間に起こり、そして終わった惨劇に顔面蒼白になり、身動(みじろ)ぎひとつできなかった。


「これは――」


 デカラビアがごくりと喉を鳴らす。


「――人食い影シャドウ・マンイーター……!」


 そう叫んだ瞬間、デカラビアの声に反応したのかあるいはその呼称に反応したのか、人食い影シャドウ・マンイーターことディスブライトがキシッと軋むような笑い声を上げた。


 ザグンッ。

 瞬く間に影が駆け、デカラビアの首が――――落ちる。

 2人目の犠牲者が出たそこでようやく枷が外れたかのように、シェオドーリアとバルバエルは腰に差していた幅広の両手剣を抜き放った。


「ぬぅッ!」


 光属性の魔弾を付与させた実用性重視の両手剣を振り、バルバエルはデカラビアの遺体の上に飛び乗っているディスブライトに果敢に斬りかかる。


 キシッ。

 鎌の刃のような姿をした厚みを持たない影魔、ディスブライトは素早くデカラビアから離れて、テーブルの影の中に溶け込んだ。影が本体であるディスブライトにとって、あらゆる影は彼らの(てい)のいい隠れ家に過ぎない。


「陛下ッ! テーブルの上へ!」

「ぐぁぁぁぁぁぁっ!」

「ッ!?」


 シェオドーリアが悲鳴を上げ、がくりと姿勢を崩した。

 バルバエルが即座に駆け寄って確認すると、シェオドーリアの足首から先が両足ともなくなり、断面からは血がだくだくと噴き出していた。


「こんなところで……ッ!」


 バルバエルはシェオドーリアを担ぎ上げ、自身ごとテーブルの上に飛び乗る。


「衛兵ッ! 衛兵、何をしておる! 敵襲ぅぅぅぅぅぅぅッ!!!」

「無駄である」

「……ッ!?」


 再び、さっきの声が静かに室内に響いた。

 バルバエルが咄嗟(とっさ)に振り返ると、さっきまで誰も居なかったはずの部屋の隅に長身の男が立っていた。あまり筋肉質ではない、むしろ戦うことが不得手そうな身体つきの割に、その全身から漂う殺気に歴戦の覇者であるバルバエルは身震いする。

 そしてその長身の男は、何故か目元を完全に覆うような目隠しをしていた。まるで帝国軍部総督(づき)内偵中央主席――――あの薬師寺丸(やくしじまる)薬袋(みない)のように。


「貴様、何者だ!」

「我は――――狂悦死獄(マリスクルーエル)

狂悦死獄(マリスクルーエル)……だとっ……!?」


 (はる)か昔――災害級の魔物にも匹敵する能力を有した危険な王で、死闘の末に封印されたという()()が残る“狂王”だ。

 昨今では実在すら疑われている程度の存在だ――(いな)、存在()()()


 ズンッ!

 バルバエルの表情が苦悶に(ゆが)む。

 泳がせるように視線を下げると、バルバエルの目の前に巨大な黒い柱が映った。その先端は鋭利に尖り、そしてよく見ると――――厚さがない。

 ガハッと、バルバエルは口から血を吐き出した。

 テーブルを下から突き抜けたディスブライトはバルバエルの身体を背中側から貫通し、瞬く間にその中身をずたずたに引き裂いていた。


「ほう、貴様我を知るか――」


 遠退いていく意識の中で男の――狂悦死獄(マリスクルーエル)の声が不気味に頭の中でこだまする。その視界の端ではバルバエルの仕える主の――シェオドーリア皇帝の凄惨な最後が映っていた。

 そして、バルバエルは――――息絶えた。

 シェオドーリア=ブラズヘル。

 バルバエル=グレイブハンド。

 デカラビア=ペンタグラム。

 タルバ=トル=ヴァラストス。

 ブラズヘル帝国という強大な軍事国家を支えていた5柱の内、そのほとんどである4人をわずか数分足らずの内に殲滅した“狂王”狂悦死獄(マリスクルーエル)は何の感情も抱いていないような表情のままに“狂王の使い魔”ディスブライトを自身の影の中に再び潜ませる。

 凄惨。

 残酷。

 しかしそれですら狂悦死獄(マリスクルーエル)にとってはただの余興に過ぎなかった。

 狂悦死獄(マリスクルーエル)は、残っていたデカラビアの遺体をその目隠し布越しにじっと眺める。そして突然フッと笑みを浮かべると、


「面白い――」


 そう言って蝋燭(ろうそく)の火を吹き消すように姿を消した。

 ブラズヘルの5柱の内たった1人――――この場にいなかったのは薬師寺丸(やくしじまる)薬袋(みない)だけだった。

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