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旧き理を背負う者‐エンシェントルーラー  作者: 立花詩歌
第4章『ヴァニパル戦線』
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(25)『目を覚ますと』

「あ、アルヴァレイさん起きましたね……ってどうかしたんですか?」


 飛び起きるように目を覚ますと、俺は元いた砦の中にいた。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


 どうやらミーナの僥倖懐古(プレシャス・メモリー)を受けたその場所から特に動いているわけではなく、ヘカテーとヴィルアリアが両脇に座って俺の顔を(うかが)っていた。


(ルーナは――)


 と視線を下げ、アリアの膝を枕にしてすやすやと眠っているルーナ発見。とりあえずは落ち着いたのか、あるいは疲れて眠ってしまったのか、一応大人しくさせたという意味では成功したようだ。

 壁際には、妙なものを両耳に付けたアプリコットが目を閉じて壁に寄り掛かり、楽しげに小声で歌っている。

 チェリーはその隣で、刃渡り15センチほどの短剣を上に放り投げては取り、放り投げては取りを繰り返している。


「よく寝てたけど、何の夢見てたの?」


 アリアがそんなことを聞いてくる。


「あぁ、えっと――」

(――……あれ? 今、俺……何の夢を見てたんだっけ……?)


 何だろう。頭の中に(もや)がかかっているみたいで思い出せない。


「お兄ちゃんのことだからきっと酒池肉林(シュチニクリン)な思い出だよね」

「妹の自分に対するそんな認識は兄として凄まじく衝撃的なんだが」


 どうして拗ねた時の反応なんだよ。というか、お前子供の頃から全然変わってないよな、そういう辺り。

 妙に決めつけで話したり、突拍子もないこと思い込んだりして、最終的に俺のせいにしたり、というくせは昔からだ。


「あ、起きたんですね」


 今気付いたというように、パッと顔を上げたアプリコットがそう声をかけてきた。


「いやっほー、15分ぶり~♪」


 片手をひらひらと振り、もう片方の手で耳に入れていた耳栓のようなそれを紐をピッと引っ張って取ったアプリコットが、また奇天烈な言い方で()り気無く寝ていた時間を教えてくれる。


「それ、何だ?」

「彼方からのものの呻きが聞こえるおぞましきイヤホンです」

「意味がわからないけど、何となくわからない方がいいってのはわかった」

「おや、バレた♪」


 あっけらかんとそんなことを言ったアプリコットは壁から離れてこっちに歩み寄ってくると、


「そして、ちょうどよかったですね。ついさっき、ボクとチェリーさんで話してて決まったことがあるんですよ」


 両腕を広げたアプリコットは、提案するような雰囲気を(かも)しながら(おもむろ)に人差し指を立て、


「この後ボクらは自衛とかその辺の理由でちょこっとだけ暴れてきます。そこで提案なんですけど、一緒に来ます?」


 楽しげな笑みを浮かべてそう言った。


「いや、暴れるって――」

「ちなみに、恐らく後1時間もすれば(ローア)南西のレインの森を抜けて、ブラズヘルの奇襲部隊が到着するのです~」

「憔悴しきったここの連中だけじゃ壊滅的な打撃を受けて陥落。本国から切り離された最前線も、まぁ一ヶ月は()ちませんね。ブラズヘルの竜騎兵団はそこそこに優秀らしいですし?」

「それでも私様(わたしさま)からすれば羽虫と同義なのですが~。その奇襲部隊と後続の竜騎兵空爆部隊ボンバードメント・ドラグーンさえ潰してしまえば、ある程度戦力は拮抗するのです~」

「まぁ、ぶっちゃけボクらがでしゃばらなくても同じことはそこのルシフェル=スティルロッテがやりますから、歴変異常については何の問題もないですしね。一緒に来ませんかって言ってるのはアレです。ヘカテー=ユ・レヴァンスがいないと辻褄が合わなくなるからですよ」


 2人が何を主軸にして話しているのかがわからないせいか、何を言っているのか半分以上わからなかったが、もうすぐブラズヘルの奇襲部隊と竜騎兵団が来る可能性が十分に高いことはわかる。


「ま、最前線とは言え、ぶっちゃけここより生存率は高いと思いますよ。ボクらがいる時点で()()ですから♪」

「行きましょう、アルヴァレイさん」


 ヘカテーが突然そう言い出し、すぐに頭の中に声が響いてきた。


『私はアルヴァレイさんを……、皆を守りたいんです。ルシフェルは確かに万能です。でも万全じゃないんです。しかも妹たちは、確実に味方になるとは限らないですし、私には読心能力とアルヴァレイさんより少しは高いぐらいの運動能力しかありません。魔法も使えますが、現代の魔弾と比べるとどうしても遅くなってしまいます。皆を守りきる自信はあります。でも今は、それを差し置いても保証が欲しいんです』


 声ではなく心でそう言ったヘカテーの目は、真剣そのものだった。

 ちらっと、アプリコットとチェリーの方に視線を()る。

 色々と規格外の変人に、仲間すら仲間と思わない危険人物の2人組。

 かなり今さらだけど、この2人が信用できるのかという話は、あの竜の群れが途中で来たから決着していなかったはずだ。

 そう――――シャルルと会ったという場所もまだ聞き出せていないのだ。

 それを聞き出すためには、ここでアプリコットと別れるわけにはいかない。数少ない手がかりを逃したら――。


『……いや、だからって……。言うだけじゃ保証にはならないだろ』


 確かにシャルルのことも大事だけど、今は目の前にいるヘカテーとアリアとルーナ、彼女たちの身の安全が第一だ。

 確かに俺たちを幾度か守ってくれはしたが、アプリコットとチェリーの2人は見たところ間違いなく人外。つまり、外見通りの年齢とは限らない。あるいは老獪(ろうかい)で狡猾な可能性もある。

 その意図に意味があるかどうかは問題ではなく、2人のこれまでの挙動や遣り取りを見ていると、その手の演技ぐらいはしかねない危うさがあるのだ。

 だとすると、少なくとも警戒している姿勢はヘカテーに見せておかなければいけない。思うだけで伝わる、そして第三者による意図的な情報操作さえなければ嘘でないことがわかるというのはこういう時にはやはり便利だ。彼女の生い立ちを考えると、不謹慎な言葉かもしれないが。


『……彼女たちの力は見たでしょう。単純な戦闘能力だけなら、私よりずっと高いです。万が一、彼女たちの言う“確実”が嘘だったとしても、今は彼女たちの存在は大きいです。それに彼女たちは――』


 ヘカテーは目を閉じて、自分に言い聞かせるようにこくんと頷き、


『――仲間ではないですが、敵でもない…………そう思います』

『仲間でもない奴を信頼するのか……?』

『頼りませんから信頼じゃありません。信用です。信じて、利用するんです。彼女は仲間でも敵でもない。自衛という利害で一致した、()()にします』


 “信用”って言葉になんてことを。


『味方と仲間は違う、か……』

『はい、ですからアリアさんとルーナちゃんを連れて、すぐにここを出ましょう』


 ヘカテーは、私を信じてくださいと瞳で語りながら、俺に頷く素振りを見せた。


(……わかったよ、ヘカテー)


 肩の力を抜く。


「でも、どうやって抜け出すつもりだ? あれだけ好き勝手暴れたお前らが揃って出てったら、間違いなく目立つだろ」

「いや、ボクたちはステルス迷彩(カム)初装(デフォ)実機ですし」

「…………はい?」

「要するにルシフェル=スティルロッテの“理を逸脱した表裏一体エーンリッヒ・ドゥンケルハイト”のちょっと(なっさ)けない下位互換です♪」


 そんなことまでできるのかよ――――と思ったけど、よく考えたらアプリコットもチェリーも何の気配もなく突然現れてたな。


「だから問題はボクらじゃなくて、むしろそっちですよ。っつっても、あぁ、そっちはルシフェル=スティルロッテ本家がいましたね♪」


 協力してくれるなら、だけどな。

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