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旧き理を背負う者‐エンシェントルーラー  作者: 立花詩歌
第4章『ヴァニパル戦線』
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(8)『召集令状』(改稿済み)

 ヴァニパル南西部に位置するクィール城砦がブラズヘル軍の奇襲を受け、陥落した。

 正式な宣戦布告前の攻撃に対し、各国の意見は賛否両論だったが、同日夜、新兵器のデモンストレーションと称した威嚇砲撃がパクス海のヴァニパル沖合いに撃ち込まれ、大爆発。

 このことで、ヴァニパル以外の各国は次々と批判を口に出さなくなっていた。


「で、召集……か」


 ヴァニパル共和国召集令状。

 同盟国、エルクレス神和帝国国立騎士団所属、リィラ=テイルスティング。

 同盟国、エルクレス神和帝国国立特務部隊第二師団隊長、鬼塚石平。

 ヴァニパル共和国クリスティアース医薬学院所属アルヴァレイ=クリスティアース及びヴィルアリア=クリスティアース。

 各々、明後日10時までにローア城塞に行くこと、という旨の書類がクリスティアース本家に届いた。


「アルヴァレイとヴィルアリアがここにいるというのはまだわからんでもないが、私と鬼塚の場所まで……。どうにも解せんな。婆さん。これは間違いなく正式な書類なのか?」

「人の家に世話んなっといて、まだ婆さん呼ばわりかい? だが、見たところそのようだねぇ」


 ヴェスティアはそれら3枚の紙をしげしげと眺めて言った。

 高級紙に手書きの文字でしたためられた召集令状だ。国の認印も入っているし、これが偽物とは考えにくい。それぐらいのことはアルヴァレイでもわかる。


「色々とツッコミ所がありますけど群を抜いてるのがこれですよね、何ですかこの鬼塚の肩書き。特務部隊第2師団隊長ってマジですか?」

「知らん!」


 大声で言ってのける鬼塚。というか本当にコイツの頭大丈夫か?


「ふん。鬼塚の階級よりも私の方が低いなんて考えられるか?」


 考えられない。

 特務部隊と言えば武勲に困らないエリート集団で、その師団隊長格と言えば多すぎる勲章を保管するのに苦労している、軍部にその半分以上を突き返したという逸話も残っている程の軍人だ。

 こんなに協調性の無い人がどうやったら隊長を務められたんだろう。


「それとなんで俺が今でも学院に在籍していることになってるんで――」

「つまり、私と鬼塚、アルヴァレイとヴィルアリアが戦争に参加することになるのか。『悪霊』と『魔女の家族』、貴様らはどうする?」


 人の話を聞かないやつが多すぎるだろ、俺の周り!


「なんか明らかに悪意入ってますよね、その呼び方……。『悪霊』は私じゃなくてルシフェルの方ですからそこのところを勘違いし――」

「どうでも変わらんだろう。で、貴様らはどうするんだ?」


 ヘカテーがぐぐっと拳を握って視線を逸らす。

 俺と同じことを考えていそうだな。早々とリィラさんの理不尽さを思い知ったのだろう。

 その反論すら軽く無視されて、ふつふつと湧き出る怒りを抑えている。ルシフェルのように手を出さない辺りはさすがヘカテーだ。

 そう感心していると、ヘカテーが何となく救われたような表情で顔を上げた。

 下げた拳を未だにしっかりと握っているのは、どうしようもない不可抗力なのだ。俺も何度も経験しているからよくわかる。

 そしてヘカテーは口を開いた。


「行きますよ。アル君って何だかんだ戦闘能力に関しては弱いですから、私が守ってあげないと誰よりも早く戦死しちゃいそうなので」


 笑顔で酷いことを言われた。

 リィラさんには何もしなかったけど、俺に八つ当たりという飛び火。


「なるほど、確かに」


 しかも納得された!?

 俺の8年間の鍛練がたった2文節で全否定された。

 別に悲しくないよ。どうせ弱いもんな、足手まといだもんな、ちくしょう。


「ルーナは連れていくわけにもいかないし、婆さんの所に置いてくよ」


 ぶんぶん!

 さすがにルーナは戦闘能力ほとんど無いし、広い戦場では守ってやれる自信はない。


「置いてくのなら引き受けてもいいけどねぇ……ただひとつ問題があるなら」


 ヴェスティアが口ごもる。

 ぶんぶん!


「なんかダメなのか? 婆さん」


 ぶんぶん!


「ダメじゃないさ。ルーナがここに残りたいのなら構わないよ」


 ぶんぶん!


「ここに残るよな、ルーナ」


 ルーナに同意を求めても答えはわかっている。

 さっきから首を横に激しく振り続けていたルーナは頭を押さえてしゃがみこんでなお、首をゆっくりと横に振っていた。


「行く気か……?」

「行きます!」


 ルーナはしゃがみこんでいた体勢から急に立ち上がって力強く言い放つ。

 直後、確実に起こると予想していた立ちくらみでふらふらとよろけ、椅子にドサッと座り込んだ。


「全員行くということだな。アルヴァレイ、私はこっちの地理に詳しくないんだが、ローア城砦とはどこにあるんだ?」

「ここからさらに南西に行った所にある要拠点ですね」

「ヴィルアリアや『悪霊』の足を考えると、どのくらいでつける?」


 アルヴァレイは頭の中で地図と定規を行ったり来たりしながら計算する。

 そして、ニコリと笑って言った。


「今すぐ出ればギリギリ遅刻ですね」

「となると、私と鬼塚が先に行って、事情を説明した方がいいか……」

「鬼塚だけでいいんじゃないですか?」

「事情を説明できる頭があるとは思えん。私だけでもいいんだろうが、癪だから道連れが欲しい。幸い私は既に用意はできているしな。鬼塚に限っては用意などいらんだろう。なぁ鬼塚。貴様の筋肉には何が必要だ?」

「燃えたぎる闘志と倒すべき敵、それと筋トレのみだ!」

「よし、じゃあすぐに発つからそこでたぎっていろ」

「任せろ!」


 リィラが部屋を出ていくと、鬼塚は倒立を始めた。



 リィラと鬼塚が発って1時間後、ようやく女子組の準備が終わったようで俺は街道に出た。


「何やってるんだ……?」


 先に外に出ていたヘカテー、ルーナ、ヴィルアリアが何やら集まってひそひそと何かを話していた。

 そっとヘカテーの背後に寄って、聞き耳をたてると、


「アリアちゃんは主席じゃないですか?」

「何となく不本意だけど……ヘカテーさんはどうするんですか?」

「ルーナはどうしましょう……?」


 会話の無声音のせいでうまく聞こえないが、一人一人について何かを考えてるらしいな。

 どうやら3人は俺には気づいてないようだ。それほどに熱中するようなことなのだろうか。


「アルヴァ……一……ね」


 なぜ俺の名前が出る。何気なくヘカテーの肩をぽんと叩いた。


「ひあっ!」


 なんつー声をあげるんだよ、こっちがビックリしたじゃねえか。


「ア、アルヴァレイさん……そこダメ、あぁんっ」


 いつまで続くんだ、コレ。とっくに肩に置いた手は俺の背中に逃げてるのに。


「何してるんだ?」


 ヘカテーの肩ごしにヴィルアリアの手元を覗き込み、その手に握られた紙を見た。


 アリア→『学院首席』

 ヘカテー→『???』

 ルーナ→『幻生獣』

 アル→『一般人A』


「おかしい……。最後のは二つ名とかじゃない気がする。むしろ最後のAが脇役の役名って引き立ててないか?」


 エンディングロールにのせて貰えるのかどうかが気になる。扱いひどくないか?

 そう思った時、視界の端に面倒な奴が映った。おそらく同じく召集されたため俺の所に来たのだろう。


「アルヴァレイ!」


 大声で名前を叫ぶな。

 エリアル=レイダーこと本名ミアハート=リベルだ。


「エリ……ミアか」

「最初ので頼む!」


 まだ60度ぐらいだった。


「いやだ」

「ヘカテーちゃん、なんかコイツ怒ってない? 何かあった?」

「さぁ……」


 いつもなら面白さを求めて話を引っかき回すようなあのヘカテーが曖昧な表現で誤魔化した。


「どうしたんだよ、アルヴァレイ」

「どうもしてねえって言ってんだろうよ、ミアハート=リベルちゃん」


 だからそれで呼ぶな、とでも叫ぼうとしたのか、エリアルが口を開いた時だった。


「え?何?」


 案の定、ヴィルアリアが話に食いついてきた。

 同時にエリアルが口をあけた間抜けな顔のまま硬直する。ヴィルアリアもコイツに騙されて、いまだに『エリアル=レイダー』と思っているだろうから、エリアルにとっては精神的に致命傷だろう。

 ヴィルアリアに好意を持っている節もあるからな。エリアルの癖に。


「何でもないっす! いや~アルヴァレイさん。今日もいい天気ですねえ。なんかもうすいませんでしたっ!」


 テンションがどこかおかしいくせに、今度は見事な直角だった。

 話がわかっていない人がいるといけないから、一応言っとくけど、腰の曲がり方のことだからな。


「よぉエリアル。どうしたんだ?」

「いや~なんか二つ名のことで盛り上がってたからさ。俺もなんかつけてもらおうかと思って」

「『腐卵臭』とかでいいだろ」

「いやひどくない!?」

「だって『電光石火』にしたら、読むときにエリアル=レイダーって2回言わなきゃいけないじゃん」

「なるほどな~。でももうちょっとカッコいい奴がいいな~」


 口元をぴくぴくと引きつらせながら、俺の肩を強く掴む。


「わかったわかった、いてぇからはなせ。『天翔る腐卵臭』で文句ないだろ」

「最後の部分変えろよ! 俺が何が不満かわかんねえのか!?」

「ああすまん。やっぱお前は『電光石火』だよな。悪かった、ちょっとふざけすぎた。許してくれ、親友だもんな」

「ああいいぜ! 親友よ!」


 『電光石火』ミアハート=リベル。


「お前ホントに親友か!?」

「今さらかよ。親友なわけねえじゃん。っつーか、友達になった覚えがねえよ」

「いやひどくない!? お前もういいよ、ヘカテーちゃん! なんかカッコいいのつけてよ。この俺の輝きに見合うものを!」


 なんて無駄なポージング。目の毒だ。


『アルヴァレイさん、猫被るのも大変なんですよ……?』


 一生経験することはないだろうから、その助言は最悪必要ない。


「そうですね……う~ん、『筋肉の敵エネミー・オブ・マッスル』なんてどうですか?」

「意味わかんねえけど響きはなんかカッコいいな! それがいい!」


 目の前で仕掛けた地雷をそうと知らずとはいえ嬉々として踏みに来るのは世界中を探してもコイツぐらいじゃないか、と思った。得体の知れない物であることぐらいわかるだろうに。

 意味がわかっていて鬼塚とある程度関わったヴィルアリアはもちろん、本当に意味がわかっているのか疑わしいルーナでさえ苦笑いしかできない。

 鬼塚との対面が楽しみだ。

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