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旧き理を背負う者‐エンシェントルーラー  作者: 立花詩歌
第3章『マルタ城砦』
60/121

(18)『筋肉神』 (改稿済み)

「あなたがアルヴァレイ=クリスティアースね。あなたを探してたの」


 未だ土煙が抜けきらない埃っぽい石牢で巨大なメイスを持った美少女が微笑んだ。

 壁の大穴から見える青い海には軍艦が浮かび、その手前には意識を失ったブラズヘルの兵士が倒れている。そしてさらにその手前では慌て気味の表情で視線を泳がせる少年とその少年に何事か強い口調で言う少女。その手には何かの紙束が握られている。


「今出してあげるわ」


 少女が手に持つメイスを鉄格子に向かって振り下ろし、一振りで小枝のように叩き折られる鉄格子の破片が石の床に落ちて派手な音を響かせる。

 そして鉄格子の中に入ってきた少女は軽やかな歩調でその残骸を避けて俺に歩み寄ってくる。


「動かないでね」


 忠告として放たれた言葉を理解する暇もなく、至近距離に振り下ろされたメイス。少女は鉄格子と同じように、その一振りで的確に俺を拘束する鎖だけを叩き潰していた。

 さらに持ち上げて潰す。持ち上げて潰す。

 俺の手足につけられた4本の鎖は瞬く間に壁や床を削り取り、平らに均されて、砕けた石と同化した。


「お礼を言いたいところだけどその前に聞きたいことがある。いいかな?」

「下着の色以外ならどんな質問にも答えてあげるわ」


 年下の女の子にわざわざ言われなくても今のところ興味はない。


「君たちは誰だ?」


 常識的な問いかけだ。

 正体不明の相手を信用できるほど平穏な生活は送っていない。


「名前と所属でいいよね。ヴァニパルのとあるギルドから来ました。私は衣笠紙縒、彼は狗坂康平。以後お見知りおきを♪」

「ヴァニパルのギルド……なんとなく嫌な予感が否めないけど、依頼で来たのか?」


 これも常識的な問いだ。


「ええ。依頼内容は『アルヴァレイ=クリスティアース、ヘカテー=ユ・レヴァンス、リィラ=テイルスティング、鬼塚石平、ルーナ=ベルンヴァーユ。少なくとも以上5名の救助』つまりあなた他4名を連れ帰れってことね。他の人は知り合い?」

「全員仲間だよ。最後に1つ。依頼人の名前は?」

「本当は教えちゃいけないんだけどね。アルヴァレイ=クリスティアースにのみ可って言ってたから。えっと……ヴェルアリア=クリスティアースだったかな」

「ヴィルアリアだよ。ああ、とにかく助かったよ、ありがとう」


 台詞とため息の見事な調和を表現したみたいな声になってしまった。


「どういたしまして♪ ほら行くよ、康平。アルヴァレイも一緒に来て」

「もちろん」


 いきなり呼び捨てか。別にいいけど。

 牢からの死角にあたる壁にかけられていた鉤爪と短剣の入った袋を手に取り、中身を確認する。

 武器無しでただの足手まとい扱いを受ける覚悟も若干していたのでこの点に関しては感謝しよう。


「さっきその辺に鬼塚がいた。まだいるかもしれない」

「わかったわ。康平、モタモタしてないで早く……って何やってるの?」


 牢屋を出たところで振り向くと、康平は気絶する兵士の胴の鎧を外し、そっと床に置いているところだった。


「紙縒がむちゃくちゃやるから、息ができなくなってたんだよ。そのままだと死んじゃうだろ、ってその目は何?」

「いや、まともに戦えないのに、相手のことまで考えてるのかと思うと……」

「うるさいな! ちょっと前まで普通に高校生やってたんだから、戦えないのはしょうがないだろ!」

「私も高校生だったよ?」

「そんなのを振り回してる高校生がどこにいるってのさ」


 そう叫んで、メイスを指さす康平。よくわからない会話だ。


「モタモタしてないで早く行かなきゃいけないの。ほんとにバカなんだから……」

「はいはい! はぁ、理不尽だよ……」


 自分とヘカテーやリィラを客観的に見ている気分だった。康平と自分は似ているのかもしれない。




 鬼塚の叫び声のおかげで、ヤツを見つけるのは数分とかからなかった。

 見つけるのは。

 そう、見つけるのは。

 そういえば忘れてた事実。

 見つけた後の方が地味に大変だったと気づくべきだった。


「あ、あのウネウネしてるのが鬼塚なの? C級映画のモンスターみたい」

「いや、そっちでなくあっち」

「……その鬼塚は何をやっているの?」

「さぁ」


 鬼塚は倒立していた。

 この際、鬼塚の方はどうでもいい。問題なのはむしろなんだアレ。

 倒立する鬼塚の目の前でウネウネと蠢く何か。

 何となくイカに似てなくもないこともなくもない。

 ただし一緒にすると、イカが不憫になりそうなぐらいグロテスクな姿だった。この世の物とは信じたくないグロテスク、といってわかる方もわかる方だ。


「気持ち悪い、吐きそう……」


 紙縒は口に手を当てて、身をすくませる。本当に気分が悪そうだった。

 本当は描写なんてしたくないぐらい有害な姿をしているが、さすがにそんなわけにもいかないので。ここは俺が犠牲になるしかない。

 えっと……足は10本に見える、足かどうかは保証できない、むしろ触手。

 倒立している、イカ基準で頭らしき部分が下で足らしき部分は上を向いて生えている。

 色は毒々しいとか禍々しいとか言い表したくはないけど、桃色と紫色。

 イカ基準で頭らしきところには紫色の堅そうな金属光沢。

 で、それ以外のところだが、主に足の辺り。

 気分が悪くなるので、できるだけ早口で言おうと思う。


 筋肉。


 以上です。

 それで説明が足りないようなら、仕方ない。誤魔化すのをやめつつ喩えて言おう。

 皮膚が剥がされた人の筋肉みたいな筋が無数に走り、足を動かす度にピクピクと生々しく小刻みに震えていた。

 さあ現実逃避だ。しないと脳がやられかねない。

 思い浮かべろ。そう、仲間のコトを。探さなければならないことを。

 ルーナ。ヘカテー。リィラ。

 鬼塚……と戦っているのはあのイカ(?)だな。うん。

 口の中に気持ち悪い胃酸が上がってきたのを必死に抑え込む。


(あ、あまりにも見た目が酷いのでモザイクをかけてお送りいたします……)


 誰に対してなのかすら意味不明なことを考えつつ、背筋を伸ばす。


「鬼塚流メタルぶるぁ!」


 鬼塚の言語崩壊がはなはだしい。

 鬼塚は片腕だけで体を支え回転しながら自由な方の拳を筋肉神の頭の辺りのモザイクに向けて放った。しかし、鬼塚の拳は筋肉神のモザイクに当たることはない。それどころか筋肉神は鬼塚の攻撃を避けつつ、滑る、もとい、ぬめるような動きで鬼塚の背後に回っていた。


「ぬうっ!」


 筋肉神のモザイクが鬼塚に向かってウネウネと伸びる。それが九本。

 以下略。


「紙縒、康平。鬼塚は後にして、他を先に探そう」

「ええ、そうね。うっ……ぷっ」


 これ以上ここにいると精神的・肉体的双方からやばい領域に入ってしまう。

 強制的に胃の中身を全て持っていかれる前にその場を後にした。


「鬼塚流……らぁっ!!!」


 後ろから鬼塚の雄叫びが聞こえる。

 できれば早めにアレを抹消していただきたいが、神と崇めているのかライバルと認めているのかあまり期待しない方がいいのだろう。というか何故ここにいるし()()()


 砦の裏庭だろうか。

 全体的に粗雑な印象を受けるこの砦の中では珍しく手入れが行き届いた空間だった。着弾音や爆発音や人の悲鳴だか雄叫びだかが聞こえてなければ軍事要塞だってことを忘れてしまいそうだ。


「ヘカテーとルーナはたぶんすぐ合流できるよ」

「どうして?」


 何で俺の周りには上目遣いを連発するような奴ばかり集まるんだろう。


「えっと……ヘカテーは人の思考を覗くことができるからね。たぶん呼べば、ある程度近い場所には来れると思う。それにルーナはちょっと違うけど、大声か指笛で呼べば来るよ。ベルンヴァーユだから」


 康平が不思議そうな顔になった。


「ベルンヴァーユだから……って特殊な一族か何か?」

「え? いや、えっと……」


 ベルンヴァーユを知らない人を初めて見た。

 ていうかアレを知らない人いたんだ。見ると、紙縒もきょとんとした顔でこっちを見ていた。


「ベルンヴァーユっていうのは、大きな黒い鹿だよ。えっとどう説明しようかな……ちょっと待ってて」


 大きく息を吸い、指を口にくわえる。


 ピィ――――ッ!

 次の瞬間には目の前の地面が大きく抉れていた。

 もちろんそれをやったのは黒い毛皮のあの子であって。

 抉ったのは蹄でも、次の一瞬でその屈強な細い足は女の子らしい華奢な足に変わっていたのであって。

 一度は獣の姿になったのであって、それから人間の姿に戻ったのであって。

 服を着ているわけもなく、堂々とその艶かしい肢体を白日の元にさらしていた。

 つまり俺と康平の目は紙縒の容赦ない二本刺しによって多大な激痛を味わったというわけだ。


「「理不尽だ……」」


 キャラがもろに被ってる。

 何はともあれルーナ合流。

 ルーナはしっかりローブを角に引っかけていたらしく、紙縒と一度草むらに入った後、ローブを身体に羽織って出てきた。


「ご、ご迷惑お掛けしました……」

「「いや、無事ならいいんだ……」」


 台詞とかももろに被ってる。まだひりひりと痛む両目を擦りながら、双子の様な血筋からまるで違う赤の他人2人は似たような姿勢で呟いた。


「あの……泣いていますか?」

「「泣いてない泣いてない!」」

「二人して、なんで泣いてるの?」

「「納得いかねぇ!!」」


 何を隠そう、これが理不尽だ。それにしても、康平にはホントに親近感。

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