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旧き理を背負う者‐エンシェントルーラー  作者: 立花詩歌
第3章『マルタ城砦』
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(9)『崖上の男女』(改稿済み)

「幸(さいわ)い大した騒ぎにはなっていないことだし、とりあえず船内を制圧する。あの馬鹿も途中で回収しなければいかんからな」


 部屋の戸に手を当てたリィラが声を抑えてそう切り出す。

 船が着いてから、わずかだが時間が経っている。甲板にいたということなら、もう連行されている可能性も否めない。かなり手がかかりそうだが。

 つまり問題は何処にいるか。

 既に船を出ていたら探すだけで手間取ってしまうし、万が一殺されでもしていたら……。

 嫌な考えを振り払う。

 となると鬼塚については船内を探すのが無難だ。だとしたら、船内までなら届くだろうヘカテーのテレパシー(?)に頼るのが一番合理的な選択肢だった。


「おい、悪霊。鬼塚に『筋肉神はいつもお前を見ている』と伝えられるか」

「だから悪霊じゃ……。船の中ならたぶん大丈夫だと思いますけど」


 ヘカテーは目を閉じ、すぅと息を吐く。

 そしてその次の瞬間――


『貴様ら、そこに並べ! 貴様らの生温(なまぬる)ぬるしたウナギ然とした筋肉を鍛え直してやるから覚悟しろ!!!』


 上の貨物室をも突き抜けて、甲板(うえ)の方から鬼塚の叫び声が聞こえてくる。と、同時に――――ドォオオオオンッ!!!

 砲弾が着弾したかのような破砕音が響いてきた。と、同時に複数の兵士の悲鳴が重なり聞こえてくる。


「鬼塚め、例え方が意味不明だ。しかしとにかく甲板(うえ)にいることは間違いないらしいな。今なら上に人が集まる。私たちも一気に突破するぞ」

「鬼塚さんは1人で大丈夫なんですか?」


 ヘカテーの質問に俺がどう答えようか迷っていると、


「アイツは大丈夫だ。私より強いからな。軍の階級も私より上だ」

「そうなんですか?」


 ヘカテー、俺に確かめようとしないでくれ。俺も知らな――


「そうなんですか、わかりました」


 あっさりと俺からの返答を諦め、既に扉を蹴破ろうとしているリィラの後ろにつく。

 俺がルーナを連れて行こうと振り返った瞬間――バキンッ!

 扉を蹴り開ける、もとい蹴り破るような木材の破砕音が聞こえてきた。

 穏便にとは言わないが、もう少し静かにできないものかな。


「早く来い、アルヴァレイ! とそこの獣!」


 ルーナです。


「行くぞ、ルーナ」

「は、はい!」


 プルプルと震えるルーナの手を引いて、リィラとヘカテーの後を追って部屋を出る。

 そこでは既に近場に数人いたブラズヘルの黒い鎧の兵士を2人が倒していた。

 そこでリィラはこっちを振り返り、一吼(いっこう)。


「アルヴァレイ! これは戦争だ! 躊躇うなよ! 躊躇えば死ぬのはお前だ! できるだけ貴様には回さないように私と悪霊で片付けるがな! いざとなれば躊躇うなッ!」

「え、私には何の遠慮もないんですか……?」

「貴様、人ぐらいなんとも思ってないだろう」

「……そんなことないです」


 ヘカテーは心底不服そうな顔をすると、バキンッと手近なドアに拳を叩きつけ、爆風のような衝撃と共にそのドアを部屋の奥の壁まで吹き飛ばした。

 中に潜んでいた兵士ともども。

 心読めるって恐ろしい優位性だな。


「アルヴァレイさんッ!」


 ルーナの悲痛な声に振り返ると、剣を上段に構えた兵士が今にもルーナに切りかかろうとしていた。


(ちっくしょう!)


 すぐさま手に取った短剣の鞘でその切っ先を受け止める。


「死ね、小僧ッ!!!」

(コイツならいける……!)


 ほぼ素人の俺から見ても剣筋の隙が丸見えだ。力任せなだけでまとまりが甘い。おそらく今回の戦争に当たって新たに起用された兵士だろう。

 おそらく剣も手に余る重さの物を使っている。


(それなら……!)


 短剣を持つ手を思い切り押し込んでから、短剣を傾ける。

 剣を振り抜こうと馬鹿みたいに力押ししていた兵士は勢い余り、俺の差し出した足に引っかかって派手に引っくり返った。


 ドカッ。

 激しく背中を打った兵士は呻き、直後に振り下ろされたリィラの剣の鞘に鳩尾を打ち抜かれた。

 肺の中から空気を押し出された兵士はそのままのびてしまった。




 ほぼ同じ頃――。

 アルヴァレイたちの乗った船の停まっている隠し軍港を一望できる高台に1組の男女が立っていた。その内の1人、男の方は赤い騎士甲冑に身を包み、ヘルムの間から鋭い眼光が船を見据えている。そして女の方は着物を着崩し、長い髪を後ろで束ね、白い布が目を隠すように頭に巻いている。


「ええんどすか? リクルガの兄(にー)さん。あのえらいごついお人を止めんでも。あんさんの部下もぎょうさんやられとりますえ?」

「私が手を下すまでもない。部下なら大丈夫だ。貴様に心配されるなど屈辱の極み。貴様はとっとと城に戻れ、薬師寺丸薬袋(やくしじまるみない)」

「えらい嫌われ様やねぇ。ウチ、悲しいわぁ。あんさんと仲ようしたいと思うとりますに。何もかも拒むのはあかんえ?」

「ええい黙れ薬袋。貴様に構っている暇など、私には無いのだ」

「そんなら、部下を助けに走ればよろしおす。ウチは先に戻りますよって」


 リクルガと呼ばれた男は舌打ちを響かせると、目の前の崖から空中に身を投げ出した。

 そして、波を立てながら海の上に降(ヽ)り(ヽ)立(ヽ)っ(ヽ)た(ヽ)。

 そしてすぐに崖上を見上げた。

 薬袋と呼ばれた女が身を乗り出しながら、何かを崖から投げ捨てたのを見た。

 日の光を反射しながら落ちてくるその物体、その形がはっきりと見えたとき、リクルガは水面を蹴って、その物体の着水点に跳んだ。しかし、その物体には手が届かず、着水した物体は沈んでいく。


「くそっ……あの女……」


 リクルガは水面地魔法を解除し、海に飛び込む。

 騎士甲冑を着たまま海に潜るなど、自殺行為にも成りかねないが、リクルガには迷っている暇はなかった。何とか沈んだ目当ての物を見つけると、それを拾い上げ、一息に浮上する。


「はあっ、はあっ、はあっ」


 比較的平らな岩の上に這い上がり、荒い息を整える。そして、海底から拾い上げたものを眺めた。

 さっきまで腰にさしていたはずの先祖伝来の宝刀アポルオン。

 あろうことかあの女はそれを海に投げ捨てた。リクルガに気取られないような圧倒的な力量差をもって何の理由もなく、ただリクルガで暇を潰すためだけに。


「あの女、悪ふざけが過ぎる……!」


 忌々しげにそう吐き捨てたリクルガが見上げた崖上には、既に薬袋の姿はなかった。

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