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旧き理を背負う者‐エンシェントルーラー  作者: 立花詩歌
第3章『マルタ城砦』
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(4)『事情説明に窮する』(改稿済み)

「おい、アルヴァレイ! 何故、知らない間に1人増えているのか今すぐ説明してみろ!」


 できれば全てをここでさらけ出しても構わないのだが、壁際で剣(ティーアで折れたままのモノだ)を喉に突きつけられてたら口を開くことすら許されない。とりあえず命が欲しいです。


「言えないならお前はここで脱落だ」

「何からです!? ってちょっと待って下さいってば!」


 リィラをなんとか突き飛ばして、壁から離れる。その間にリィラは体勢を立て直していた。

 俺たちのいるここは、テオドール唯一の外泊施設の一室で、大抵が港から出る商船、客船の乗船者が出港までの日を滞在するために使われている。当然のごとく薬局(ウチ)には泊めてもらえなかったわけである。そもそも自分の家に泊まると言っている時点で半ば諦めが入っていたのがわかるだろうか。


「なら説明しろ」

「えっと、こいつはシャルルの家族のルーナで、黒き森(シュヴァルツヴァルト)にいて、実は旧き理を背負う者(エンシェントルーラー)なんですけど。実はベルンヴァーユなんですよ。シャルルを探してるって言ったら、一緒に行くって聞かなくて、一応止めたんですけれど、結局ついてきちゃったんですね。この説明で納得してもらえまし――――おいちょっと待て、なぜ剣を抜く」

「アイツはシャルルの家族なんだろう? つまり私の(かたき)だ」


 きょとんとした顔でなんてこと言いやがる。


「ちょっ……ちょっと待ってくださいってば! ルーナはあの夜、ずっと俺といました。ルーナは誰も殺してませんよ」


 リィラは構えた剣を下ろし、ふむ、とルーナを見る。その視線に気づいたのか、ヘカテーに話しかけられているルーナもリィラと目を合わせ、ぎこちなく微笑んだ。

 実際問題ずっと一緒にいたわけではないのだが、このままではルーナに危害が及ぶ。善良な嘘ということで許してもらおう。


「本当にベルンヴァーユなら、その姿を見せてもらおうか。おい、そこのルーナとやら! 今すぐ元の姿に――もがもが」


 一瞬の判断で勝手に手が動き、リィラの口を塞ぎにかかる。


「やるんなら俺と鬼塚が出てから服を一度脱いでやってください! 姿を変える度に服引き裂いてたらキリがないんですよ!」


 金にもそう言いながら俺が廊下に出た30秒後、リィラの叫び声と共に鬼塚が廊下に蹴り出された。

 乱暴に閉められるドアと内側から鍵を閉める音。そこまで信用ないのか、俺たち。中から聞こえてくる羞恥の悲鳴。もちろん、悲鳴の主はルーナだ。

 他の2人が悲鳴を上げるようなことは金輪際すらありえないと断言してもいいような気もする。

 肝が据わったと言うよりはむしろどうあっても揺らがない感じだが。


「あの2人と一緒にするんじゃなかった……」


 後の祭りも時既に遅し。

 30分間続いた悲鳴に周りからの目が痛々しくなってきた頃、俺と鬼塚の入室が許された。部屋に入るとルーナは床に座り込んでぐずっていた。


「……いったい何したんですか?」

「「身体中触って弄り倒し(まし)た」」


 2人揃ってハモりやがった。


「トラウマになりますよ!?」

「私は楽しかったからな」

「問題ないと思います」


 コイツらッ……。ルーナがあまりにも不憫だ。


「……この人たち……っぐす、嫌いです」


 ルーナはボソッとつぶやいた。


「ルーナ、あの2人にはあまり近づくなよ。それと面倒なことになりたくなければ、あの筋肉ダルマにも近づくな。色々と面倒を引っ張ってくるから」


 しかしあの2人と鬼塚を除けば俺しか残らない。できるだけ早く人に慣れ、そして人に溶け込む必要のあるルーナにとって、気安く話せる俺は訓練にならない。


「最悪、ルシフェルやヘカテーじゃない時のあいつとなら話してもいいや」


 と、ヘカテーの身体を指で指し示すと、ルーナは手をぎゅっと握り、


「……はい」


 既に身に染みて体感してしまったためか、その返事は相応の重みを持っていた。本人は望んでいなかっただろう。これは間違いなく俺の不注意なのにルーナは俺に怒りを覚えている様子はない。

 いい子過ぎる。


「それでリィラさん。船の方はどうなったんですか?」


 とりあえず2人の意識からルーナを外そうと、事前に頼んでおいた話題を振る。リィラには船の手配をしてもらったのだ。

 リィラは『問題ない』とばかりに胸を張り、懐から紙を取り出す。一瞬乗船切符かとも思ったのだが、ウチの職業柄見慣れたそれを見間違うわけもなく――、


「なんで荷札なんですか!?」


 大型荷物用と書かれたソレはどう考えても生物用のものではない。


「安心しろ。これは鬼塚の分だ」

「ああそれなら――ってダメですよ! 船の人に迷惑がかかっちゃうじゃないですか!」

「え? そっちなんですか?」


 ヘカテーのぼそっと呟くようなツッコミを無視し、


「こんな人がまともに4時間も待ってられるわけないでしょ! 内側から船ぶっ壊したらどうするんですか!」

「ああ、そうか。すまんな、アルヴァレイ。失念していた」

「納得するんですか……」


 ヘカテー、それは要らないツッコミだ。


「仕方ない。鬼塚も加えるしかないのか……」

「加える? 何をですか?」


 と訊くと、


「2日後にヴァニパル行きの商船が出るんだがな。その船の護衛、雇われの保険だな。普通なら一般人がやれるような仕事ではないが、私と鬼塚は一応エルクレスの軍人だからな。その権限で回してもらった」


 国を守る仕事をやっていないのに軍人は首にならないのか……?


「軍需品とは関係のない民間商船だから、いくらヴァニパル入りするからといってこの戦争の序盤で敵に襲われる心配もないだろう。あと怖いのは海賊ぐらいだが、まあ、賊ぐらいなら鬼塚もいることだし。正直なところ雑魚に興味はない。悪霊の名を聞けば勝手に逃げるだろうよ」

「私、悪霊じゃないんですけど……」


 それとその名を聞いて逃げるのは敵ばかりじゃないだろうな。

 リィラはすでに筋トレの世界に入っている鬼塚を一瞥し、嘆息して肩を落とした。鬼塚の存在意義を無理矢理くっつけるような乗船交渉になってしまったことなど、色々悔いているのだろう。

 気持ちがわかるだけに俺は同じ目で鬼塚を見た。鬼塚はそんな視線の中でも、それに気づいていないようで暑苦しい汗を流していたが。


「リィラさん、護衛は鬼塚だけにまかせられないんですか?」

「書類上はそうだが、まあ実でもそうしてくれと頼まれていてな。何事もないだろうが、人数が多いにこしたことはない。そう考えての要求だろう。ちなみに見返りに酒を要求したんだが、断られた」


 最悪な『ちなみに』だな……。


「当たり前です。護衛が呑んでるなんて話にならないってことぐらい、いい加減にわかってください」

「ふん、そんなものが守られる側の台詞か、忌々しい」

「雇う側の台詞です」

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