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旧き理を背負う者‐エンシェントルーラー  作者: 立花詩歌
第3章『マルタ城砦』
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(2)『3人の他人格』(改稿済み)

「弁解の余地もなく、叩き出されちゃいましたね。何か間違えたんでしょうか……?」


 お前を連れてきたのがそもそも最初から間違いだ。

 久々の我が家から弁解の余地もなく追い出された後、俺とヘカテーは何の気なしに港の方に向かって歩いていた。


「アルヴァレイさん……もしかして怒ってます?」

「…………」


 怒りが明らかに伝わるように、沈黙で答えてやる。ヘカテーはそれを感じたのか、殊勝な態度でうつむいた。

 両手の指を絡ませてみたり、その場で足踏みしてみたりと、落ち着かない様子を見せる。そして機嫌を窺うような上目遣いで俺をじっと見つめ、かろうじて聞こえるような小さな声でつぶやいた。


「私気まずいのは苦手なんです……。もしアルヴァレイさんが怒ってるなら、ルシフェルに変わり――」

「怒ってない」


 即答。即断即決。これが正しい選択だ。


「そうですか。よかったです♪」


 最悪の脅迫しといて、何言ってんだ。


「あの……アルヴァレイさん」

「何だよ」


 言い方が少しとげとげしくなってしまった気がするが、事実、そろそろヘカテーにも腹が立ってきていた。それが表に出たってだけだ。

 だから別に気にすることはない。そう思っていた。


「本当に――」


 ヘカテーが躊躇いがちにつぶやいた。


「は?」

「ううん、何でもないです。えと、時間、空いちゃいましたね」

「ん? まあ……そうだな」

「ちょっと世界滅ぼしてみましょうか」


 いや、その言葉は『ちょっとそこまで歩こうか』みたいな軽いノリで言うことじゃないと思う。


「…………行ってみるか」

「……世界滅亡計画ですか?」

「誰がするか。そうじゃない。黒き森(シュヴァルツヴァルト)だよ。知ってるだろ?」

「意外と未練がましいんですね」

「嫌な言い方だな。お前相当性格悪いぞ、ヘカテー」

「否、私、鳴けない小鳥、レジストハート。私、否定、ヘカテー御姉様」


 都合が悪くなったからって話が通じなさそうな奴出してきやがった。いや、話は通じる。話は通じるけど会話が通じにくい奴だ。

 鳴けない小鳥(レジストハート)といえば、リィラを治療した時の『シャルル』も同じようなしゃべり方で、同じようなことを言っていた。と言うよりあの時の『シャルル』は『シャルル』じゃなくて鳴けない小鳥(レジストハート)だったのか。


鳴けない小鳥(レジストハート)ってネーミングセンス無さすぎじゃないか?」


 意味知らないけど。


「貴方、失礼……。私、名前、意味する、『鳴けない小鳥』」


 鳴けない小鳥(レジストハート)は拗ねたように唇を尖らせた。

 どこからか取り出した大太刀を俺の鼻先に突きつけながら。


「はい?」


 驚いたと言うより、死んだかと思った。

 小さな手に収まったその大太刀は他を圧倒する存在感を有していた。

 しかし、その強大な存在感ですら、あの時、ティーアで感じたルシフェルの存在感に遠く及ばないというのだから、恐ろしい。


「とりあえず、その物騒なモノを下ろしてくれないか」

「違う。これ、私の鳥籠(マインケッテ)あるいは私の祭場(マインビューネ)。『十六夜月に(ブラッディ・)舞い散る紅蓮(シックスティーン)』」


 またよくわからない主張を始めたな。というか、別の言語なのだろう。さっぱりわからない。

 かと思えば、かろうじて意味のわかる時もある。


「面倒だな、鳴けない小鳥(レジストハート)って長いし。なんて呼べばいいんだ?」

奴隷(スクラーヴェ)

「は? 何それ、呼び名? 奴隷が? さすがにそれは……」

「代案。人権剥奪者(ハウズティーア)

「最初にそう呼んだ奴今すぐ出せ」


 ハウズティーアとは要するに家畜のことだ。


「ルシフェルお姉様、否定、応答。貴方、不可能、会う、ルシフェルお姉様」


 次あいつが出たら1発殴ってやろう。


「なんか別の呼び方考えなきゃな……」

「私、否定、感じる、必要性、呼び名。何故、貴方、気にする?」

「なんか可哀想だからな。鳴けない小鳥(レジストハート)なんて物扱いされてるみたいだし」

「…………あぅ」


 ちょっと待て、何故そこで顔中真っ赤にして、後ずさる。

 俺がなんか恥ずかしくなるようなこと言ったみたいじゃないか。

 まあでも、ルシフェルやヘカテーよりはまだわかりやすくていい奴かな。むしろ、あいつらより性格の悪い奴を今のとこ知らないし、これから一生涯知りたくもない。

 とりあえず、まともな奴とは早めに仲良くならなければ。となれば、やることは単純だな。


黒き森(シュヴァルツヴァルト)に行くか?」

黒き森(シュヴァルツヴァルト)……?」


 人差し指を頬に当てて、思案するような表情になる鳴けない小鳥(レジストハート)。きょとんとしているようにも見えるから、何を考えているのかわかりづらい。

 大太刀を右手に持ったまま、上の空でぼんやりとする少女。そして、その正面にいるアルヴァレイは周りからどんな目で見られているのだろう。


黒き森(シュヴァルツヴァルト)……?」


 首を傾げる鳴けない小鳥(レジストハート)。そして、上を見上げた。


「私、喚ぶ、シンシア」


 そう呟いた。


「はっ、ここは? 先ほどまでエヴァ姉様と無限しりとりに興じていたはずなのに!? まあ、そんなどうでもいいことはおいといて、久しぶりのシャバの空気にハイになってもいいですか?」


 また、はっちゃけた奴出たな。


「誰だ?」

「ガーン、と思ったけどそういえばまだ初対面ですね。私は貴方のこと知ってますけど、貴方は私のことを知らない……はっ。これがあの優越感というものですか?」


 正直コイツが誰かはおいといてかなり鬱陶しいって性格だってことだけはわかった。


「うるさいです、人権剥奪者(ハウズティーア)姉様。黒き森(シュヴァルツヴァルト)に行けばいいんですよね? わかってますってば」


 お前も人権剥奪者(ハウズティーア)って呼ぶのか。それならそれでやることは簡単だ。


 ドカッ。


「私……なんで殴られたんですかね?」


 頭を両手で押さえながら涙目でつぶやく少女と腕を振り下ろした少年の姿がそこにあった。


「ルシフェルを最初に殴るはずだったのに、初殴りをお前に使っちまったじゃねえかっ」

「私、何で怒られてるんですかね? そして初殴りって何なんですかね?」

「お前が名乗らないこととか、優越感って言ってることとか色々気にはしてたが、そんなことより鳴けない小鳥(レジストハート)のことをそんな風に呼ぶことに腹が立った」

「じゃあ貴方はどう呼んでるって言うんですか!?」


 逆ギレされた。


「えっと……」


 さっきの話題とは言えいきなり振られると思いつかないな。

 俺は頭を高速回転させつつ、これまでの人生で目にしてきた女性名という女性名の全てを思い出そうとする。


「アリス」

「原型とどめてない上にアリスは既にもういます」


 そうか、もういるのか。


「じゃあ……シンシア」


 どっかで聞いたことがある名前だから。流用させてもらおう。


「喧嘩売られてますか、私!? 結局原型とどめてない上に、それは私の名前です!」


 じゃあ……。


「ティーア」

「言葉の酷虐です。人権剥奪者(ハウズティーア)姉様可哀想です」

「ああ、そう言えば悪魔の山(トイフェルベルク)がティーアだったな今回は完全に俺が悪い。けど、お前の方が酷いだろ」

「ルシフェル姉様が言っていたので、悪いのはルシフェル姉様です」

「ルシフェルが酷い性格してるのは同意同情するけど、責任転嫁かお前。じゃあ……少し変えてティアラなんかいいんじゃないか?」

「正直、名前なんか贈られたら姉様が名前に縛られそうで怖かったりもするんですが、まあ私じゃないのでいいですかね。ぴったりかと言われれば首を傾げかねるかもしれませんが、鳴けない小鳥(レジストハート)人権剥奪者(ハウズティーア)よりは言いやすいです。そろそろ、えっとティアラ姉様が怒ってるので、そろそろ行きますね」


 シンシアが腕を右から左に振ると、その下に魔法陣(ルーント)が広がった。


「おい、これって」

「黙ってとくとご(ろう)じろ」


 記憶の中に似たような魔法陣ルーントが蘇る。

 そう、これは確かシャルルがあの時使った。俺が最初に黒き森(シュヴァルツヴァルト)に行った時のあの空間転移魔法(テュアシュトラーセ)の陣だった。シャルルが一生懸命に描いていたあの古い文字も全く同じだった気がする。


「私は人の記憶を読み取り、『魔法構成の一部始終』をすぐに展開することができる能力を保有していますから」


 『魔法構成の一部始終』。

 魔導師がよく使う専門用語で、魔法を行使するに当たって、必要な手続きや条件のことで、それらが全て揃っていなければ、魔法を使うことはできない。

 例えば、普通なら大規模だったり、複雑だったりする魔法は綿密な計算と大変な労力をかけて、物理的に何かに描かなければならない。

 シンシアが言っているのは、それを書く必要もなく、描いてある状態を再現するということだ。

 そして、その『一部始終』の中に含まれる『魔法の行使条件』。

 それすらクリアしてしまうと言うのなら、ただ事では済まない。

 例えば『夜にしか使えない魔法』を使う時は、見渡す限り全てを夜に変えてしまうということだ。

 それらの条件には『魔法行使の才及び技術の保有』や『魔力残量の充分』も含まれているらしい。

 ありえない話だ。一年前の俺、信じられないだろうがこれが現実らしいぞ。

 つまり、絶句。


「行きましょうか? 黒き森(シュヴァルツヴァルト)の奥の奥まで」


 シンシアが微笑むと、俺と彼女の姿は紫色の光に包まれて消えた。

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