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旧き理を背負う者‐エンシェントルーラー  作者: 立花詩歌
第2章『ティーアの悪霊』
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(16)『帰着』(改稿済み)

『私ならこの状況を一言で変えられますよ♪ どうしますか? 助けて欲しいですか?』


 ヘカテーはくすりと微笑んで、俺の返事を待つように黙り込む。

 少し悩んだ末、リィラと鬼塚に気づかれないように小さく頭を縦に振るとヘカテーはその答えを待ちかねていたかのように間髪入れず、『任せて下さい♪』とばかりにウィンクを返してくる。


「あの……」


 沈黙を破り、ヘカテーがそろそろと手を挙げる。

 手を挙げる……!? ちょっと待て、さっきちゃんと縛ったはずの右手がなんで自由になってんだよ!


「リィラ=テイルスティングさんですよね。いいこと教えてあげましょうか?」

「黙っていろ。気安く呼ぶな、悪霊」


 リィラはヘカテーの言葉を一蹴する。が、ヘカテーはその拒絶を意にも介さないというように、


「いいコト……聞かないと後悔しますよ?」

「黙れと言っているのが聞こえないのか……」


 よくよく考えれば、話がこんがらがったそもそもの原因はヘカテーの中にいるルシフェルだ。人格が違うとは言え、リィラはその辺りの事を少なくとも良くは思っていないだろう。


「私は貴女が一番知りたい情報がわかるんですよ?」

「……黙れ、人外(バケモノ)が……」

「フフ、つれないですねぇ♪ 私は親切で言おうとしてるんですよ? まあいいです。もう頼まれちゃいましたし、そもそも貴女の反応を見たいから話を引き伸ばしてるだけでしたし」


 笑顔でさらっと黒いことを言うヘカテー。確かに彼女は一言で変えられるって言ってたな。


「勝手なことを抜かすな、下衆が!」


 妖しい笑みを浮かべたヘカテーに向けられた刺々しいリィラの口調が耳に残る。

 しかし、その直後――


「私にそんな口をきいていいと思っているんですか? シャルルちゃんの場所、わかるんですよ♪」

「な……ッ!」


 コイツっ、いきなり重要な情報をカミングアウトしやがった!


「貴様ッ……!」


 リィラは馬鹿力でテーブルを叩き割り、ヘカテーに詰め寄った。


「どういうことだ!」

「ふふっ――黄金郷の鎖は無関係アンチェインド・チェイン


 ざらざらざら、とヘカテーの黄金の鎖が、勝手に解かれていく……!?

 あの鎖、ただの鎖じゃなかったのかよ! 縛る意味なんかねえじゃねえか!


「正確に言うなら、『わかることができるかもしれない気分になる人格がいた気がする』ってだけですけどね♪ あれ? 怒りました?」


 リィラの折れた剣がヘカテーの首のあったところを薙ぎ払う。それを紙一重で軽々とかわして見せたヘカテーはくすっと微笑むと、


「よく見えますよ。典型的な騎士剣術通りの剣筋も、何の面白味もない運足も……焦っている貴女のコ・コ・ロ・も♪」

「くっ、化け物め!」


 感情を激しく露にしつつも剣筋は冷静なままだ。ちょっと待て……それどころかさらに剣速が上がってないかっ、アレ……?


「ふふっ、なかなか当たりませんね♪ そんな腕でよく騎士なんか務まりましたね、リィラ=テイルスティング、ご令嬢♪」

「ッ……!? 貴様、私を知っているのか!?」

「いいえ。興味がないですから知りませんよ? ただエルクレスのテイルスティング家と言えば有名ですからね。それなりにそれなりの意味で。まぁ興味ありません、ケ・ド♪」


 さっきから薄々感づいてはいたけど、ヘカテーってルシフェルよりよっぽど性格が悪いよな。というよりも性質(たち)が悪い。

 もしかしたらコイツが事態収拾を切り出したのも、面白いことを求めてたからなのかもしれない。となると、短絡的に任せるべきではなかったと今さらながらに後悔する。


「面白いですね、貴女は。心がコロコロ揺れ動いて、見た目通りの心ではないようですし」

「黙れっ、黙れっ!」


 ヘカテーはリィラが横薙ぎに振るった剣を屈んでかわし――ヒュッ!

 さながら瞬間芸のごとくリィラの背後に回ったヘカテーはその首に抱きつくように腕をまわし、その耳元で何事か囁いた。

 その瞬間、リィラの目がハッとしたように見開かれ――剣を取り落とした……!? あのリィラが……。


「貴さっ……何故それを……」

「何故でしょうね、フフッ♪」


 くすっと微笑んだヘカテーが俺に向かってウィンクしてくる。


(何だ……? いったい何を言った?)

「ついてきて、くれますよね? リ・ィ・ラ・さん♪」

「何故だ……? 貴様らは何故私にこだわる!」

「私は別に貴女個人にはこだわってないですよ? 正直なところただの人に興味はありませんし、アルヴァレイさんがどうしてもって言ったのでお手伝いしてるだけです」


 さらっと何言ってんだろうね、この人外は。その言い方だとリィラに睨まれるのは俺じゃないか……。

 ヘカテーは自分の言葉を切ると、援護射撃を請うような視線を向けてくる。


「えっと……リィラさんは強いですし、一緒にいてもらえると心強いです」

「いっ……きなり何を言うかと思えば……」

「あ、今心動きましたよ、アルヴァレイさん」

「なっ、きっ、貴様はさっきから何をッ……ええい、放せ!」


 ヘカテーを振りほどこうとするリィラ。

 だが、ヘカテーはその直前にするりと抜けて、首にかけていた小さな首飾りを引き出していく。その先から出てきたのは……鎖、金の鎖の破片だ。

 そしてヘカテーはそれを首から外し、リィラに見せるように掲げると――


「リィラ=テイルスティング、いつまでも強情を張ってないで私やアルヴァレイさんとか、えっと、鬼塚さんでしたか? 鬼塚さんと仲良くしましょう♪ 一緒に旅をしてみるのも面白いと思いますよ?」


 ゾクッ。

 何だ、今の感覚。肌の表面がピリピリと痺れるような、そんな感覚だった。


「わかった。貴様らとあの魔女を探す旅を続ける。それでいいだろう」

「え!?」


 リィラが意見を覆すなんてなかなかあることじゃない。


『何をやったか、気になりますか? 別に教えませんけどね。私は『人形師』って呼ばれてた時代があるだけですよ』


 頭の中でヘカテーの声が響く。

 『人形師』、どういうことだ? あの鎖には何かあるのか?

 そう問いかけるように考えてみたが、ヘカテーからの返答はなかった。


「はっはぁ!! この俺にやっと弟子入りする気になったか!!」


 鬼塚の巨体が壁をぶち破り、壁の向こうの廊下に消える。


「アルヴァレイ……せめて鬼塚を除いた3人にしないか?」

「奇遇ですね。今ちょうど俺もそう思っていました」


 『鬼塚の戦闘力の期待値<鬼塚の馬鹿による被害』


 世界の根本に根ざす摂理の一端を悟った気がした。

 なんて素晴らしい大小関係式。素晴らしければ必要とされると思うなよ、世界の摂理。


『不自然を感じる必要はないですよ。ありのままの彼女を受け入れてあげて下さいね♪』


 再び響くヘカテーの声。

 そうは言っても、不自然だろう。まるで今までの遣り取りのほとんどを無理やり無視したかのようなリィラの不自然な態度。ヘカテー=ユ・レヴァンス、コイツいったい何をした!?


「さて、行くかぁ!!」


 いつの間にか戻ってきた鬼塚は、ものすごい勢いで空を裂き、地面に触れることなく元の方向に戻っていった。

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