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旧き理を背負う者‐エンシェントルーラー  作者: 立花詩歌
第2章『ティーアの悪霊』
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(15)『鬼塚の暴論』(改稿済み)

「殴るぞ、鬼塚ぁっ!」

「もうお約束のお馴染みですが、もう殴ってますよ、リィラさん」


 しかし彼女が怒るのは無理もない。鬼塚の言った『妙案』はそれほど問題だった。


「ふざけるのも筋肉だけにしろ鬼塚! そろそろいくら私でも我慢ならん!」


 どの辺に我慢があったのか説明して貰いたいものだが、あの2人の間に割って入るつもりはない。どうなるかは目に見えて、身にしみてるからだ。


「私と『悪霊』がお前らと共に行くという考えがどうして出てくる!?」


 そう。

 鬼塚の妙案とは俺・リィラ・鬼塚の現仮ギルドメンバーに『悪霊』を加えたその4人でシャルルを探す旅を続行する、というものだったのだ。さらにリィラの怒りを買ったのは、鬼塚の思考がそんなところに墜落した理由にもことさら重ねて問題があったからだ。


「共に戦えば、筋肉同士の友情が芽生えるだろう! 筋肉の関係は切っても切れず! 些細なことなど欠片も気にならなくなるのだからな、フハハハハハッ!」


 論理性の欠片もない。

 鬼塚の『妙案(?)』には明らかに大切な事実が2つも抜けているのだ。

 リィラと俺は互いに相手を騙していたが故にこのまま道を共にしても気まずいだけ。俺も似たように騙していたのだから特に気にするつもりはないのだが、リィラの方はそうもいかないだろう。

 そしてヘカテーは『悪霊』ルシフェルの人格を蔵している。ヘカテーは『ルシフェルの人格が表に出るのは私の方から抑えられますよ』と言っているが、そもそもヘカテーのこともよく知らないのだ。危険を警戒する意味ではこれも十分に問題だ。


「馬鹿馬鹿しい! 私がそんな資格を持っていると思うか!?」

「うむ、それなんだが。俺の目から見る限り、貴様の筋肉は中々のモノだ。よって資格は十ぶ――」


 振り下ろされたリィラの鉄拳によって鬼塚の言葉が途切れ、座っている椅子と一緒に叩き潰された。


「誰が筋肉の話をしているか!? ええい、話が通じん!」


 床に転げ落ち、訳がわからん、とつぶやいて、頭を掻く鬼塚。


「こうすれば、万事解決ではないか。何を躊躇うことがある」


 鬼塚の頭ではどの辺からどの辺りまでが万事にあたるのか、それが問題だ。


「それができれば苦労はしないわ!」


 鬼塚が椅子の残骸もろとも、部屋の隅に転がった。その時、鬼塚が不敵に笑った。無茶苦茶似合わない。


「しかし、そうしたいとは思っているのだろう? 俺や小僧と共に旅をしたいとは」

「う……っ」


 リィラが目を泳がせる。

 その短い間に鬼塚は復活し、どこからか持ち出してきた椅子に腰かけた。

 性懲りもなく、リィラの隣にだ。


「『悪霊』、貴様はどうなのだ?」


 鬼塚はヘカテーに話を振った。


「一応言っておきますと、私は悪霊じゃありませんからね。ティーアの悪霊っていうのはルシフェルのことですから」


 澄ました顔でわざわざ訂正してから、ヘカテーは俺を横目でちらりと見てきた。

 何だ……?

 そして、鬼塚に向かって口を開く。


「私は同行するのも面白いんじゃないかと思ってます。引き込もってたせいでなかなか退屈でしたから」

「つまり、貴様は同行してもいいということだな、悪霊」

「ヘカテーです」


 鬼塚が話し合いの場を仕切ってるのを見ていると、なぜだか腹が立ってくる。

 とは言え、このシビアな問題を簡単(?)に仕切れる能天気さは、ある意味うらやましいものだ。特に今みたいな状況になると、しみじみ思い知らされる。

 その意味では鬼塚に感謝しなければならないだろう。


「さて、お前はどうする、小僧」

「アルヴァレイです」

「気にするな小僧。で?」

「俺は……」


 嘘をついても仕方がない。どうせさっき一度失敗したことだ。


「俺としては、リィラさんには一緒に来て欲しいです」


 俺の答えを聞いて、リィラはテーブルをバンと強く叩いた。


「お前もふざけているのか。私にそんな真似はできん。ただでさえ生き恥をさらし、お前を騙していた私は……私に何をしろと言うんだっ……」


 リィラはうつむいてしまった。


「テイルスティング。お前は小僧に恨みがあるのか?」


 鬼塚は唐突にそう訊いた。

 それに対してリィラはばっと顔を上げ、涙に潤んだ目を鬼塚に向けると、


「そんなわけないだろう! 私はあの『魔女』にのみ刃を向ける! アルヴァレイは……何も関係ない……!」

「しかし貴様と『魔女』の問題に小僧を巻き込むのはいただけんな」


 鬼塚はそう言い放った。

 リィラは雷に打たれたかのように、よろめき、ゆっくりと後ずさる。

 まさに極論。これぞ暴論だ。

 論理的には破綻しているが故に普通の場では見向きもされないが、今この場においては、精神的に不安定になっているリィラにのみ絶大に有効だ。

 この言葉はリィラの目の前に小さな妥協という名の逃げ道を作る。


「私は……私は……」


 リィラは心を揺さぶられ、落ち着きを失っていた。

 というかシリアスなシーンでこんなことを考えるのもあれだけど、鬼塚は結局馬鹿なのか馬鹿じゃないのかがはっきりしない。もしかしてある種の天才なのだろうか。


「私は、どうすればいい……」

「俺の弟子に――」

「死んでも断る」


 ただの馬鹿だった。

 鬼塚はまたしても椅子と一緒に叩き潰されて床に転がる。さらに追撃の裏拳で壁に叩きつけられていた。

 リィラのそんな様子を表せるような言葉があった気がする。

 えっと、ああ、そうだ。


「照れ隠――」


 瞬間、顔の横を細身の折れた剣が通りすぎていった。

 凶悪な殺気に口をつぐむ。


「黙っていろアルヴァレイ」


 カンッという音に振り向くと、リィラの剣が、壁に対して垂直に突き立っていた。

 あの剣折れてたよね? 折れた剣が壁に刺さるなんてことが本当にあるのか?


「さあ、テイルスティング。どうする? 貴様はどうしたいのだ?」


 鬼塚は壁に新しいひびを作りながら、リィラに向かって問いかける。

 しかもこの話法も巧妙だ。混乱して考えがまとまらない奴に対して追い討ちをかけるように同じ質問を重ねると、人間ってやつは正常な判断ができなくなるからだ。

 そうなると半ば言いなり状態になる。

 部屋の中が緊張で沈黙する中、リィラは悩んでいるようだった。


『ちょっといいですか、アルヴァレイさん』

「っ!」


 唐突に頭の中に声が響いた。

 ハッと隣を見ると、ヘカテーが悪戯っぽい笑みを浮かべて俺を見つめている。その目は面白そう、と語っている。

 自重しろ。

 そう視線に乗せて送ったつもりだが、ヘカテーは何も気づいていないようだった。あるいは気づかないフリをしているか。


『私が助けてあげましょうか? アルヴァレイさんはこのまま旅を続けたいんですよね? それなら任せてください。私がなんとかできるかもしれません♪』

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