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旧き理を背負う者‐エンシェントルーラー  作者: 立花詩歌
第2章『ティーアの悪霊』
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(14)『馬鹿は語る』(改稿済み)

「鬼塚、筋肉の分際でこの私にそこまで言ったんだ。よほど貴様らしくない大した考えがあるんだろうな。今なら事と次第と機嫌によっては殴らずにおいてやるから、遠慮なく言ってみろ」


 この人の場合、機嫌を含めてしまうと心中殴ることは確定している。

 一般的な人にもわかるように翻訳すると『殴るのを先伸ばしにしてやるから言いたいことがあるなら言え、聞くだけは聞いてやる。顎が砕けていては人語を話すだけでも差し支えるだろうからな』となる。

 なんて無茶苦茶な。

 まったくどうしてこんな唯我独尊な人がどうして騎士団なんて組織に所属できたんだろうか。エルクレス軍がちょっと心配だ。


「うむ、ならばとくと聞け。声高に直々に教えてやろう。あれは俺が小僧に言われて部屋を出てからのことだった」

「おいアルヴァレイ。何故この馬鹿は突然回想を語り始めたんだ?」

「俺にわかると思いますか?」

「まず俺はナンセイを探していたのだ。ところで小僧、ナンセイとは何なのだ?」

「おいアルヴァレイ。珍しく疑問が先に出たせいで話が途中で途切れたんだが」

「果てしなく迷惑な思考回路してますよね。後で教えてやるから話を続けろ、筋肉」

「ぬ、そうか。俺は城を出たところで思い立ってな。テイルスティングのいる部屋を探そうと思ったのだ」

「おいアルヴァレイ。そこで城を出たまま戻らなきゃよかったと思わないか?」

「全くもって同意です」

「何か言ったか、貴様ら」

「いいから続けろ、筋肉」

「うむ、それで俺はとりあえず小僧と悪霊のいた部屋まで戻った。そこで小僧たちの話をスクワット聞きしていたのだ」

「お前は普通に立ち聞きできんのか」

「む、何か言ったかテイルスティング」

「いいから続けろと言っただろう、いちいち話の腰を折るな」


 話の腰を折っているのはどちらかと言えばリィラの呟きだ。


「む、すまん。それで悪霊の話を聞いている内に大体の事情は察することができたのでな。貴様の部屋を探し当て、事情を説明したのだ」

「「筋肉神との戦いは何処いった」」


 リィラと台詞が重なるなんて鬼塚に対するツッコミの時ぐらいしか覚えがないが、なかなかその法則から逃れられない。


「む、違ったか?」


 首を傾げる鬼塚。ダメだこいつ。

 リィラもこれ以上のツッコミは諦めたらしく、木製の椅子に深く腰かけて足を組み、腕組みをして鬼塚の言葉を待つ。

 俺もその態度を見習おう。

 リィラは仮にも年上、しかも俺みたいな子供とは違うのだ。こんな人でも少しくらい処世術を身につけているはず。


「その目は無礼なことを考えている目だぞ、アルヴァレイ」


 俺が思わず目を逸らすと、再び静寂が空気を支配する――静寂?


「おい、鬼塚。まさかそれで終わりなんてことはないだろうな」


 リィラもほぼ同時に同じ疑問を抱いたのか、俺が言おうとしていたことと全く同じ台詞を代弁してくれた。


「終わりだぐうぁっ!?」


 鬼塚の腹にリィラの拳が食い込んだ。

 さっきまで極度の貧血で瀕死の直前をかすめていた人とは思えない拳速。

 この人の胃には食べ物を直接血に変換し血管に補充する能力でもあるのだろうか。


「貴様がいい考えがあるからとりあえず人の話を聞けと言ったんだろうが!」

「明言はしてませんがリィラさんの思考回路ならそう解釈しかねない発言はあったような気もしますね」

「む? いい考え? 何か考えなければならんことでもあるのか?」


 ブチッ。

 頭の中で警報が鳴り響く。俺は瞬時に脇にあった小型の丸テーブルを抱えて盾のように持ち、部屋の隅へ避難する。

 その間にもリィラは一瞬で背後をとった鬼塚の首に腕を回し、ギリギリと締め上げていた。

 よかった……。今回は比較的静かなパターンのキレ方のようだ。

 しかし安心したのも束の間、鬼塚の首に回した腕を軸に一回転して前方のテーブルにガンッと飛び乗ったリィラは鬼塚の後頭部をむんずと掴み、


「私がッ!」


 同時にガンッと鬼塚の頭をテーブルに叩きつける。


「アルヴァレイとッ!」


 またガンッ。


「旅をッ!」


 またまたガンッ。


「続けるッ!」


 またまたまたガンッ――って……え?


「ほ・う・ほ・う・だァッ!」


 『・』で区切る度にガンガンと石頭(オニヅカ)を叩きつけられた木製テーブルは、最後の『!』の最大の一撃で木目に沿ってバキンッと割れた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「あの……リィラさん?」


 ビクゥッ!

 俺が声をかけた瞬間、リィラの肩が小動物的に跳ねた。同時に鬼塚が物理的な掌握から解放され、木片と共に床に沈む。


「ち、違うからな! 別に私がお前を好いているなんてわけじゃない! 鬼塚が要らないから必然的に2人になってしまうわけでそういうことを言いたかっただけで!」


 顔を真っ赤にして全力否定するリィラ。


「もしかしてリィラさん……俺らと一緒の旅、続けたいんですか?」

「なっ……!? そんなことができるわけないだろう! できるはずがない! そんなことがっ……そんなこと……」


 ガシャアッ。

 テーブルに比べて恐ろしいほどダメージのない鬼塚がテーブルの残骸から起き上がった。既にタフとかそんなレベルじゃなくなっているのはいつものことだが、纏っている空気とか雰囲気に当たる何かが違っているような気がする。


「テイルスティング……。貴様も存外面倒な性分だな」

「黙れ、鬼塚……」

「そういうことなら俺に妙案がある」


 と無駄に白く輝く歯を見せてニッと笑い、サムズアップを決めてくる鬼塚。次の瞬間にはリィラの回し蹴りを脇腹に極められて部屋の壁に激突していた。


「鬼塚。貴様、さっきも似たようなことをほざいておいて何もなかっただろうが」

「ふっ……テイルスティングよ。さっきはさっき、明日は明日だ!」


 今は何処に行ったのやら。


「訳のわからんことを言ってごまかすな」

「ならば見るがいい、我が妙技!」

「妙案は何処に行った」


 リィラは両腕を何やらウネウネさせ始めた鬼塚に裏拳を極めると、鬼塚は吹っ飛びつつも珍しく受け身をとって木製の扉ごと廊下に飛び出した。


「さぁついてくるがいい、テイルスティング、小僧。あの悪霊にもちっとばかし用があるのでな!」

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