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旧き理を背負う者‐エンシェントルーラー  作者: 立花詩歌
第2章『ティーアの悪霊』
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(7)『仮初めの再会』(改稿済み)

「鬼塚。お前に任せた」

「よし、任せろ!」


 何をなのかわかっているのだろうか。

 鬼塚は走り出し、瞬く間に懐に潜り込むと、その腹辺りで思い切り腕を振りかぶった、瞬間――グヴォオオオオオオオオオオオオオッ!

 突然日が陰り、さっきとは比べ物にならない轟音が俺たちを襲った。

 前からではない、はるか上方からだ。押さえつけるような激しい空気圧に姿勢を崩される。


「嘘……だろッ!?」


 鏃尾竜(リンドヴルム)。それもさっきのとは比べ物にならない。体高は7,8メートルある。体長はもう目測できない。広げた翼にも無数の小さな穴があき、甲殻も一部傷がついている。

 歴戦の覇者の証のようだ、と俺が思った瞬間――――ゴキッ。


「うぉぶぐぁっ!」


 心なしか鬼塚の身体が不自然に曲がっているような気がするが、大丈夫か……?

 リィラは鬼塚の巨体を軽々と肩に担ぎ上げると、ものすごい速さで山の斜面を駆け下りはじめた。


「アルヴァレイ、お前も早く逃げろよ!」


 さっき置いていけないって聞いたように思ったばかりなのに、あれれ?

 何はともあれ、リィラの後をついて走る。


「最初にいた方って、まだ子供だったんですかねぇ!」

「たぶん後のほうが親だったんだろうさ!」


 走りながら後ろを振り向くと鏃尾竜(リンドヴルム)は追いかけてきていた。もちろん大きい――たぶん親――方がだ。

 身体の構造上、バランスがとりにくそうだったので、走るのは苦手と推測していたが、どうやらそうでもないらしい。

 鏃尾竜(リンドヴルム)に踏みしめられた地面が次々と砕け、どんどん地形が変わってゆく。


「もっと速く走れ! 追いつかれるぞ!!」


 リィラがそう叫んだ。

 確かに追いつかれたら最後だ。死は免れない。

 だが、ただでさえ足場の悪い山道。これ以上に速く走ったら、間違いなく足をとられて派手に転んでしまう。

 その時だった。

 必死に走る俺の横を前方から来た誰かがすり抜けていった。一瞬、リィラかとも思ったがあのシルエットは……見たことがある。

 白いローブマントを着た小さな影。その金髪の間から覗くピンと立った耳。

 どこかで見たことのある格好だと思った。


「……ちょっ、えっ?」


 逃げているのも忘れ、立ち止まりつつ振り返る。ずっと探していた姿によく似ていたと思ったからだ。


 ズズゥウウウンッ!!

 その瞬間、地響きがした。

 鏃尾竜(リンドヴルム)の片翼が根元から引きちぎられ、地面に落ちたのだ。

 当然その動きは止まっていた。

 目を見開いたまま、突然の激痛の原因を探している様子だった。


「は?」


 俺が見た鏃尾竜(リンドヴルム)の姿。

 片翼をもがれ、両足を引きちぎられ、無数の鱗や甲殻さえもところどころ剥ぎ取られて、地に倒れ伏し、もがいていた。体中を切り裂かれ、傷口からどくどくと赤い血が流れ出している。

 そして、その頭部の近くに彼女は立っていた。


「シャルル?」


 彼女、シャルルは俺には振り向かず、息も絶え絶えの鏃尾竜(リンドヴルム)の鼻面に抱きついた。

 そして、震える声で一言つぶやく。


「ごめんなさい」


 鏃尾竜(リンドヴルム)は口の端から火花を散らし、黒煙を噴き出す。そしてまぶたが自然に下がり、動かなくなった。

 その言葉とは裏腹に惨い殺し方だと思った。

 しかし、それは一瞬よぎっただけですぐに忘れてしまった。

 10メートルを超す巨体を持つ鏃尾竜(リンドヴルム)が、俺とすれ違い、振り向くまでの短い間にボロボロにされたのに。


「シャルル……!」

「近寄らないで! アルヴァレイさんは……何で……どうしてあなたはここにいるんですか?」


 シャルルは冷たく言い放つ。


「聞いてくれ、シャ――」

「私は、また殺しました。成竜すらも簡単に殺してしまえるような化け物なんですよ。何度言えばわかってくれるんですか……。アルヴァレイさんは私なんかと関わらないほうがいいんです。今すぐにテオドールに戻ってください……。お願いです……から……」


 シャルルは何も変わっていなかった。

 自分勝手に自分が嫌われていると勘違いして、ことごとく俺を拒絶する。


「すぐに帰ってください。貴方には他にもいるべき場所があるんです……」


 シャルルは視線を落とした。


「馬鹿か、シャルル」


 そう叫んでいた。

 シャルルはびくっと肩を震わせて、顔を上げた。

 その頬は涙に濡れている。


「俺がシャルルのことなんか嫌ってるわけ無いだろ」

「嘘です……! 貴方もそうなんです……。私が化け物でおぞましいから。もう近寄らないでくれ……って、そう思ってるに決まってます! 貴方は……化け物じゃありませんから」

「嘘じゃない。俺はシャルルのことは大好きだよ」

「嘘……です……」


 確かに怖くないといえば、嘘になる。

 あの悲惨な夜のシャルルに恐怖を覚えたのは事実だ。

 あんなシャルルは見たくなかったし、近寄るのにも覚悟がいるような有り様だった。

 あの時のシャルルは怖かった。でも……。


「俺はシャルルの友達を辞めたつもりはないし、これまでも仲良くしてたつもりだったし、これからも仲良くしていたい」

「……ダメです」

「シャルル……」

「……ダメですよ。今はよくても、いつか私の近くにいることを後悔します。私はたぶん……また殺してしまいます。それに……夜になると、自分が抑えられないんです」


 シャルルの声がだんだんか細くなる。


「もしかしたら、アルヴァレイさんだって殺してしまうかもしれないです! だから、私とはいないほうがいいんです……」

「俺だって強くなった。シャルルなんかにそうそうやられないよ」

「寝てる間に襲っちゃうかもしれないのに!」

「むしろ襲ってくれ」


 不意打ちとか不穏な方とは別の方で。


「それに、シャルルだってあの時俺を殺せなかったじゃないか。殺せたのに」


 そう、あの夜が終わった次の朝。

 シャルルは俺を殺さないで立ち去った。殺すこともできたはずなのにそうしなかったのは、彼女がソレを望んでいなかったからなのだ。


「あれは……」


 シャルルの顔が真っ赤になった。

 おおかたあの時、自分が口走ったことでも、思い出したのだろう。

 シャルルが悶えながら、。


「そうじゃないです! そんなことじゃありません! 私といると危険なんです!」

「俺が守ってやる、イタッ」


 ポカポカッ。


「にゃ、にゃに言ってるんですかっ。私があぶにゃいんですっ!」


 猫みたいだった。尻尾がせわしなく動き、耳もぴくぴく元気に動いている。


「こらこら、自分が危ないとか、間違っても言うなよ。もっと大事なことは他にあるだろ?」

「大事な……こと?」

「お前、俺のこと嫌いか?」

「にゃ、にゃに言ってるんですかっ。そんにゃわけにゃいじゃにゃいですか!」


 定着させようとしているのかな。猫語。


「よかった。なら安心だ」

「えっ?」

「俺がシャルルを好きで、シャルルが俺を好きなら……」


 シャルルはきょとんとした顔で俺を見ている。

 突然、その目が輝き始め、顔を真っ赤にして、指で髪をいじってみたりし始めた。


「俺たちはまだ友達同士ってことだろ」


 シャルルに殴られた。痛ぇ。

 何で殴られたのかがわからない。

 なぜかシャルルは頬を膨らませて、そっぽを向いてしまった。

 でも、これでよかった。

 シャルルの硬かった表情は、いつの間にか和らいでいたのだから。

 これが今までのやり取りの成果だとすれば、なかなかのもんだ。


「アルヴァレイ、話は終わったか」


 リィラは歩み寄ってきて、そう言った。

 それに対してうなずくと、リィラはシャルルを指差した。


「そいつに聞きたいことがある」


 リィラの目が鋭く光った。


「では1つ目の質問だが。お前がシャルロット=D=グラーフアイゼン本人で間違いないな?」


 シャルルは気迫に気圧されたように、びくっとして後ずさる。


「は、はい……」


 震える声でそう答えたシャルルは俺の方に(すが)るような視線を向けてきた。


「そうか。では2つ目の質問だ」


 リィラは一拍置いて、その刹那に空気を凍りつかせるような言葉を、腰に差した刃と共に言い放った。


「なぜ殺したっ!」

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