【07】 無事故完走でケブラーズボン、3着以内でレース用シューズ
松木は、爽香が入所した日の挨拶を思い返していた。
『福島県から来ました速水爽香です! 母子家庭で育ちました。私の夢は、母に一軒家をプレゼントすることです。どんなに辛い訓練でも絶対に諦めません!』
(あれから一年……これまで多くの訓練生を見てきたが、こんなに素直でガッツのある奴はいなかった。ひいきは絶対にしない主義だが、この子だけは勝たせてやりたいと願わずにはいられないな)
松木は自分が父親にでもなったかのような錯覚を覚えていた。爽香には、周囲にそう思わせる不思議な愛嬌と強さがあった。
松木「完走できると思って高を括るなよ?」
爽香「大丈夫です! 絶対にやり遂げます!」
松木「よし、その意気だ。ところで……レース用のシューズは買ったのか?」
爽香「とりあえず一番安いのを買う予定です」
松木「そうか。じゃあこうしよう。もし一回でも3着以内に入ったら、連絡をくれ。最高級のレース用シューズをプレゼントしてやる」
爽香「本当ですか!?」
松木「ああ、男に二言はない」
爽香「すぐに3着以内に入っちゃったらどうするんですか?」
松木「ハハハハハ!」
松木が大声を上げて笑う。
爽香「何がそんなにおかしいんですか!」
松木「まあ、実際に走ってみれば分かるさ」
爽香「無事故完走でケブラーズボン、3着以内でレース用シューズ。いただきですね! 約束ですからね!」
松木「大丈夫だ、まだボケちゃいないよ」
爽香「本当ですかぁ? 最近ちょっと怪しい気がしますけど」
松木「ハハハハ!」
爽香「逆に、もし無事故完走できなかったらどうすればいいですか?」
松木「私には何もくれなくていい」
爽香「やったー!」
松木「ただし……」
爽香「ただし?」




