【04】 母親は、自分の子が一人前になるまで死ねないんだ
松木「賞金狙いじゃなく、一レースで釘一本買えるくらいの気持ちでコツコツ乗艇するんだ」
爽香「そんなペースじゃ間に合いません!」
松木「大丈夫だ。現に私もレーサー時代、現役のときに家を建てたんだからな」
爽香「それは教官の腕が良かったからですよ」
松木「いやいや、同期の中でも獲得賞金は少ない方だったぞ」
爽香「えっ、そうなんですか?」
松木「本当だ。A級になるのも一番遅かったくらいだ」
爽香「それでも家が建ったんですか?」
松木「コツコツ長くやったからな」
爽香「でも……そんなに時間がかかったら、母が死んじゃいます!」
松木「大丈夫だ。母親はそう簡単に死なん」
爽香「どうしてそんなことが言えるんですか?」
松木「母親ってのはな、自分の子が一人前になるまでは死ねないように出来てるんだよ」
爽香「教官のお母様もですか?」
松木「ああ、勿論だ。まだまだ長生きするぞ。何しろ息子がこんなだからな、ハハハハ!」
爽香「ふふふ……」
松木「その夢、絶対に叶えろよ」
爽香「はい、頑張ります!」
松木「よし。約束だぞ」
爽香「今日こうして卒業できたのは、松木教官のおかげです。本当にありがとうございました」
爽香の目から涙がこぼれ落ちた。
一年間の養成所生活で、松木教官には特に目をかけてもらった実感があった。同期で最年少、小柄な女性で力もない。何度も脱落しかけた爽香を救ってくれたのは、いつだって松木だった。
卒業成績こそ下から二番目だったが、同期の約半分が退所していった過酷な環境を考えれば、生き残ったこと自体が奇跡だった。




