【02】 養成所を卒業すれば食べ物にありつける
【回想の始まり】
それは卒業式が終わり、爽香が養成所の門を出ようとした時のことだった。
松木教官が歩み寄ってくる。
松木「ここまでよく頑張ったな。卒業おめでとう!」
爽香「ありがとうございます」
爽香は深く頭を下げた。
松木「正直、速水が入所した時は一番最初に脱落すると思ったよ。卒業は無理だとばかり思っていた」
養成所では定期的な試験があり、成績下位の者は容赦なく強制退所となる。訓練の過酷さに耐かね、自主退学する者も後を絶たない。
爽香「自分でも、いつクビになるか気が気じゃありませんでした」
松木「ここまで残れた一番の原動力は何だったんだ?」
爽香「ハングリー精神です」
松木「『ハングリー』か」
爽香「ウチは母子家庭で本当に貧しくて、ずっとお腹を空かせていました。学歴も知識もない私が生きていくには、これしかないと思ったんです」
松木「環境がそうさせたってことか」
爽香「はい。同期の子には笑われましたけど、食べる物がない辛さは本当に身に沁みていて……」
松木「なるほどな。戦前戦後の日本みたいだ」
爽香「人はよく『辛い』という漢字に一本足せば『幸せ』になるって簡単に言いますよね。じゃあ、その『一』の横棒はどこに落ちてるんだよって思ってました」
松木「うむ?」
爽香「宝くじですか? それとも大富豪との結婚ですか?」
松木「いや、それは違うだろうな」
爽香「私には、その一本の棒がボートレースの水面か、ボートの引き波に見えたんです。我慢して我慢して、ここを卒業さえすれば、その先に食べ物があるんだって」
松木「……」
松木は茶化すことなく、神妙な顔で耳を傾けた。




